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異世界のチートな萬屋店長~一寸神アナザーアフター~  作者: 秋華(秋山華道)
旅立ち編
19/64

天然ものの鬼海星陽蝕は天冉のもの?

人を好きになるのは理屈ではない。

本人にとっては大きなコンプレックスであっても、それを理由に好いてくれる人がいたりもするのだ。

だから諦めてはいけない。

頑張れ猫蓮!

負けるな猫蓮!

いくら気持ち悪い雰囲気を醸し出そうと、それを好きになってくれる人は必ずいる。

とは思っていたけれど、その日がこんなに早く訪れようとは。

これは想定外だったな。


俺たちは鬼海星王国の王都である『オニヒトデの町』にやってきていた。

王都と言うだけあって、流石に人も多いし活気もある町だった。

そんな町に入った直後から、俺たちは一人の怪しい男に付きまとわれていた。

黒のローブに身を包み、フードの中に見える顔は割とイケメンで、兎のような赤い目をしていた。

明らかにみんな気が付いていたのだが、最初は知らないフリをしていた。

しかしあまりにもあからさまに怪しいので、俺たちは足を止めて振り返った。

すると顔を輝かせて話しかけてきた。

「どうしてそんな雰囲気が出せるのですか?いや素晴らしい。お名前を聞かせてください!」

話しかけたのは猫蓮に対してだった。

こいつ、この気持ち悪い雰囲気を素晴らしいとか言ってるぞ?

頭は大丈夫なのだろうか。

「いきなりなんなんだお!まずはそっちから名乗るのが礼儀だお」

お前の気持ち悪さを素晴らしいと言ってきた事はスルーしていいのか?

そこを認めてくれるヤツなんて、百年に一人いるかいないかだと思うぞ。

「これは失礼。(われ)鬼海星陽蝕(おにひとでようしょく)と申します。変わったものや珍しいものが大好きで、冒険者をやっているんだ。是非あなたのような素晴らしい人とお近づきになりたいと思い声を掛けさせてもらった」

えっ?今鬼海星とか言わなかったか?

「陽蝕殿かお。オデは御宅猫蓮というんだお。なかなか見る目があるんだお」

えー‥‥。

普通に握手とかしちゃってるけど、反応はそれでいいのか?

『鬼海星』はスルーだし、『ゲテモノ好き』と言われているように俺には感じられたんだが?

「でしょ?我は、あなたのその雰囲気に興味がある。どうしてそんなイカした雰囲気を出せるようになったんだ?」

そりゃオタクだからな。

しかも恥ずかし気もなく厨二病全開で、心底それが格好いいと勘違いし赤裸々に表現しているからだよ。

「オデの雰囲気は、一朝一夕では出せないお。これは転生者であるオデにしか無理なんだお」

そしていきなり転生者である事を明かすぅー!

こんなんで転生者をやって行けるのかよ。

まあ今の所問題は何もなさそうだけどさ。

「おお!転生者なのか!?どんな転生をしてきたんだ?何処から転生してきたんだ?」

この辺りの反応は普通にありそうだよな。

つか今までみんなスルーしすぎ感があったから、ちょっとこういう反応は安心するよ。

「オデは元々此処とは別の世界、日本という所に住んでたんだお!そこで多分死んだんだお。そしたらこの世界にチート魔法使いとして召喚されたんだお!」

多分死んだってw

まあ俺も転生の際、アマテラスちゃんに聞かされなければ忘れていた事はあった。

いや聞かされた今もまだその辺りハッキリしなかったりもするんだよな。

そもそも転生ってのは輪廻転生で行われており、ほとんどの場合が生まれ変わった際記憶を失くしている。

でも稀に記憶を残していて、それだけが転生と言われる訳だ。

「それは凄い!日本ってのは(さぞ)かし素敵な所なんだろうな。うおー!叶うなら行ってみたいぞ!」

「それはちょっと無理なんだお。それにオデはこの世界の方が好きなんだお。日本では科学技術が進歩していたけれど、魔法が使えない世界だったんだお」

おいそこに言及していいのか?

