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異世界のチートな萬屋店長~一寸神アナザーアフター~  作者: 秋華(秋山華道)
旅立ち編
22/64

海賊に奪われた輸送船団を取り戻せ

戦争は、守る方が有利と言われている。

待ち構えて迎え撃つ方が兵站に無理がないし、万全の状態で戦えるからだ。

だから攻める側は、守る側の三倍の戦力が必要とされる。

尤もアルカディアでは戦争の形も違っていたから、『主導権』を持っている攻撃側が有利だったりもした訳だけどね。

でも戦場がある程度特定されれば、普通は守る方が圧倒的に有利なのである。

日露戦争で日本海軍がロシアのバルチック艦隊に勝てたのは、戦場を特定でき待ち構える事ができたのが大きかっただろう。

バルチック艦隊は補給にも苦労させられたようだし、長い航海の中で疲れ果てたみたいだからね。

更に船に貝などがへばりついて船の航行速度も落ちていたとか。

戦いにおいての移動は、マイナスにしかならないのだ。

そういえば競馬で走る競走馬も、移動によって力を落とす事が云われている。

『移動や輸送は最短で』

これは戦いにおいて勝利の鉄則かもね。


この日俺たちはナマコの町を出た。

そして昼過ぎには北西にあるサンゴの町へと到着した。

ここもナマコの町同様に、港のある町である。

しかし雰囲気はまるで違っていて、活気があるというかとても騒がしく感じる町だった。

「なんだかとっても慌ただしいですね。この町の人は落ち着きがないのです」

「人が‥‥いっぱい‥‥」

「なんなのかしらぁ~?これから戦争でも始めるみたいよねぇ~」

天冉の感想は的を射ていると感じた。

ああ、なるほどそういう事か。

確か鬼海星王国は法螺貝王国からの侵略を懸念していた。

だから新巻鮭王国を傘下に収めようとしたのだ。

こりゃマジで戦争が近そうだな。

だけど少し違和感も覚える。

この町は最前線でもないのに、搬入される物資が異常に多い。

いや最前線だとしても多いだろう。

ナマコの町からここに来るまでにも、沢山の荷馬車がこの町へと向かっていた。

まるでこの町が既に戦場なのかと思うほど量が半端ない。

「法螺貝王国が戦争をしかけて来る可能性が高いからね。鬼海星としては戦争準備をしておく必要があるんだよ」

「それにしても物資が多いんだお。凄い数なんだお」

だよな。

一体どれくらいの規模の軍を動かそうとしているのか。

おそらく最前線の町は防壁もしっかりとしていて、そう簡単には落とせないし落とされないはずだ。

新巻鮭の王都と同程度の守りがあると考えても、これだけ物資を集める必要はないだろう。

となるとこれは‥‥。

「この量わぁ~‥‥。もしかして鬼海星から法螺貝に先制攻撃するつもりかしらぁ~?」

そういう事になるよな。

守るだけならこれだけの物資は必要がない。

しかし相手の要塞のような町を攻撃するとなれば、戦力は何倍も必要になるはずだ。

そしてこの町の様子を見れば、天冉のように考える者も多いだろう。

全戦力をもって攻撃に出ようとしていると。

それはつまり、法螺貝にも既に『鬼海星が先制攻撃をしようとしている』事を察知されている可能性がある。

「我はそんな話は聞かされていないな。だけど言われてみれば確かに多い。それにこれらの物資は船で国境の町『タコ』に順次運ばれているのではないだろうか。物資が港へと向かっているからな。本当にこちらから攻撃しようとしているようにも感じるぞ」

