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異世界のチートな萬屋店長~一寸神アナザーアフター~  作者: 秋華(秋山華道)
旅立ち編
16/64

初めての国外へ!新巻鮭に感謝!

日本の神道はどんな風に始まったのだろうか。

一つこのような話を聞いた事がある。

その者はある願いを持っていた。

だからその願いを叶える為に、その者は日々できる事をやっていった。

するとその願いは、いつしか叶えられたのである。

その時その者は思った。

この喜びを、この幸せを、誰かに伝えたい。

感謝の気持ちとして伝えたいと。

その者は、道にある大きな岩に感謝の気持ちを伝えた。

その大きな岩は、後に道祖神となった。

山に向かって感謝を伝えた。

山岳信仰になった。

やがて分かりやすく、そこに印をつけた。

鳥居を作った。

社を建てた。

それらはやがて神社となった。

神社でのお参りは、本来目標とお礼を伝えるモノとなっている。

つまり神道とは、感謝を伝える宗教と言えるのかもしれない。


俺たちの前に、金髪のイケメンが立っていた。

金髪と言っても銅色に近い色で、かなり重みのある髪がこの男を大器と感じさせる。

間違いなく天冉の兄弟で王子様なんだよな。

そしてその後ろを囲うように、沢山の騎士が控えている。

このまま無視して通り過ぎる訳にもいかない。

とりあえず声をかけるべきなのだろうか。

でも王子じゃなく単なるコスプレイヤーかもしれない。

そんな現実逃避をしても仕方がないな。

こいつの魔力は猫蓮よりも上だ。

傍から見れば、おそらく俺たちと同じくらいの魔力を持った者に感じられるだろう。

実際の俺たちはもっと上だけどね。

という事で声をかけようと思った訳だが、最初どうやって話しかけるかはいつも迷うんだよな。

第一印象ってのはやっぱり大切だしさ。

俺が複数の思考で一瞬の内に色々と考えていたら、少女隊が先に話しかけていた。

「コスプレ会場はこちらなのね?」

「なかなか痛い感じの王子様衣装がイカスのです」

お前ら、いきなり一国の王子にそのノリは駄目だろ!

まあ普段は神に対してマウントポジションとってる訳だから、それでもまだマシなのかもしれないけどさ。

でもここは異世界なんだから、ちゃんと考えて喋ってくれ。

「コスプレ?僕はこの国の第一王子なのだが?」

「本物の王子様だったのね」

「本物ならその衣装も納得なのです」

なんか微妙に少女隊の言動には棘があるよな。

とにかくこのまま少女隊に喋らせると話がややこしくなりそうだ。

「悪い悪い。俺たちは新巻鮭天冉の友人なんだ。俺は此花策也。そしてこいつらは‥‥」

「菜乃なのです」

「妃子なのね」

「天冉の友人か。僕は天冉の兄で次期国王の『神猿(まさる)』だ。天冉の友人って事は、これから一緒に旅に出る仲間と言った所かな?」

この王子は割と普通に話せそうで良かったよ。

ありがちな王子とかだと、さっきの少女隊の態度なら打ち首とか言っても不思議じゃない。

天冉の友人だからってのもあるかもしれないけれど、殺気や攻撃的な魔力も全く感じないしな。

「そうなのね」

「天冉は菜乃たちがちゃんと守ってあげるのです」

本当にこいつら、相手は王子なんだから多少は考えろよ。

まあ俺も敬語はなるべく使いたくないから、ため口なんだけどさ。

「そうか。それは安心だな。苦労をかけると思うが妹を頼む」

「あ、ああ。最善を尽くすよ」

確かに戦えない天冉と一緒だと苦労はするだろうが、心配している様子があまり感じられないな。

やはり先ほどの俺たちの戦い、この神猿には見えていたと考えていいだろう。

その力を見て安心できたといった所か。

「それじゃあね。天冉の友人方」

「またねなのね!」

「再会の日まで壮健なれ、なのです!」

「また‥‥」

割とアッサリだったな。

しかし俺たちの動きが見えていたとなると、こいつはかなりの能力者だと思える。

さっきの戦闘に参加している様子はなかったが、参加していたら魔物退治も簡単に終わっていたはずだ。

もしかしたら神候補は、猫蓮ではなく神猿の可能性もあるんじゃないか?