こういう世界に科学技術は持ち込まないのがセオリーだよな。

尤も俺もアルカディアでは、魔法を使った技術を使わせてもらったりしたんだけどさ。

「魔法が使えないけれど科学技術?それはなんなんだ?」

「色々な事象知識を堅牢に積み重ねて、当たり前の結果に繋げる事なんだお」

猫蓮の言う通りではあるけれど、そんな説明だと理解はできないだろうな。

「なるほど。つまり水が上から下に流れるのを利用して水車を回し精米たり、薪に火をつけて燃やした熱でお湯を沸かし蒸気でもち米を蒸したりって事だな」

理解できてるんかーい!

こいつかなり賢いかもしれない。

「まあそんなとこなんだお。とにかくオデの頭には、この世界に無い知識が沢山あるお。それが溢れているから素敵になれるんだお」

「そうなのかぁ~!」

いや、この説明で納得している辺りは馬鹿かもしれないな。

「お二人さん、あなたたちで盛り上がるのは良いけどぉ~、私たちがいる事は忘れないでねぇ~」

そう言えば飯が食える所を探している途中だったんだよな。

もう狛里も想香も腹を空かせてグッタリだよ。

「そうだったんだお。オデたち美味しい食事処を探していたんだったお」

「それならいい店を知っているよ。我に付き合ってもらったお礼に、奢らせてもらうよ」

おっ!流石は王族だな。

つか王族って事一瞬忘れていたぜ。

あまりに気さくな奴だからな。

まあこっちにも気さくなお姫様がいるんだけどさ。

そんな訳で俺たちは、鬼海星陽蝕に奢ってもらう事となった。


案内された店は、超絶豪華そうな店だった。

おそらく王族貴族御用達の店なのだろう。

天冉はともかく、他はこんな店で食事をした事はないのではないだろうか。

まあ俺も神なのに、数えるほどしかないんだけどさ。

「凄い豪華な店なのです。いえ、僕は何度もこういう所に来た事はありますよ。正直飽きるくらいです」

「オデは転生前にこのくらいの店には行った事があるお」

猫蓮の言う通り、転生前の世界ならちょっとオシャレな店程度なのかもしれない。

でもなんだろうか。

やはりこの世界だとギャップが大きいから超絶豪華に感じるよな。

天冉と狛里は慣れたもんで、自然に席へとついていた。

「我が奢りますから、ドンドン食べてください!おっとその前に、この猫蓮パーティーについて聞いてもいいかな?」

いや猫蓮のパーティーじゃないから。

つか王子様らしきこいつ、俺たちの事知らずに誘ったんだよな。

おそらく聞いたら驚くんじゃないだろうか。

或いは『奢るのは無しだ!』とか言って出て行くか、最悪いきなり攻撃してくるなんて可能性もあるかもしれない。

不可侵条約を結んだ訳だから、一応今は味方になるのかもしれないけどさ。

ついこの前まで殺そうとしていた天冉が目の前にいて、こいつはどういう反応をするのだろう。

「このパーティーは‥‥猫蓮パーティーとか‥‥そんな酷い‥‥パーティーじゃない‥‥」

「訂正を要求します!このパーティーは想香のパーティーです」

「狛里様も想香ちゃんも、酷いんだお。でも本当なんだお。このパーティーは『萬屋ぼったくり』って名前なんだお」

「萬屋、ぼったくり?どこかで聞いた事があるような。それに狛里様って‥‥えっ?」

あっ、ようやく気が付いた。

陽蝕はマジマジと狛里の顔を見た。

狛里は少し困り顔をしている。

ちょっと可愛い。

「えっと‥‥もしかしてこの方は、萬屋狛里ー?!」

嬉しそうだった。

まるで芸能人に初めてあった田舎の子供みたいな反応だな。

「うん‥‥そうだけど‥‥」

「いやまさかこんな所で会えるとは。しかも猫蓮と同じパーティーだなんて、狛里ちゃんは噂通りの人みたいだな」

猫蓮と同じパーティーで噂通りってなんだ?