陽蝕も聞かされていない事なのか。

何にしても、鬼海星から法螺貝に攻め込もうとしているのなら、一旦取りやめた方がいいだろうな。

奇襲なら勝てる可能性は高くなるかもしれないけれど、バレていたらおそらく負ける。

元々国力は法螺貝が上だ。

だいたいこれから俺たちはそちらに向かう訳で、戦争に巻き込まれるとかマジやめてくれよ。

おそらくこのメンツなら巻き込まれた所でなんとかなるとは思うけれどさ。

殺しに向かってくる人に対しての対応となると、気分の悪い結果となる事だって考えられる。

「もしも本当にこちらから進攻しようとしているなら、我は止めなければならない。先にタコの町に行かせてもらって構わないか?」

この様子だとまだ進攻開始には時間的猶予はあるとは思う。

でも既にある程度の物資はタコの町に運ばれているだろうし、進攻できない状況でもなさそうだ。

念の為にそうした方がいいだろうな。

「構わないわよぉ~。それじゃ明後日には私たちも行く予定だからぁ~」

「悪い」

タコの町までは、道なりに行けば此処から二十キロから三十キロ弱だ。

陽蝕の足なら三十分もあれば到着するだろう。

だけど途中森もあるから、一人だと多少危険でもある。

大丈夫だろうか。

おそらくそれ故にサンゴの町からの物資は船で運んでいる訳だしね。

「この先には森があると聞きました。そこには割と強力な魔物も出るようですよ。陽蝕さん一人だとご臨終になるかもしれません」

「分かっているよ。でも我は何度も一人で森を駆け抜けて通っているからね。問題ないよ」

最悪を危惧する想香にそう答えた陽蝕だが、表情は少し険しかった。

駆け抜けて通ってきたって事は、別に戦闘になっても問題がないって話ではない。

こいつの強さはまだよく分かっていないが、魔力でいえば猫蓮よりも上で想香よりも下って感じなんだよな。

虎魔獣辺りが集団で襲ってきたら、殺られてしまう可能性は十分にある。

どんな能力を持っているかにもよるけれど、ガチでやれば猫蓮にも勝てないはずだ。

「じゃあ我は行くよ」

陽蝕はそう言って町の北側へと走っていった。

「策也ちゃん‥‥」

狛里が困り顔で俺の顔を覗き込んで来た。

分かっているよ。

それにもしかしたら陽蝕が神候補かもしれないからな。

ここで死なれても困るんだよね。

「妖凛。分身で陽蝕を見守ってやってくれないか?」

(コクコク)

ミンクマフラー状態の妖凛は頷くと、そこから分裂するように一人の女の子が現れた。

本来の妖凛とは少し違うけれど、似たような雰囲気の女の子だった。

何故か猫耳と尻尾があった。

普段の妖凛はアクセサリーとしてそれらを付けていたりするんだけれど、どうやら分身は猫獣人そのもののようだな。

分身の妖凛は一つ敬礼したのち、陽蝕の後を追って行った。

「これで問題ないだろう」

「ありがとう‥‥」

しかし狛里はなんというか、どんな仲間でも仲間となれば心配するんだな。

「それではそろそろ食事にするのです!もうお腹の皮が背中にくっついてしまいます。デッドゾーンなのです」

「そうねぇ~お昼時もそろそろ終わりの時間かしらぁ~」

「食事時の終わり時間なら、作り置き商品を売る店だと値段が安くなってるかもしれないお」

猫蓮せこいな。

売れ残りの弁当じゃないんだからさ。

「でも‥‥美味しくなさそう‥‥」

そうそう、お昼時の後の食事ってのはちょっと考えるよな。

店側からすれば、お昼時の店を回すのってかなり大変なんだよね。

だから食材の作り置きが結構必要でさ。

昼の後ってのはそういうのが結構残っていて味が落ちる事もある。

ホットボックスや鉄板の上なんかに作り置きのある店は要注意だ。

結局俺たちは、無難に冒険者ギルドに併設された食事処で食事をするのだった。


食事が終わってマッタリとした時間に突入する頃、妖凛が俺の胸の辺りをポンポンとしてきた。

ミンクのマフラーの顔や手は常にその辺りにあるからね。

「どうした妖凛?何々?無事に陽蝕がタコの町に到着したか。ありがとう。引き続き分身で見守ってやってくれ」

(コクコク)