どう考えても猫蓮は神候補にしては弱すぎるし、神猿の方がそれっぽい。

尤も神候補が一人とは限らないから、どちらも神候補なのかもしれないし、或いは両方違う可能性もある訳だが。

南たち異世界の神もアルカディアに来た時、俺が神候補なのかどうか確信が持てるまでには時間がかかったようだった。

まさかこれから何人も神候補と思われる人物に出会って行くんじゃないだろうな。

それだと面倒くさいぞ。

百年か‥‥。

神候補が自ら頑張ってくれないと、マジで百年の内にこの世界の神を倒す事ができないかもしれない。

そういえば南は、俺よりも神の使いと行動を共にしていた。

おそらくこの世界にも、兎白や岩永姫のような神の使いがいるはずだ。

まずはそういった人物を探す必要があるのかもしれないな。

そんな訳で俺の旅の目的に『神の使いをみつける』というのが追加される事となった。


次の日の朝、俺たちは待ち合わせ場所に集まった。

そして北西に向けて歩き出す。

「天冉ちゃん‥‥今更だけど‥‥本当に私‥‥旅に出ても‥‥大丈夫?」

「大丈夫よぉ~。昨日神猿お兄様が帰っていらしたし、かなり強くなっておられましたものぉ。国内の心配はしなくていいわよぉ~」

天冉が狛里を連れて旅に出る為に、神猿は戻ってこざるを得なかった。

新巻鮭王家は、本当に天冉を中心に動いているようだ。

でもその天冉を旅に出して大丈夫と考えているのかね。

いくら狛里がいるとは言え、死んだら終わりの世界だよ。

しかもこれから向かうのは鬼海星領なんだよな。

新巻鮭王家ってのは、それだけ狛里を信頼しているって事なのかね。

そして狛里はここにきて、少し旅に出るのを躊躇しているように感じる。

「どうした狛里。冒険の旅に出るのは嫌なのか?」

「違う‥‥でも私‥‥新巻鮭領から出た事‥‥ない‥‥だから緊張してきた‥‥」

そんな事か。

「俺も召喚されてからは出てないな」

「オデも無いんだお。新巻鮭王国はいい所だから、外に出るのは怖さもあるんだお」

「僕も記憶にないです。実質初めてと言っていいでしょう」

「私もないわよぉ~。他国のパーティーとか招待されても、私だけは行かせてもらえなかったのよねぇ~」

結局外に出た事のある奴は誰もいないのか。

天冉は命を狙われていた訳だから、当然行かせてはもらえなかったんだろうな。

でもよく今外に出る事を許したよ。

外の事なんてまるで分からないのにさ。

まあ少女隊プラスは何度も出てるみたいだから、多少は聞けば分かるだろう。

期待はしちゃダメだけどね。

しかし想香に此処での記憶しかないってのはどういう事だろうか。

記憶の無い転生者か、或いは召喚のショックによって記憶を失ったか。

でもそれだと狛里曰く召喚はされないはずだ。

何故なら、『召喚されても問題ない者しか召喚されない』から。

「みんな領内から出た事がないみたいだし、一緒に国境を越えればいいかもな」

「そうねぇ~。なんだか良いと思うわぁ~」

「赤信号、みんなで渡れば怖くないんだお!」

「何それ‥‥赤信号?‥‥」

「きっと血の色をした川か何かなのです。みんなで渡っても怖いかもしれません」

「いや赤信号ってのは、渡っちゃダメって赤い光で伝える為のものなんだ」

「そうなんだお。だけどなんで策也殿が知ってるんだお?」

やべぇ、流石に此処まで言ったらバレるか?

「遠い世界には信号機もあるからな」

「なんだそうなんだお。この世界もオデの住んでた日本とあまり変わらないんだお」

信じるんかーい!