全くどんな噂なのか想像ができないんだけどさ。

「しかしあの萬屋狛里が、ここまで可愛い女の子だったとは。この世界にもまだまだ知らない事が沢山ありそうだよ」

メチャメチャ嬉しそうだよ。

『それは良かったな』なんて声を掛けたかったが、まだこいつとはそこまで近しい関係でもないのでやめておこう。

狛里の表情は普段の『何を考えているのか分かりにくい顔』に戻っているけれど、俺には少し嫌悪感を持っているように見えた。

「それでそちらのお嬢さんは?想香ちゃんも只者ではない雰囲気があるし、あなたにも何かがありそうだ」

新たな標的は天冉だった。

つか俺の事は完全にスルーしてるぞ。

猫蓮を利用してうちの可愛い姦し娘たちに近づくのが目的だったんじゃないだろうな。

「私わぁ~、新巻鮭天冉よぉ~」

一瞬陽蝕の表情が固まり動きが止まった。

まあそりゃ驚くよな。

国の実質トップが冒険者パーティーに交じって、ついこの前までの敵国王都を歩いていた訳だしさ。

「そうなのか。なるほど。狛里ちゃんがいるなら天冉姫がいても不思議ではないって所だね。つまりこのパーティーのリーダーは天冉なのか」

あらら、えらく冷めた反応だな。

どうでもいいって感じか。

「私はリーダーじゃないわよぉ~」

「リーダーは‥‥私‥‥」

「そうなんだ。じゃあ天冉はなんなんだ?」

「天冉姫はこのパーティーのマネージャーなんだお。簡単に言うと仕事には参加しない支配者なんだお」

「ほうほう。確かに強さはまるで感じないからな。しかし凄いパーティーだな。ヤバい雰囲気を醸し出す猫蓮。あの最強と言われた狛里ちゃん。口が達者で子供みたいな想香ちゃん。そして新巻鮭実質トップの天冉か」