ちなみに妖凛はこの姿のまま、俺の食事を一緒に食べたりしている。

人間の姿になって膝の上に座っている事もあるけれどね。

そして少女隊には親鳥が餌を与えるように、影の中に食べ物を入れてやっていた。

或いは俺の体に影を作り、そこから腕だけを出して自ら料理を取ったりもするんだけどね。

傍から見ると俺には腕が四本あって、口以外にもお腹で料理を食べているように見えるんだよな。

そんな訳で俺の食事は割と多めにいつも頼んでいる。

ただ、不老不死で食べる必要も無いので、まあ食事量はその時の気分次第でもあるんだけどさ。

何にしても皆とテーブルを一緒にして少女隊プラスが食事をする事はあまりなかった。

一応狛里とは友達になったはずなんだけどな。

やはり元シャドウデーモンだからか、影の中の方が落ち着くんだろうか。

猫蓮と関わりたくないってのもあるだろうが、その辺りはあまり触れないでおこう。

妖凛からの報告を受け、更にマッタリタイムの延長戦を俺たちは楽しんでいた。

そんな時だった。

ギルド内が少し騒がしくなっていた。

「タコの町に向かっていた輸送船団が、海賊に襲われた?」

「そうそう。それで冒険者に緊急のクエストだとよ」

「海賊から船を取り戻せって、輸送船は騎士団が護衛していたんだろ?」

「それを並の冒険者が取り返せる訳ないよな」

活発に物資を輸送していたら、そりゃ海賊にとってはチャンスだよな。

それにもしかしたら、法螺貝が何かしら絡んでいる可能性もある。

既に戦争は始まっているのかもしれない。

「オデたち冒険者なんだお。助けてあげた方がいいんだお」

「でも、僕たちは戦争には手を貸さないのです。輸送船は戦争の準備だったのではないでしょうか?」

「天冉ちゃん‥‥私は‥‥助けたい‥‥」

狛里の言葉を受けて、天冉は少し考えているようだった。

これは既に戦争なのかもしれない。

兵站を潰すのは戦いの常套手段であり、これに法螺貝がかかわっていないと断言できるものは何もない。

むしろ状況を考えれば、何らかの形でかかわっていると考える方が自然だ。

しかし‥‥。

「これは輸送船が海賊に襲われたという事件よねぇ~。だったら助けても何も問題はないわよねぇ~。分かったわぁ。ちょっと冒険者ギルドと交渉してくるわねぇ~」

そう言って天冉は立ち上がり、冒険者ギルドの受付の方へと歩いていった。

俺も立ち上がりすぐに追いかける。

この状況で天冉だけだと色々と不安だからな。

後ろから『策也ちゃん‥‥よろしく‥‥』と言う狛里の声に、俺は振り返らずに手を上げて答えた。

「クエストを受けてくれるパーティーはいないのか?!このクエストは一千万クラスのクエストになるぞ!そしてこれはランク九十のクエストになる」

ギルドの男性職員が声を上げているが、それに答えようとする冒険者は一人もいないようだった。

そりゃそうだな。

相手は騎士団が護衛している輸送船団を拿捕できるような海賊だ。

並の冒険者が受けられるクエストではない。

ランク九十のクエストと言っているが、マスタークラスの冒険者の参加が必要になってくるだろう。

しかしこの世界、マスタークラスどころか上級冒険者すら数えるほどしか見かけない。

いくら金を出したところで、受ける冒険者がいるとは思えなかった。

そう考えると、海賊ってのも怪しいよな。

もしかしたら中身は法螺貝王国の正規軍の可能性もあるんじゃないだろうか。

まあその辺り話すとまた『やるやらない』の話になるだろうから黙っておくけどさ。

「ねぇギルドの方。その仕事、萬屋ぼったくりが受けてあげてもいいわよぉ~」

声をあげていたギルド職員に対して、天冉が話しかけた。

その言葉を聞いた職員は一瞬喜びと安堵の表情を浮かべたが、天冉を見てすぐに表情は浮かないものとなった。

「君がこのクエストを?いや流石に無理だよ。僕が見た所、君には全く強さを感じないからね。レベル十にも満たない冒険者でしょ?」

天冉を見たらそう思うのも仕方ないか。

だけど話はちゃんと聞かないとね。

「別に私が受けるなんて言ってないわよぉ~。『萬屋ぼったくり』が受けるって言ったんだけどぉ~」

「萬屋ぼったくり?どこかで聞いた事が‥‥!もしかして、萬屋狛里の冒険者パーティーか!?」

あれ?店ではなく冒険者パーティーとして知られている?

ああ、ギルド職員なら知っていて当然か。

有名な萬屋狛里がリーダーの冒険者パーティーとなれば、情報は一気に広がっても不思議ではない。

一応冒険者カードとパーティーだけは全ギルド共通みたいだからな。

どういう方法で情報を届けているのかは知らないけれど、おそらくパーティー登録して間もなく全ギルドに情報は行っているのだろう。

「最初からそう言っているわよぉ~。どうするの?報酬によっては引き受けてもいいわよぉ~」

報酬によって?