猫蓮がアホで良かったよ。

「それで国境は何処なんだ?」

「森に入って‥‥出た所?」

俺に聞かれても。

「一応新巻鮭王国としてはそう主張しているのよぉ~。でも鬼海星王国はこちらからだと森の入り口を主張しているわぁ」

なるほど、この世界でも領土問題ってのはあるんだな。

「森には道があるんだよな」

「あるわよぉ~」

「その道を作った者や管理している者は誰なんだ?」

実行支配している者が実質持ち主と言える。

「商人ギルド‥‥」

俺の常識は通用しませんでした。

この世界でもギルドは権力を持ってそうだよなぁ。

ただ萬屋が商人ギルドとかかわりがあったようには見えないから、アルカディアより縛りはなさそうだけどさ。

「じゃあ俺たちは新巻鮭王国の住民だし、森の出口という事でいいな」

「は~い」

「それでいいと‥‥思う‥‥」

「領土問題は一歩も譲っちゃダメなんだお。正しい選択なんだお」

「よく分かりませんが、まだしばらくは普通にお散歩ですね」

そんな訳で、俺たちは今しばらくはただの散歩旅を楽しむのだった。

つかなんだかんだこの中じゃ俺が一番年上なんだよな。

地位は天冉が上だし、名声は狛里が上なんだけどさ。

仕切らされるのは面倒だし、これからはなるべく意見しないようにしよう。


さて散歩旅なのだが、のんびりとはいかなかった。

道があってもやっぱり森の中、魔物がわんさかやってくる。

こりゃ新巻鮭と鬼海星の間で戦争なんて、普通はできないよ。

敵国に行くまでに何度も戦闘しなければならない。

騎士なら簡単に倒せるレベルのばかりだけれど、疲れるし隠密行動は無理だ。

狛里がいるから力押しで攻めてくる事は無理だと思っていたけれど、そうでなくても新巻鮭には守られる要素があったのか。

「これだけ魔物が多いと、流通はどうなってるんだ?かなりの護衛が必要になるだろ?」

「そうねぇ~。だから陸路だと沢山一気に運ぶ事になってるわぁ~」

陸路だと、ね。

つまりこの国は海運が中心って事か。

港町を二つも有しているし、それで問題はないのだろう。

でも逆に海からの侵略ってのも考えられそうだ。

尤も日本が海に守られていたように、蒸気船もないこの世界じゃ海からの侵攻は難しそうだけどね。

魔獣を倒すのは主に戦いたい猫蓮や想香に任せ、俺は天冉を守る事に集中していた。

こういう戦いがこの先何度もあるのだろう。

魔物が強くなって行った時、果たしてこの戦い方で行けるのかねぇ。

天冉は相変わらずの表情で余裕そうだし、狛里もあまり必死さは感じられない。

城に助けに行った時もそうだけど、この余裕は何処から来るのやら。

なんだかんだと魔獣を倒しながら、数時間後には森の出口までやってきていた。

辺りにもう魔物はいない。

俺は道に国境線を引いた。

そしてその手前で、俺たちは横に一列に並んだ。

「じゃあ行くわよぉ~!せーのっ!」

俺たちは同時に一歩を踏み出した。

これでみんな初の国境越えだ。

だけど特に何かを言う者はいなかった。

あくまで今、ただ旅が始まっただけという所か。

『だからなに?』みたいな微妙な空気だった。

すると猫蓮だけが振り返り、森の方へと頭を下げた。

「新巻鮭王国、オデを異世界に連れてきてくれてありがとうなんだお」

粋な事をしやがるな。

じゃあ俺は近くにある岩に礼でもするか。

「これまでの無事をありがとう。そしてこれからの旅を見守ってください」

すると今度は想香が、北の方に見える山に向かって頭を下げた。

「なんか格好いい山ですね。みんなと旅に出るのは楽しいのです。一応礼を言っておきます」

今度は天冉が空を見上げて叫んだ。

「あーりがーとなーい!」

何処かで聞いた事があるお礼だな。

多分聞いたのは日本のテレビでだ。

そして最後は狛里が、森から出て来た冒険者に頭を下げた。

「いつも‥‥ご苦労様です‥‥」

「お?おう!」

いきなり声を掛けられた冒険者は戸惑っていた。

不審者を見るように何度か振り返りながら、冒険者の男はその場から去って行った。

「いよいよ冒険の旅なんだお!オデ転生してきて良かったんだお!」

猫蓮は嬉しそうだな。

とは言えお前は狛里の下僕なんだけどな。

それに神候補だと思っていたけれど、下僕が神候補とかかなり不安もある。

狛里に聞いた所、あの神猿王子とも子供の頃からの友人だとか。

ならば神猿が神候補の可能性も高いんだよなぁ。

現時点での魔力を比べても神猿の方が上だしさ。

むしろそうであって欲しいと思えてならない。

猫蓮だってのんびりと異世界ライフを楽しみたいだろう。

期待通りには程遠いだろうが、それなりにチートを楽しむ事くらいはできそうだし。

女にはモテないだけでさ。


既に俺たちの陣形というか、歩く時の隊列は決まっていた。

先頭を狛里と天冉が喋りながら歩く。

それを追いかけるように猫蓮が一人。

後ろで俺と想香が並んで歩く。

誰が決めた訳でもないけれど、それなりに理想的なポジションになったかな。

「策也さんに聞きたいのですが、猫蓮さんの事は気持ち悪くないのでしょうか?」

だいぶ慣れたとは言え、まだ想香は猫蓮を避ける所が残っていた。

想香だけじゃなく、俺以外はみんなそうなんだけどね。

「遠い世界じゃ猫蓮みたいなのは結構普通にいたんだ。だからキモイけど逆に落ち着く所もあるんだよ」

「策也さんは心が広いのですね。僕も少しは見習いたいと思います」

へぇ~‥‥。

想香は感情のみで動く奴かと思っていたけれど、ちゃんと考えてはいるんだな。

猫蓮が突然振り返った。

「想香ちゃんと一緒に冒険の旅なんて、オデは嬉しいんだお!」

駄目だ猫蓮!