おい!俺を忘れているぞ。

まあ確かにこいつの眼中には俺のような普通の人間は入らないか。

神だけどさ。

「一人忘れてる‥‥こっちが策也ちゃん‥‥パーティーの要‥‥」

狛里が俺をヨイショして紹介してくれた。

スルーされるならそれで良かったんだけどな。

「此花策也だ。よろしく」

「ふむ。王族に対して失礼な奴だな。言葉遣いも知らないのか」

一転こいつの本性が見えた。

猛烈な殺気をぶつけてきやがるんだが。

やっぱり猫蓮を利用して姦し娘たちに近づいただけに感じるぞ。

「悪いな。俺は誰に対しても同じ対応をするんだ」

「許してやってほしいんだお。こういう奴なんだお」

まさか俺が猫蓮に奴呼ばわりされて庇われる日がくるとは。

「猫蓮がそういうなら許すよ。さあ料理もいつの間にかそろってきたし、みんな遠慮せず食べてくれ」

許すとか、別に許さなくてもいいけどな。

何にしてもみんなそろそろお腹が限界のようで、『よし』の合図で餌を食いまくる犬のように目の前の料理を食べ始めた。

この男に対する不信感というか違和感というか、みんな持っているようなんだけどね。

それでも食事を前にしたら、うちのメンバーは全てを忘れるのだった。

『菜乃は忘れないのです!』

『策也タマにあんな失礼な事を言う奴は、神が許しても妃子がゆるさないのね』

『コクコク』

うちの少女隊は、今にも影から出て来て陽蝕を襲う勢いでテレパシー通信を入れてきた。

こいつらはなんだかんだ言って俺の最高の味方だからな。

お前たちのおかげで、俺はこの世界でも寂しくないよ。

『策也タマを馬鹿にしていいのは菜乃たちだけなのです!』

『子分の尊厳は親分が守るのね』

まあこいつらが俺を持ち上げてから落とすのはお決まりの流れだし知ってたけどね。


食事が終わった後、俺たちは速やかに陽蝕と別れようとした。

しかしその前に陽蝕がとんでもない事を言い出してきた。

「我を是非、萬屋ぼったくりに入れてはくれないか?」

狛里は表情を変えなかったが、少し嫌そうだった。

陽蝕はおそらくマスタークラス並みの魔力を持っているが、不老不死ではないはずだ。

だとすると死ぬ可能性も当然ある訳だからね。

「僕の下僕になるなら入れてあげても良いと思いますが、どうでしょうか?」

想香は、自分を評価してくれる人だし嫌ではなさそうだな。

「オデは別に構わないお。だけど他国の王子を入れる事に問題はないお?」

猫蓮はそう言いながら天冉の顔を見た。

やはり最終決定権は天冉だからな。

つか先ほどの食事中の話を聞くに、どうやら陽蝕は鬼海星の第三王子のようだね。

その他国の王子を何処まで信用できるのか。

前まで天冉の命を狙っていた国の王子とか、普通は無理なんだけど‥‥。

「策也ちんはどう思うかしらぁ~?」

俺に聞くか?

さっきちょっと悪い空気だったから、俺さえ良ければって事なのかもしれない。

或いはこいつが命を狙ってきた場合の対応が可能か、確認の意味もあるのだろう。

「俺は別にいいよ」

もしかしたらこいつが新たな神候補の可能性もあるしな。

ここで拒むのは得策ではないだろう。

仮にこいつが天冉たちに危害を加えようとしても、この程度ならきっとなんとかなるはずだ。

この陽蝕という王子、猫蓮よりもおそらく魔力だけなら上なんだけどさ。

俺から見ればゴキブリ以下だ。

「陽蝕ちんは、私たちと一緒に冒険の旅がしたいって事でいいのよねぇ?」

「陽蝕ちん?ははは、我の事をそう呼ぶ人は初めてだよ。ああ、その通りだ」

「萬屋ぼったくりは、万人から依頼を受ける萬屋なのねぇ~。つまり国家王族に所属する人は雇えないのよぉ~。だから私と同じように、同行はするけれど一応部外者って立場でいいかしらぁ~?」

「ふむ。確かに鬼海星王国に不利な仕事をする訳にもいかないからな。それでよろしく頼む」

なるほど、天冉がパーティーメンバーとならなかったのにはそんな理由があったのか。

でも一緒に行動するならあまり変わらないと思うけどね。

建前が大切なのかもしれないけどさ。

「じゃあ陽蝕ちんは私の下僕という事でいいわねぇ?」

「えっ?」

「言葉を少し間違えたかしらぁ?舎弟くらいにしておいてあげるわよぉ~」

完全に陽蝕は蛇に睨まれた蛙状態になっていた。

天冉は時々凄く冷たくて鋭い目をするんだよ。

その時鋭い気のようなものも伴っているんだよなぁ。

だからこの目で見られたら、大抵の奴は天冉に従わざるを得なくなる。

「分かったよ‥‥」

結局養殖では天然には勝てないと言う事か。

「じゃあ今から我は萬屋の仲間って事なんだよな?」

それでも割と嬉しそうだな。

「そうなる‥‥」

「だったら仲間のお願いを一つ聞いてもらいたいんだが?」

ふむ‥‥。

もしかしたらこれが、陽蝕が俺たちに近づいてきた真の目的なのかもしれない。

「先に言っておくけどぉ~戦争には加担できないわよぉ~」

そりゃそうだろうな。

天冉がかかわっている以上、戦争に加担したとなっては国家間の問題にもなり得る。

「どうだろうな。戦争という訳でもないと思うが‥‥。おっと一応言っておくけれど、こんな頼みをするのは後づけだからな。我が猫蓮に興味を持ち、素晴らしい者たちの仲間になりたいと思ったのは本当だ。ただ我は今任務の途中だった訳で、だから手伝ってもらえればと思ったんだ」