一千万クエストとか言っていたよな。

もしかして此処から『ぼったくり』が始まるのだろうか。

尤も、拿捕された船を全て取り返せば、何億何十億の価値はあるんだけどさ。

「もしかして君たち、いや『萬屋ぼったくり』だけで拿捕されたすべての輸送船を取り返してくれるって言うのか?」

「そうねぇ~‥‥。少なくともそこに輸送船が残っているなら、それは可能だと思うわよぉ~。だから具体的に達成条件を踏まえて報酬交渉しませんかぁ?」

なるほど。

これが天冉というマネージャーの役割って事か。

確かにこういう話は狛里には無理だろう。

適材適所、ってヤツだな。

俺はしばらく天冉の交渉をただ見守っていた。

五分ほどで話はついたようだった。

輸送船は全部で二十隻。

一隻取り戻すと二千万円が報酬となる。

全部取り戻せば四億円だ。

更に海賊を捕らえて連れ帰れば、一人につき五万円が支払われるという事になった。

それにしてもかなりぼったくったな。

まあ積み荷の価値を考えれば、これでも安いくらいではある。

だけど自衛隊の給料の低さなんかを考えれば、正直桁違いの報酬と言えるだろう。

自衛隊の給料は安すぎるんだけどさ。

「お仕事が決まったわよぉ~。輸送船を全て取り戻すわよぉ~」

狛里たちの所に戻ると、天冉はみんなにそう告げた。

「助けるんだね‥‥良かった‥‥」

「船の奪還なんだお。だったら逃げられる前に早く出発なんだお」

「でもハッキリとした場所が分からないのです。既に逃走しているでしょうし、それに場所は海の上です。船はどうするのですか?」

想香の疑問は尤もだけれど、ぶっちゃけそんな事は考えもしなかったな。

飛んで行く事しか俺の頭にはなかったよ。

「それに‥‥天冉ちゃんを‥‥一人には‥‥できない‥‥」

狛里はそう言って俺を見た。

はいはい、大丈夫ですよぉ~。

「天冉は移動用の家で俺の分身に守らせるよ。それと船はいらないよな。狛里はもう飛べるんだろ?それに想香は俺が念力で連れて行ってやる」

そう、狛里はもう飛べるはずなのだ。

リビングバンテージを使いこなし、翼へと変化させる事によってね。

「私‥‥飛べる?‥‥」

「リビングバンテージはもう完全に使いこなせているだろ?、翼にして飛ぶ事も可能だと思うぞ」

「そうなんだ‥‥じゃあ飛べる‥‥」

狛里は素直に思い込める所が凄いよな。

理屈では飛べるはずだけど、此処で自ら壁を作って飛べない者も結構いるはずだ。

だけど狛里は自ら壁を作ったりしない。

そんな狛里だから此処まで強くなれたのだろう。

「狛里店長は飛べるのですね?ならば僕も飛べると思います。いえむしろもう飛んでいると言っていいでしょう」

相変わらず想香は強がりが過ぎるな。

流石にそれは言い過ぎだろう。

そう思って想香を見たら、椅子から少し体を浮かせてフワフワしていた。

「えっ?!マジで飛べるのか?!」

「だからそう言っているのです。ただ問題が無い訳じゃありません。出来るのは浮く事だけで進めないという欠点があります。まあ大した問題ではありませんが」

大した問題やろがーい!