そんな事を言ったら‥‥。

猫蓮がそう言い終わる前に、想香は百メートルは後方に離れていた。

やはり体は理屈通りには動かないようだな。

猫蓮はションボリとして前を向いた。

頑張れ猫蓮。

『美人は三日で飽きるがブスは三日で慣れる』って言うだろ?

もう一ヶ月近く経つけどさ。

きっと一年も苦楽を共にすれば、避けられたりはしなくなるかもしれないぞ。

そんな悲しい事を思いながら、俺たちの冒険の旅はいよいよ最初の目的地へと近づいていた。

今日目指している場所は、鬼海星王国領内ウミウシ砦の町だ。

此処は新巻鮭領に最も近い他国の町である。

そして今歩いている場所は、森を切り開いて作られた場所。

新巻鮭領へ行きやすいように、鬼海星の者たちが開拓整備したそうだ。

おかげで魔物の数も一気に減って、俺たちはのんびりとした散歩旅ができていた。

もしかしたら進軍の為に切り開いたのかもしれないけれど、とりあえず今は感謝しておこう。

「ところで、流石にお腹が空いてきました」

想香の言葉に、先頭を歩く二人が振り返った。

「確かに‥‥もう昼ご飯タイム‥‥過ぎてる‥‥」

「そうねぇ~。もうすぐウミウシ砦の町だけど、この辺りで何か食べるぅ?」

「オデは賛成なんだお!『今すぐキスミー今すぐギブミー』なんだお!」

猫蓮よ、みんなが知らないそんなパクリネタを言うから引かれるんだぞ?

お腹も減っているし、猫蓮の言葉は当然スルーされた。

これはこれで辛いよな。

まだ何か言われる方がマシだよ。

助けてやるか。

「じゃあ今すぐこの辺で飯にするか」

俺はそう言って、異次元収納から移動用ガゼボを取り出した。

軽くピクニック気分で食事をするならガゼボがいいだろう。

ちなみに移動用の家も一応作ってはあるが、天気のいい昼に食事をするのなら空の下だよね。

ガゼボには屋根もあるけどさ。

俺がガゼボを取り出して設置すると、直ぐに狛里と天冉は座っていた。

「まだぁ~!?」

「策也ちゃん‥‥美味しいのを‥‥お願い‥‥」

こいつら‥‥。

まあ魔法で作るだけだから別にいいけどさ。

俺は異次元から食材や調味料、食器類を取り出して魔法を発動した。

見る間に料理が出来上がってゆく。

そしてそれらをテーブルに並べていった。

「いつ見ても凄いわよねぇ~」

「料理の為に‥‥策也ちゃんが‥‥いる‥‥」

「食欲を満たしてくれる男性は、ポイントが高いと聞きました」

「うらやましいんだお。みんなに必要とされているんだお」

悪い気はしないけれど、三大欲求を満たす事ができるなら必要とはされるさ。

男らしく、或いは女らしく。

もしくは料理ができるか、住まいを提供できるか。

人に必要とされたいならこのポイントを押さえればいい。

そんな訳で俺は、着実にパーティー内でのポジションを確立していくのだった。

食事の後はティータイム、或いはマッタリと昼寝なんかもした。

すると気づけば、時間は夕方に近くなっていた。

「そろそろ行かないと、町についたら夜になってしまいます」

「ん?‥‥本気で走れば‥‥十分もかからない‥‥」

「でもそろそろ起きて行くわよぉ~」

「グーピー‥‥グーピー‥‥もう食べられないんだお‥‥」

みんな完全にだらけモードだな。

こんな旅で、本当に大丈夫なのかね。

イスカンデルに転生してきてからまだ一ヶ月も経っていない。

だからまだまだこれからだとは言え、此処まで少しでも得たものはあるのだろうか。

正直俺は、あきらめに似た開き直りモードだった。

2024年10月14日 言葉を一部修正と追加

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