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異世界のチートな萬屋店長~一寸神アナザーアフター~  作者: 秋華(秋山華道)
出張編
13/64

狂挙と不可侵条約!そして冒険の旅へ

幕末の志士高杉晋作は、イギリス公使館を焼き討ちした。

攘夷を掲げ、日本から外国人を追い出す為だ。

こういった行動を高杉晋作本人は『狂挙』と呼んだ。

革新的行動と言ったニュアンスである。

後に晋作本人も含めて日本は真逆の方向へと進んだが、俺は『狂挙』が良い意味で役立ったのではないかと考えている。

薩英戦争でイギリスが薩摩に近づいたようにね。

ほら、よくあるでしょ。

強い相手と戦った後に仲良くなる展開。

それに似た所があったように思う。


王都イワオコシへ向けて走り出すと、何食わぬ顔で天冉はついてきていた。

どうなっているんだ一体?

お姫様ドレス姿でよく付いてこられるな。

俺は神眼で天冉を確認してみた。

すると謎はアッサリと解けた。

どうやら天冉は、素早く動く為の能力を持っているようだった。

持続的な高速移動の為、戦闘では俺たちについてはこられないだろう。

それでも十分戦闘で使えそうだし、実は割と戦えたりするのかもしれない。

いや、流石に天冉の魔力じゃ攻撃は難しいか。

それでも逃げ回るだけなら結構やれそうに感じた。

「もっとスピード上げてもいいわよぉ~」

「勘弁してやれ。これ以上は猫蓮と想香が付いてこられなくなる」

特に猫蓮はこの所働き詰めでボロボロだからな。

しかもこいつ、回復が少し遅いんだよ。

普通の人なら八時間寝れば十分回復できるはずだ。

でも猫蓮はおそらく九時間以上の睡眠を必要とするタイプ。

俺も日本で暮らしていた頃はそのタイプだったから、割と辛さが分かるんだよね。

「仕方がないわねぇ~」

「これで間に合わなかったら‥‥猫蓮ちゃんの‥‥せい‥‥」

「狛里様、申し訳ないんだお。死ぬ気で走ってるんだお。でも体が動かないんだお」

「僕はまだ余裕ですが、猫蓮さんが辛そうなのでゆっくり行くのもやぶさかではないです」

「想香ちゃん、ありがとうなんだお」

猫蓮がお礼を言った途端、想香は少しスピードを上げた。

想香にお礼なんて言っちゃダメだろ。

逃げるに決まってるんだからさ。

まあとはいえ想香も限界に近い訳で、大してペースは上がらなかった。

結局到着するまでに一時間ほどかかった。

「ここが王都か」

「すっごく防壁が高くて頑丈そうなんだお」

「魔物の軍勢も跳ね返せるのです」

外から見た感じでは、ウイロウの町よりも強固に守られているようだった。

森に近く魔物から守る意味もあるのだろうけれど、話によると此処は昔要塞だったらしい。

新巻鮭王国の国境最前線の場所でもあるからね。

そこを守る為に王族が常駐した事で、気が付いたら此処が王都になっていたとか。

ナマヤツハシの城は、元々王族が住んでいたんだな。

「とにかく‥‥町に入るよ‥‥」

「こんにちはぁ~門番さん!」

狛里は有名人のようだし、天冉はお姫様だ。

門番は深々と頭を下げて二人を迎え入れていた。

「お帰りなさいませ!」

そこまで恐縮しなくても良いと思うぞ。

この二人は多少の事は気にしない奴らだし。

むしろ俺たちが恐縮して後をついて行く事になった。

町は活気にあふれる良い町に見えた。

流石に王都だけあって、そこそこ強そうな人の気配も感じる。

冒険者に治安部隊、他に騎士らしき者の姿もあった。

これがまあ普通の町と言えるのだろう。

小さな国だし、天冉を見る限り普通ではないのかもしれないけれどね。

俺たちは町の中心に見える城の方へと向かった。

そろそろ城に到着しようかという所で、城の左手向こう側に大きな建物が見えた。

建設途中のようだがほぼ完成していて、後は最後の仕上げと言った所だろうか。

「城の横にあんなにでかい建物を作って何をしているんだ?」

俺はただ疑問に思った事を口にした。

「あれは鬼海星王国の公使館なのよぉ~。外交に必要だからとお父様は押し切られたけれど、アレはこの国を監視し実質支配する為に建てられているのよねぇ~」

なるほどな。

傘下国を支配する為の施設か。

「そんな施設は焼き討ちしてしまえばいいんだお!断固攘夷なんだお!」

流石猫蓮だな。

イギリス公使館焼き討ちの再現をしようってか。

「私も‥‥焼きたい‥‥」

「僕も同じ気持ちです。焼いてしまえば支配もきっとできません」

おいおいみんな同じ気持ちかよ。

外交施設を焼こうなんて普通は暴挙だ。

でも高杉晋作みたいでなんとなくテンションが上がってくる。

「よし!これは『狂挙』だ!やっちまおうぜ!」

俺、本当にそれでいいのか?