「だったらオデが手を引いてあげるんだお」

「お断りいたします」

想香の返事は、猫蓮が言い終わるよりも早かった。

かといってこれじゃやはり手を貸すしかない訳で。

そう言えばアレが使えるかもな。

実は店の商品として作ったけれど、失敗に終わっていたものがあった。

それはストパン(某アニメ)で足に付けているユニットをイメージして作った飛行魔道具だ。

大した宝石が無いから火力が足りず、イメージ通り飛ぶ事はできなかった。

でも浮く事ができるのなら、パワーはほとんど必要ない事になる。

料理魔法で使う炙り用の火を応用して作ったものだから、本当に火力は大した事がないけれどさ。

見た目もストパンと違って鉄腕なんちゃらの足みたいだけどさ。

履き心地はヒールの高いブーツを履いているような感じになるけれど、空を飛ぶなら問題はないだろう。

俺はそれを異次元収納から取り出した。

「これは飛行用に開発したジェットブーツだ。今の想香ならこれを履けば飛べるかもしれない」

色は白なので想香の服装にも合うだろう。

「おお!それはかなりご都合主義な物を作っていたものですね。いや別に僕は嫌いじゃありませんよ」

「私も‥‥嫌いじゃない‥‥」

「そうねぇ~。私も良いと思うわぁ~」

「物語としてはどうかと思うけど、オデもご都合主義は大歓迎なんだお」

皆に認められているはずなのに、何処か馬鹿にされているように感じるのは何故だろうか。

良いじゃないかご都合主義。

ほらこんなにも想香が喜んでくれているんだからさ。

想香はジェットブーツを履いて辺りを跳ね回っていた。

「少し歩きにくいですが、僕なら問題なく使いこなせますね。このブーツも喜んでいる事でしょう」

想香は本当に可愛い奴だな。

まるで童話の中に出てくる、買ってもらったばかりの長靴を履いて水たまりを走る子兎のようだ。

確かにブーツも喜んでいるのだろう。

「それじゃ‥‥萬屋ぼったくり‥‥出動するよ‥‥」

狛里の言葉に全員が頷くと、俺たちは立ち上がり出入口へ向けて歩き出そうとした。

見ると周りには、こちらに注目する冒険者が大勢いた。

話とか全部聞いていたよな。

元々狛里は有名人で注目を集める存在だし、そりゃ見られているよね。

まあ俺もアルカディアじゃ注目される存在だったけどさ、こういうのって案外慣れないものだな。

転生を何度も繰り返すアニメなんかを見て、流石に後の方は冷めた対応も増えるだろうと疑問に思っていた事があった。

疑問に思って申し訳ない。

照れるものは照れるし、慣れないものは慣れない。

「はいはいゴメンナサイねぇ~」

天冉が声をかけると、出口へ向けて一瞬にして通路ができた。

なんだか恐れられている気もするな。

別に取って食ったりはしないから安心してくれ。

こちらから危害を加えるつもりもないんで。

等と心で考えていても伝わるはずもなく。

とにもかくにも俺たちは外に出ると、そこから一気に町の外まで走って出た。

しばらく走って人の目がなくなった所で、俺は移動用の家を異次元から取り出した。

「じゃあ天冉は此処で」

俺はそう言いながら分身を作った。

ナマヤツハシにいる宮司の分身と合わせて二人目だ。

二人くらいならアルカディアで慣れたものなので意識の共有も問題はない。

「よろしくねぇ~」

「大丈夫‥‥船は取り返してくる‥‥」

「海賊退治なんだお!異世界イベントでは序盤にこなすものだから楽勝なんだお」

確かに賊の退治なんて序盤の定番イベントだもんな。

倒したのは狛里とは言え、既に魔王討伐まで終わっている我がパーティーだ。

この程度のクエストを失敗するとは考えられない。

「少し走りづらいですね。地上ではやはり元の草履の方が良さそうです」

「そうか。(洒落じゃないよw)これが終わったら自由に切り替えができるように改造してやるよ」

異次元収納の出し入れを切り替える形でやれば、きっとできるだろう。

ジェットブーツは大して大きくも無いし、高価な宝石も必要ないからな。

「お願いします。僕の力は一騎当千ですから、たとえ十パーセント力が落ちたとしても百人分です。大損害ですよ」

「お、おう。そうだな」

あながち嘘でも無いから反応に困るよ。

何にしても俺たちはすぐに空へと上がり、海の方へと向かうのだった。


皆飛行は順調のようだ。

狛里は何の疑問も持たずにスムーズに飛んでいる。

想香も最初ぎこちなさはあったものの、直ぐにコツを掴んで飛んでいた。

スピードはまあさほど速くはないけれど、本気で飛べば時速五百キロくらいまでなら出せるだろう。

ちなみに俺は、前に少し試した限りでは時速四千キロくらいのスピードで飛べるんだけどね。

そんな事を考えながら空を飛んでいると、船団はすぐに見つかった。

「ひー、ふー、みー、よー‥‥」

「海賊の‥‥船を除くと‥‥十九隻しか‥‥ない‥‥」

「一隻たりないんだお」

ふむ、確かに一隻足りないな。

「もしかして一隻だけ先に持ち去られたのでしょうか?」

船を見る限り、足の速い船には感じない。

帆で進む古いタイプの船だからね。

だから先に一隻だけ先行させるなんて事は考えられないだろう。

この広い海の真ん中で、隠れる所もない。

「とにかく海賊たちを捕まえて聞いてみるしかないか」

「うん‥‥じゃあとっとと‥‥全部の海賊を‥‥捕らえる‥‥」

「承知したんだお!」

「承ったのです!」

三人はそれぞれ別の船へと向かって行った。

気配から、俺たちが殺られるような事はまずないだろう。

だけど強さを隠している奴もいるかもしれない。

「菜乃と妃子は適当に他の船を制圧してきてくれ」

「宝物は貰っていいのね?」

「そりゃ駄目だろ。積み荷を取り返す事が任務だからな」

「残念なのです」

二人はやる気無さそうに別々の船へと向かって行った。

まあやる気がなくても問題ないけどさ。

「じゃあ妖凛は想香を頼むな。俺は狛里を見守る事にする」

(コクコク)