言い訳する時は口数が増えるものだが、陽蝕が嘘を言っているという感じはない。

おそらくこれは本当なのだろう。

俺は天冉と狛里を見て頷いた。

「どうぞ話してみてぇ~」

「助かる。今、鬼海星が法螺貝と対立しつつある話は知っていると思う。それで法螺貝がこのオニヒトデの町に、スパイ工作員を送り込んでいるらしい事が分かった。我はそれを見つけて速やかに排除しろと命令されているんだ。実は君たちを見つけたのもその中での話で、怪しいと思って探らせてもらった。そしたら猫蓮の醸し出すあり得ない雰囲気に心を奪われてしまってねぇ。今に至るという訳なんだよ」

俺たちに近づいてきたのは、そういう話か。

「狛里ちんやれそう?」

「策也ちゃん‥‥やれると‥‥思う?‥‥」

また俺に判断が回ってくるんかーい。

「この町のどこかに必ずいると言うなら、まあ一日もあれば見つけられるだろうな。でもこれは戦争には入らないのか?」

ん?相変わらず陽蝕の俺を見る目には棘がある。

俺が何をしたってんだ。

「策也ちゃんが‥‥見つけられるなら‥‥問題ない‥‥戦争に入るかどうかは‥‥見つけてから‥‥判断する‥‥」

「という訳で、その依頼受けてもいいわよぉ~。ただし萬屋ぼったくりとして受ける仕事としてねぇ~」

「つまり料金はいただくという事だね?」

「仲間からも料金をとるんだお?」

「私たちは‥‥相手が誰でも‥‥ちゃんとぼったくる‥‥だから~萬屋ぼったくり‥‥」

名前にそんな意味があったんだー‥‥。

「分かった。あまり吹っ掛けられても困るが、予定範囲内なら出せるだろう」

「それと‥‥萬屋の仕事わぁ~、萬屋の従業員だけでやりますねぇ~。どうしてもって言うなら好きに動いてもらってもいいけどぉ~、人はなるべく殺さないのが萬屋のポリシーなのぉ~」

人を殺さないか。

まあこれは狛里の性格を考えての事なんだろう。

どういう訳もないかも知れないけれど、この世界では図抜けて殺人を否定する所があるように思う。

俺も神として目立たないように殺さないようにしているけれど、狛里にも何か理由があるのだろうかねぇ。

「しかし罪人であれば殺すのもやむを得ないのだが?」

「捕まえて引き渡した後どうするかはそちらの勝手よぉ~。でも仕事の完了までは萬屋のルールに従ってもらいます」

うおっ!