普通は駄目だろ?

「策也殿はよく知っているんだお。これは『狂挙』なんだお!断固『攘夷』なんだお!」

「じゃあやっちゃいましょうかぁ~!許可します!」

みんないつの間にかよく分からないテンションになっていた。

これが『狂挙』というものなのだろう。

今目の前の建物を焼きたいから焼く。

壊したいから壊す。

俺たちは我を忘れた。

「マジックミサイルなのです!」

火蓋を切ったのは想香だった。

「じゃあ俺は、料理の魔法で建物を焼き料理だ!」

俺は建物に炎をつけた。

「じゃあ今度はオデの番だお!爆炎地獄(ヨメへのアイ)だお!」

こりゃまたどでかい魔法だな。

一気に建物が炎に包まれた。

「じゃあ私は‥‥ロイガーツアール‥‥」

おいちょっと待て!

そんな事したら一瞬にして‥‥。

建物が燃えると言うよりは、切り刻まれ飛散して崩れ去り灰になって全て飛ばされ消滅した。

そこにはただ、焼畑だけが残った。

「あらぁ~。ここは良い畑になりそうだわぁ~」

城の横に畑とかあっても、特に役には立たないだろうけどね。

でもスッキリだよな。

力で無理やり他国に言う事きかせようとか、そんな奴には天誅でいいんだよ。

「一体何が起こった?!」

「もうすぐ完成だったのに、一瞬で建物が消えたぞ!?」

ヤバい!

「お前ら逃げるぞ!」

「逃げるの‥‥得意‥‥」

「私もよぉ~!むしろ好きかしらぁ~」

「待ってほしいんだお。オデは疲れてるんだお」

此処まで走ってきた後に、あんなデカい魔法をぶっ放すからだよ。

仕方ない、助けてやるか。

俺は妖糸で猫蓮を絡めて、引きずるように連れて行った。

「全く、そんなんじゃ捕まっちゃいます。むしろ引きずった方が速いですね」

想香は猫蓮の足を引っかけて倒れさせた。

想香って、顔に似合わず恐ろしや。

俺は知らないフリをして、猫蓮を引きずってその場を立ち去った。

「痛い!痛いんだお!これ拷問なんだおー!」


俺たちは何とか誰にも見つからずに逃げ切れた。

町の人たちには目撃されまくりだったけどね。

人を引きずって走っていたら注目も集めるよな。

「想香ちゃんも策也殿も酷いんだお!オデの顔がズル向けで痛かったんだお!」

「悪い悪い。気づかなかったんだ」

「むしろズル向けでいい感じです。中身と見た目のギャップが解消されて気持ち悪さが無くなりました」

なるほど、気持ち悪かったのはギャップのせいだったか。

メチャメチャイケメンな見た目が悪かったんだな。

でもこいつ不老不死だから、怪我やなんかもすぐに治ってしまうんだよ。

残念ながらイケメンに戻ってしまった猫蓮からは、妙な気持ち悪さがふたたび漂い始めた。

さりげなく俺以外の面子は、猫蓮から距離を取るのだった。

「そんな事より‥‥この後が問題‥‥」

「そうよねぇ~!ノリでやっちゃったけど、きっと鬼海星の方々は怒るわよぉ~」

そうだよな。

どう考えてもこれは俺たちが悪いんじゃね?