妖凛は人の姿へと戻ると、想香の向かった船へと一瞬の内に消えていった。

なんだか俺たちの戦い方というかポジションは決まってきたな。

俺は常に見守り役だ。

猫蓮を鍛えるって理由で戦いに参加しなくなった訳だけど、もうそれが定着していた。

でもそれが皆にとって一番安全だし、俺にとっても都合がいい。

ただ面白くはないけれどね。

尤も、今更賊退治もないけどさ。

そんな事を思っている間にも、狛里たちはドンドン船を制圧していった。

菜乃と妃子は散開して逃げようとする船だけを瞬時に沈黙させた。

獲物を逃がしたら報酬が減るからな。

こういう所は流石少女隊だ。

そしてすぐに、制圧の完了している船の賊たちを拘束して回りながら回復もさせてゆく。

気絶から回復する奴もいるかもしれないし、意識の無いフリをして悪い事を企んでいる奴もいるかもしれない。

或いは死にかけている奴もいるかも知れない訳で、少女隊の行動は完璧だった。

あいつらがこんなにまともな行動をするとか、立派になったものよ。

おっとそんな事を考えているとこの後大抵オチがあるからな。

最後まで油断してはいけないぞ。

でも結局何事もなく、十九隻の船はすぐに掌握した。

ついでに海賊の船もね。

そして賊たちは少女隊の手によって、速やかに全員一つの船へと集められた。

更に捉えられていた船員や鬼海星王国騎士団員を開放し、船の持ち場へと戻らせた。

さて、残り一隻について聞いておかないとな。

俺たちは賊の中で一番強そうな奴に聞く事にした。

「船は全部で‥‥二十隻だった‥‥はず‥‥あと一隻‥‥どこにやったの?‥‥」

「なんだこのガキは?」

まあ当然の反応か。

狛里は十二・三歳に見える女の子だから、そう言いたくもなるだろうけどさ。

でもそんな事を言うと‥‥。

狛里はチョップ一発でその賊を気絶させた。

「じゃあ‥‥君に聞く‥‥あと一隻‥‥船があったはずなんだけど‥‥」

「えっ?ああ、あとの一隻は脅しに沈めさせてもらったよ‥‥」

「なんて事を‥‥」

狛里は再び賊をチョップして気絶させた。

狛里、なんて事を。

でも絶妙な力加減で殺していない所が凄いよな。

本当に慣れたものだ。

何にしてもこれで取り返せるだけは取り返し、捕らえるべきは全て捕らえた。

後は全て元の乗組員たちに任せても大丈夫だろう。

仮に今回襲ってきたのが法螺貝だとしても、これから再び襲うのは無理だろうからな。

「ではさっさと戻りましょう。クエスト達成なのです」

「でも報酬は、船団がタコの町に到着してからだお」

「うん‥‥じゃあとにかく‥‥戻ろう‥‥」

俺たちは船から飛び立った。

そして直ぐに少女隊にテレパシー通信を入れる。

『菜乃と妃子は沈んだ船からお宝が有れば回収してきていいぞ』

『本当なのね!?全部妃子の物なのね!』

『そうはいかないのです!菜乃が貰うのです!』

少女隊の二人は俺の影から出ると、一瞬のうちに船が沈んだと思われる方向へと飛んで行った。

「速い‥‥」

あいつら‥‥。

あまり本気を出すなと言っているんだけどな。

少女隊の飛行速度は、俺ほどでは無いにしても神の域。

俺の最高速に近いスピードで飛ぶ事ができるんだよな。

まあでもそれを深く気にする者は此処にはいなかった。

なんというか、もうこいつらには能力の高さはバレているんだよね。

何事も無かったかのように、俺たちは普通に飛んでサンゴの町へと帰るのだった。

2024年10月15日 言葉を一部修正と追加

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