また天冉から鋭い気が感じられた。

天冉が新巻鮭の実質トップにいるのは、これが理由なのかもしれないな。

「分かった‥‥」

なんか少しだけ陽蝕が可哀想になってきた。

仲間にしてくれと言ってしまったが為に、こりゃもう完全に下僕だよ。

でも天冉なんて魔力は最低レベルだし、やろうと思えば誰でも殺せるような相手なのにな。

この世界の人間にしか分からない何かがあるのかもしれん。

「じゃあ今からちょっくら探すから、みんなは闇の家でくつろいでいてくれ。天冉は陽蝕との料金交渉もあるだろ?」

「そうねぇ~。じゃあお願いねぇ~」

俺は天冉の返事を受けて、直ぐに皆を闇へと落とした。

闇の中なら敵に襲われる事もないし、建物内は俺のテリトリーだから天冉をパワーアップして守る事も可能。

この状態じゃないと別行動は不安なんだよね。

俺は今度は影に入った。

「そんな訳で、法螺貝のスパイ工作員を探すぞ」

「あの陽蝕とかいう奴は嫌いなのね」

「そうなのです。策也タマの方が圧倒的に強いのに、納得いかないのです」

「まあ何か理由があるんだろ?陽蝕が女の子だったら俺もショックだけど、ヤローだしむしろこの方が良いよ」

この世界は俺の世界(アルカディア)でもないしな。

そもそも深い人間関係は築かない方が良いかもしれない世界なのだ。

「ところで、法螺貝のスパイ工作員の情報はないのね?」

「何かしら情報はあるはずなのです?」

完全に聞くのを忘れていたな。

でもこいつらに『聞くのを忘れていた。悪い悪い!』とか言うのも負けたみたいで嫌だ。

此処はあえて聞かなかった事にしよう。

「いやお前たちなら情報が無くても余裕だろ?ゲームはイージーモードよりもハードモードの方が楽しいし、まずは情報無しで探してみよう」

分からなかったら、コッソリ聞きに行く事にすればいいさ。

「分かったのね」

「よし!じゃあ今から競争だ!」

「一番早く見つけた者の勝ちなのです」

「位置について!‥‥」

「ちょっと待つのね!」

「わわわ!急ぐのです!」

「よーい、ドン!」

俺がそう言うと、少女隊の二人はすぐに別の影へと移動していった。

あいつら、ゲーム感覚にしたらやる気出すからな。

こういうのを楽しめる奴らだから俺は好きなんだよ。

「じゃあ妖凛、俺たちはのんびり探すぞ」

(コクコク)

こうして俺も影を移動しつつ、町の端から順番に怪しい奴を探っていった。


探し始めて間もなくだった。

俺はローラー作戦で探し始めた所だったのだが、少女隊が早くも怪しい奴らを見つけた。

『策也タマ!見つ、見つけたのです!菜乃が早かったのです!』

『違うのね!妃子の方が早かったのね!』

いや別にどっちでもいいんだけど、もう見つけたの?

一応王都だし結構広い町だから、今日一杯はかかると思っていたんだけどさ。

やる気を出した時のこいつらは半端ないな。

『お前たち凄いぞ!後でたっぷりナデナデしてやるからな』

『菜乃の方が早かったのです。だから妃子よりもナデナデを長くお願いするのです!』

『違うのね!妃子の方が早かったのね。だからナデナデも長いのね!』

どうせ一緒の所を探していて一緒に見つけたんだろ。

別にどっちでもいいじゃないか。

『それでそいつらの場所は何処なんだ?』

『えっと‥‥九段下の駅を降りて‥‥なのね‥‥』

『坂道を真っすぐ‥‥人の流れを追い越した所なのです』

普通その説明じゃ分からないぞ?

危うくあの大ヒット曲かと思ってしまうじゃないか。

でもまあ俺は少女隊と一心同体だから分かってしまうんだけどさ。

『分かった。すぐに行く』

俺は影を移動して、すぐに少女隊が教えてくれた場所へとたどり着いた。

そこは居酒屋のようだけど、現在は営業していなかった。

看板には『法螺貝王国スパイ天国』と書かれてあった。

「おいっ!」

ヤベッ、つい声に出してツッコミを入れてしまったよ。

明らかに怪しい店の名前じゃないか。

これが逆に見つけられなかった理由かもしれないが、素直なうちの少女隊には通じなかったようだな。

俺は影を移動して建物内に入った。

そこには先に着ていた少女隊が待っていた。

「あいつらなのね」

「今丁度悪だくみを計画中なのです」

居酒屋の客席には大勢の工作員らしき奴らがいて、どうやら何かを話し合っているようだった。

「俺は三丁目のワカメちゃんを拉致するぜ。あの大きな胸がたまらんのよ」

「俺は子供が大好きな外国人だからな。リカちゃんを拉致ってホニャララしてからボスに献上する事にする」

「子供なら預かった子供が沢山いるだろ。他国に売られて行くとも知らずに俺たちに世話を任せるとか、馬鹿な奴らばかりだな」

「子供だからいいってもんじゃないんだよ。リカちゃんのように中指立てて他人を罵倒するようなきつい性格がたまらないんだぜ」

「お前たち、俺たちの任務を忘れるなよ。俺たちの任務は『この町で失踪者を沢山だして民に恐怖心を与え、自らこの町を出て行くように仕向ける』事だからな」

「それでこの町の経済力を衰退させ、富国強兵をさせない事が目的だったな」

なるほどなぁ。

この世界にも拉致被害者っているんだな。

転生前の世界にあった拉致とは目的が違うけれど、やる事はこいつらの方が悪逆非道かもしれない。

しかも預かった子供を売るだと?