罪悪感を感じた新巻鮭の国王たちは、無理な要求にもこたえようとするかもしれない。

「こうなったら鬼海星の人たちも全員始末しますか?」

想香の言う事は、既にみんなが思っていた所だろう。

でも流石に命を取るのは駄目でしょ。

建物なら俺の魔法でいくらでも責任は取れるが、この世界は死んだらもう蘇生は不可能なのだ。

「殺さない程度に痛め付けて脅すんだお。それですべてが解決だお」

そんな事をしたら本気で怒らせて攻め込んでくるかもしれない。

そうならなくても、新巻鮭領内の町で民が殺される可能性もある。

「そんな事したら‥‥本気で何かしてくるかも‥‥」

「そうよねぇ~。民が殺されるのだけは避けたいわぁ~」

まあ普通に考えたらそうだろうな。

でもこういう時に使えそうな交渉術に、俺は覚えがあった。

「いや、ただの恫喝だと確かにそうなる可能性は高い。だけど、外交交渉には『弱者の恫喝』ってのがあるんだ」

そう、外交交渉には恫喝なんて付き物。

そもそもそういったものも含めた駆け引きで成り立っている。

相手の弱い所をついて納得させるのは当たり前だし、相手が有利な時には動かない事も手となる。

現在鬼海星王国は、前面の法螺貝王国が怖いから新巻鮭王国を力で従わせようとしている。

状況として一番弱いのは新巻鮭王国だが、鬼海星王国だって別に強者ではないのだ。

そして弱者は弱者なりの交渉術が有ったりする。

「弱者の恫喝‥‥何それ?‥‥」

「弱者ってのは強者からすれば、本来あまり考えなくてもいいものだ。だけど今、鬼海星にとって新巻鮭は対法螺貝に置いて無視できない存在になっている。つまりただの弱者じゃないんだ。だからそれを利用すれば恫喝も効果を発揮するんだよ」

「ん~。よく分からないわぁ~」

「今鬼海星王国が恐れているのは、新巻鮭が法螺貝と手を結ぶ事なんだよ。だからそれをチラつかせ恫喝する事で、交渉を有利に進める事ができるはずだ」

幸い『公使館の焼き討ち』によって、新巻鮭は何でもやってくるヤバい国だという風に思われていることだろう。

この『狂挙』を利用しない手はない。

やってしまった事を悔やむのではなく、それも含めて外交に生かすのだ。

「僕はなんとなく分かりますよ。そうです。弱者の恫喝が有効なのです」

「でもそれで向かってきたらどうするんだお?」

もちろん外交だから、失敗する事だってある。

今回は思惑が看破される可能性も高い。

だからといってこちらが譲らなければ、相手の選択は自ずと落ち着く所に落ち着くはずだ。

「その時は腹をくくるしかない。そもそも覚悟の無い国ってのは亡ぶものだ。言いなりになりたくなければ、そうされたくないという意志と決意をもって行動するしかないよ」

戦後日本は、負けても尚一目置かれる国となった。

それは『どんな事があっても国は守る』という命がけの意思と決意で行動したからだ。

神風特攻は愚策中の愚策ではあったよ。

でもそのおかげで、戦後の平和が保たれてきた部分もある。

「分かったわぁ。お父様に話してみるので、具体的にどうすればいいのか教えてもらえる?」

天冉の天然ポワポワな感じが無くなった。

この姫さん、やる時はやりそうだな。

「よし!公使館焼き討ちの抗議を受ける前に対応するぞ!」

焼き討ちのクレームに対して、先に弱腰な態度を取ってしまったら失敗する可能性が高まるからな。

俺は具体的な立ち回りを天冉に説明していった。

説明が終わると、天冉はそれを父親である王様へとテレパシーで伝えていた。

「じゃあお父様、そのように頑張ってねぇ~」

さてこれでどうなるか。

失敗したらどうしようかね。

こちらから攻めこんで猫蓮に『御宅王国』でも作らせるか。

とりあえず俺たちは、一旦ナマヤツハシの町へと戻って結果を待つ事にした。


ナマヤツハシの町に付いたのは丁度お昼の時間だった。

俺たちはみんなで食事をとった。

当然作るのは俺が担当。

少女隊に押し付けたい所だが、こいつら料理魔法の取得を拒否しやがるんだよな。

『料理は他人が作るから美味しいのです』

『そうなのね。自分で作ったらウンコよりも不味い‥‥って菜乃が言ってたのね』

また俺の心を読んでいきなりのテレパシー通信かよ。

つか今の妃子の言い回し、どう考えてもこいつもウンコ食った事あるだろ。

全く、それだけは食うなと教えてあるんだけどな。

『食ってないのね!ちゃんと吐き出してるからセーフなのね』

『そうなのです。情報はちゃんと精査しないと駄目なのです』

どう考えてもアウトだろ。

でも本人がそれで大丈夫だと思っているのだから、俺がとやかく言う事じゃないか。

『ほどほどにしておけよ』

俺がそうテレパシー通信で伝えると、二人のガックリとした感情が津波のごとく俺を襲った。

とうとう負けを認めたようだな。

前作から続く長い戦いだった。

さて料理を食べ終わる頃、鬼海星との交渉結果が天冉にもたらされた。

「そう。上手くいったのねぇ~。良かったわぁ~。うん‥‥、じゃあ向こう十年安心ねぇ~。それでは約束通り、私は好きにさせてもらうわよぉ~」

なんだか電話をしているようだな。

テレパシー通信は、別に声を出さなくてもいいんだけど。

しかし向こう十年は安心か。

それはつまり十年の条約が結ばれる事になったのだろう。

この件に関しては言う事なしだ。

ただ、俺は最後の言葉が気になった。

『私の好きにさせてもらう』

嫌な予感しかしないのだが‥‥。

「という訳で、無事鬼海星王国と不可侵条約を結ぶ事になりました」

「良かった‥‥戦争反対‥‥」

「僕はこうなると分かってました。なんせ狂挙で焼き討ちですから」

「オデは平和な世界から転生してきたから、正直どうなるか心配だったお。流石策也殿はこの世界の人間なんだお」

「ま、まあな」

いや俺も日本人なんだけどな。

多少歴史を知っているだけの三流プログラマーにすぎない。

尤も異世界であるアルカディアでも十五年ほど生きてきたから、猫蓮よりは分かる事もあるかもしれないけどさ。

それでもこの世界ではたったの一日しか先輩じゃないのだ。

俺も分からない事だらけだよ。

世界を見て回る事も必要かもな。

「という訳で、これからみんなで冒険の旅に出ますよぉ~」

「えっ?」

『という訳』ってどういう訳?

えっと話を繋げてみると‥‥。

不可侵条約で向こう十年一応新巻鮭王国は安泰となった。

だから天冉はこれからやりたい事ができるようになった。

そのやりたい事は冒険の旅だった。

「冒険の‥‥旅?‥‥」

「そうよぉ~!子供の頃に約束していたじゃない~。大人になったら世界を見て回ろうって!」

「覚えてない‥‥」

こりゃ、おそらく天冉が今考えた『遠き日の思い出』ではないだろうか。

でも約束したとなれば、狛里なら断れない。

「みんなでって、ここのメンバー全員か?」

「そうねぇ~。猫蓮ちんは領主の仕事があるから残ってもらおうかしら?」

猫蓮が今にも泣き出しそうな顔になった。

「萬屋はどうするのですか?ようやく最近固定客も付いてきたのです」

「誰か雇えばぁ~?別に力のある人が売る必要も無いわよねぇ?それにこの建物内にいれば、策也ちんがパワーアップしたりできるのよねぇ~?防犯も問題ないでしょ~?」

「まあな。この町には宮司をやってる俺の分身もいるから、商品に関してもなんとでもなるし‥‥」

いやちょっと待て。

冷静に考えろ。

確かに俺たちが冒険の旅に出かけても問題はない。

店は天冉の言う通り誰かを雇えばなんとでもなるし、最悪旅先で売ることも出来るだろう。

ただ問題は、この天冉と一緒に行く事と、猫蓮を連れて行かないと意味が無いって所だ。

天冉が強いようには見えないから、とにかく足手まといになり得る。

あれだけの動きができるのだから、戦闘の心得があれば問題はないだろう。

でも今の所そのような所は微塵もない。

仮にそれがなんとかなるにしても、猫蓮をなんとか連れて行かないとな。

「オデも冒険の旅に出たいんだお。領主の仕事はババアメイドの相手ばかりで辛いんだお‥‥」

「俺も猫蓮は連れていくべきだと思うぞ。領主なんて適当な貴族にやらせればいいじゃないか。夢の城ももう形になっているし、俺の分身だって残るから問題ないだろう」

分身でまた何かしなくちゃならないのは辛いけれど、どうせここには分身を置いて行く事になる。

直ぐに戻って来たい時に、分身がいればそれが可能だからだ。

深淵の闇を利用した長距離移動ね。

「そう?じゃあそうしましょうかぁ?」

天冉がそういうと、狛里と想香は渋い顔をした。

まあ一緒にいると気持ち悪いのは分かるが、俺たちもう仲間じゃないか。

「じゃあ決定な。それでいつ出発するんだ?」

ぶっちゃけ闇の家があるし、必要な物は後からなんとでもなる。

準備なんて新しい領主を決める事くらいだろう。

「出発はぁ、明日にするよぉ~。それで今日これから、冒険者登録してきましょう~」

なるほど、そういえばそんなのもあるんだろうな。

旅には金が必要だし、クエストをこなしながらの旅という訳か。

「お金はあるけど、やっぱり冒険の旅と言えばクエストよねぇ~」

金はあるんかーい!