誰からどんな目的で預かった子供かは知らないけれど、子供を物扱いする奴らは許せんな。

いっそ今すぐ全員屠ってやろうか。

「策也タマ、とりあえず報告なのです」

「そうなのね。妃子たちが見張っているから、早く皆に伝えてどうするか決めるのね」

「そうだな‥‥」

こいつらは法螺貝と鬼海星の戦争の為に動いているのだろう。

でもやっている事はただの犯罪だ。

これは問題なく、最後まで仕事を引き受けるだろうな。


俺はすぐに闇の家に行って全てを報告した。

「えっ?もう見つけたの?」

なんて陽蝕は驚いていたが、他は皆スパイ工作員の悪行に怒っていた。

「それは‥‥全員捕まえる‥‥」

「酷いんだお。この世界の女の子と子供はみんなオデのものなんだお」

「キモイ事言わないでねぇ~」

「猫蓮さんの事は放っておいて、今すぐ全員始末しましょう。殺しも僕が許します」

「とりあえず‥‥全員生け捕りにする‥‥」

「承知したんだお。早く女の子や子供たちを助けるんだお。それと想香ちゃん、放っておかないでほしいんだお」

「私は此処で待ってるからぁ~、ちゃちゃっと終わらせてきちゃってぇ~」

「任せてください。狛里店長が言うなら生け捕りもやぶさかではありません‥‥」

とりあえず今すぐ捕まえに行くのね。

俺は闇の家の中心に深淵の闇を作った。

此処に落ちれば『法螺貝王国スパイ天国』の店の前に落ちる。

「えっ?我は天冉と二人で此処に残るのか?」

「大丈夫よぉ~。別に焼いて食ったりはしないわぁ~」

普通逆だろw

ついこの前まで天冉を殺そうとしていた鬼海星王国の王子。

しかも天冉は魔力がほぼゼロ。

この状況は危険極まりないと言える。

でもここは俺のコントロール下だから、どうにもならないんだよね。

そんな訳で俺たちは、二人を残して町に戻った。

そしてすぐに踏み込んでいった。

後は話すほどの事は何もなく、みんな無双して全員お縄に掛けた。

「一応全員捕らえて、深淵の闇にある魔法実験場で預かっている。子供たちはその場で少女隊に保護させておいた」

「後は‥‥引き渡し‥‥だけ‥‥」

「ほとんどは僕が捕らえました。仕事ですから礼には及びません」

「オデは魔法使いだけど、あれくらいの相手なら魔法を使わなくても楽勝だったお」

陽蝕は色々と驚いているようだった。

こいつも十分チートレベルに強いんだけどな。

おそらく同等かそれ以上の者たちを見て、今までの常識を覆されたといったところか。

勝手な想像だけれど、陽蝕はチートレベルに強いが故に目標も何もなかった。

だから猫蓮のような変わったもの、特別なものに興味を持つようになったのだろう。

でもその常識から外れた強い者たちを目の当たりにして、期待していなかった感動を覚えているといった感じか。

「凄い‥‥これはしばらく退屈しないで済みそうだ」

捕らえた者たちは、全て鬼海星の治安維持部隊に引き渡された。

預かったとされる子供たちは、今後養護施設へと入れられるらしい。

虐待されたりしない限りは、売られた方が幸せだったかもしれないけれどさ。

個人的には夢の城で預かりたかったけれどね。

子供は未来への宝だからさ。


この日、神候補かもしれない陽蝕が俺たちの仲間に加わった。

そしてその日の内に仕事を一つ終えた後、俺たちは再び旅に出るのだった。

2024年10月15日 言葉を一部修正

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