そりゃそうか。

お姫様だしその辺りは心配無用だよな。

それよりも冒険がしたいって、マジでできるとは思えないけれど大丈夫だろうか。

まあ俺たちがフォローするしかない訳だが。

「私は‥‥既に冒険者レベル‥‥八十だよ‥‥」

「流石は狛里ちん。でも実力だけなら既に百になっていてもおかしくないんだけどねぇ~」

「アスモデウスを倒しているのだからそうなるでしょう。ちなみに僕は、あえてレベル五十で止めています。全てのクエストに挑戦できるレベルがあれば問題ないからです」

「想香ならそうかな」

今回ばかりはその通りだと思う。

想香の実力ならレベル百でもおかしくはないはずだ。

「どうやら狛里様と想香ちゃんは、既に冒険者登録をしている立派な冒険者のようなんだお。となると登録が必要なのは、オデと策也殿、そして天冉姫の三人なんだお」

「そうだな。でも一応少女隊プラスも全員登録しておきたいかな」

何処で必要になるか分からないし、登録しておいてデメリットはないだろう。


そんな訳で俺たちは、狛里と想香を置いて早速冒険者ギルドを訪れた。

とりあえずそこでみんな、簡単な魔力テストを行う。

魔力が大きければレベル十からのスタートとなるのだ。

「天冉様は、レベル壱からのスタートとなります」

「あららぁ~やっぱり私は魔力が無いのねぇ~‥‥残念」

そう言う天冉だが、特に落ち込んでいるという訳でもなかった。

顔は笑顔だし、魔力なんてどうでもいいって感じなのかな。

「次はオデだお!」

魔力の計測は、魔力水晶に手を当てる事で測定できるようだ。

ベタな設定だよな。

ただし細かく数値化される訳ではない。

水晶が光る明るさによって、なんとなくレベルが決められるだけだった。

猫蓮が手を当てると、水晶は猛烈に光り輝いた。

「凄いですね。これはマスタークラス並みです。レベル十からのスタートで問題ないでしょう」

「当然なんだお。オデはチート魔法使いなんだお」

猫蓮でマックスか。

ならば俺たち一心同体連中は、全員同じだな。

この世界に来て、見た目魔力が抑えられているとはいえ、それでも猫蓮よりも大きい。

更に抑える事もできるけれど、おそらくこの水晶には分かってしまうのだろう。

結局俺が予想した通り、俺たちはみんなレベル十からのスタートとなった。

そんなだから、当然冒険者ギルド内では注目の的だった。

「すげぇぞあいつら。ほとんどがレベル十スタートらしいぞ」

「何者なんだ?」

「萬屋ぼったくりのメンバーらしい」

「それにあれはこの国の姫さんじゃねぇか」

「レベル壱スタートは姫さんだけらしいぞ」

「姫さんは姫さんだから仕方ないよ」

これはちょっと失敗したかな。

流石に天冉だけがレベル壱だと、拗ねたりするかもしれない。

俺は天冉をチラッと見た。

天冉は笑顔だった。

いつもと変わらない笑顔。

いやむしろ、喜んでいると言った方が良いかもしれない。

なんだこの自信に満ちた表情は?

魔力だけが強さではないし、俺たちのように隠している可能性もある。

無いか!

とにかくそんな感じで冒険者カードが発行された。

これで冒険者登録もできた。

俺は旅に出るのが楽しみになっていた。


次の日、俺たちはいよいよ冒険の旅に出る。

旅はのんびり歩いて行くのだそうだ。

そう言えばそんな旅、アルカディアでもあまりしてこなかったな。

みゆきと出会った頃はゆっくりと歩いたりもしたけれど、大抵はゆっくりと高速で走っている感じだったし。

つかそんな旅で、猫蓮を鍛える事はできるのかねぇ。

出来ればこいつが強くなれるような、ハードな旅が望ましいのだけれど。

「じゃあみんな‥‥行くよ‥‥」

領主の代わりは、適当な貴族が今日中に来る事になっていた。

そして店の方は今日もお休みだ。

現在従業員の募集を出しているところで、俺の分身がその辺り良きにはからう事になっている。

猫蓮が戻ってきた時に喜べるよう、可愛い従業員を雇う事にしよう。

『それは策也タマの願望なのね』

『そうなのです。人のせいにしてはいけないのです』

『ああそうだよ。分身の俺も、やっぱり可愛い子と関わりたいからな』

パーティーのリーダーは、何故か狛里という事になっていた。

というかパーティー申請はまだだけれど、狛里と猫蓮と想香と俺の四人パーティーで行くのだそうだ。

じゃあ天冉は?と思ったのだが、常にゲストという事らしい。

まあよく分からないけれど、そういう風に行くのだからそれでいいのだろう。

何にしても俺たちは、こうしてナマヤツハシの町から旅立つ事となったのであった。

2024年10月14日 言葉を一部修正

2025年2月26日 一部修正

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