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異世界のチートな萬屋店長~一寸神アナザーアフター~  作者: 秋華(秋山華道)
出張編
10/64

異世界ウンコ日記と新たな領主誕生

俺は体の中に妖精を飼っている。

と言っても俺の魂から生まれた俺自身でもある妖精だ。

だから俺の中に妖精がいる状態だと、俺は妖精魔法が使えたりする。

妖精魔法は普通の魔法とは少し違う。

一つは、独自の力によって精霊と同じ魔法が使える事。

だから精霊の加護が無くとも、火、水、風、地の四属性魔法が使える。

更に魔素から得る魔力をそのまま使って魔法を使う訳じゃないので、魔法を封じられても妖精魔法は使う事ができる。

これは俺の経験からとても大きなメリットだと思える。

他にもメリットはある。

それを説明するには、まず魔法と能力について語らなければならない。

魔法と言うのは、空気中の魔素から魔力を取り込み、魔力によって起こす現象の事だ。

魔力を取り込む為には、少しの生命エネルギーを必要とする。

少しの生命エネルギーで多くの魔力を集めるので、奇跡のような力が発揮できる訳だ。

能力というのは、生命エネルギーのみで使う魔法のようなもの。

魔法を封じられても使えるというメリットはあるが、威力は当然魔法に劣る。

ただし能力は魔力を使う事もできるので、結果的に魔法以上の力も発揮できてしまう。

そして妖精魔法だが、妖精は妖力という特別な生命エネルギーを持っている。

その妖力よって得た魔力で更に妖力を高め、それによって起こす現象を妖精魔法と言うのだ。

或いは妖精魔術とも言ったりする。

魔力によって妖力を高める事で、魔力そのものよりも更に大きな魔法が扱える。

だから妖精は魔法に優れていると言われる訳だね。


この日の朝のリビング会合。

そこで狛里から今日の仕事について話しがあった。

「今日は店を開けずに‥‥仕事に行くよ‥‥」

「仕事はなんだお?」

「牛糞肥料で‥‥畑を元気にする‥‥」

またまたウンコかーい!

この話のタイトル、『異世界ウンコ日記』にした方がよくないか?

それにしても、本当に人の嫌がる仕事が回ってくるんだな。

人間が生きていく限り、誰かが嫌な仕事でもやらなければならないのだ。

転生前の世界じゃ、多くが楽をして金を儲けようとしていた。

だから世界には徐々に歪が生まれていた訳だ。

それは教育の失敗でもあるけれど、それだけとも言えない。

本来そういう仕事は絶対に必要なのだから、相応の報酬を貰ってもいいはずなんだ。

それができないから、やる人はドンドン減っていく事になる。

職業選択の自由はあっても、国が規制で仕事の自由を奪っていたからね。

そこで仕方なく外国に安い労働力を求めた。

当然外国人だって報酬に見合わない仕事はしたくない。

仕事から逃げて犯罪に走る人も増えていった。

何にしても、この世界では狛里のように高い報酬で仕事をする人がいる。

これは健全な事だと俺は思った。

ただそれでも、ちょっとおかしな仕事だよな。

普通に畑をやってる人がやれるものだろうに。

「おかしいんだお‥‥転生してチート人生を歩むはずだったお‥‥」

「僕も謎です。剣客にまでなったのは何の為だったのでしょうか?全然覚えてませんが」

確かにこいつらなら、人がやりたがらない辛い仕事をしなくてもやって行けるだろう。

それどころか、貴族や王族にだってなれるかもしれない。

俺なんか神だからな。

でもだからこそ、こういう仕事が大切だと知っている。

誰かがやらなくちゃならないなら、やれる者が積極的にやらないとね。

「とにかく行くぞ!この程度楽勝だろう。それで大金が貰えるのならありがたい事じゃないか」

転生前の世界を知っている猫蓮なら分かるだろう。

金が良いなら十分じゃないか。

「オデの力はこの程度じゃないお。こんな仕事は底辺がやればいい仕事なんだお」

全然分かってなかった。

確かに猫蓮の能力があれば、もっといい仕事はあるけどさ。

だからと言って、底辺が安い金でやるべき仕事でもないんだよ。

こんな考えが日本で当たり前だったから衰退していたんだよな。

「つべこべ言わない‥‥行くよ‥‥」

狛里はどうして困っている人を助けたいと考えているのだろうな。

そこに理由などないのだろうか。

猫蓮と想香はあまり乗り気ではなかったけれど、ゆっくりと重い腰を上げた。


町を出て俺たちは、一応整備されている道を走った。

その道すがら、俺は気になった事を狛里に聞いてみた。

「狛里はどうして困っている人を助けたいんだ?」

「策也ちゃんも‥‥こういう仕事は‥‥嫌?」

逆に聞かれてしまったな。

いやむしろやるべきだとは思っている。

でも能力的にはふさわしくないだろう。

もっと困っている人を助けられるような、普通の人にとって困難な事をやるべきだ。

「俺は別に人助けは嫌いじゃない。頑張っている人なら尚更だ。ただこの仕事は俺たちにしかできないって訳でもないし、この報酬なら普通の人でもやりたいと思いそうだけどな」

ただ俺たちが住むナマヤツハシの町は、割と豊かな町に思える。

金を出しても労働力ってのは集まらないのかねぇ。

「私は‥‥喜んでもらえるなら‥‥なんでも嬉しい‥‥から‥‥なんでもやりたい‥‥でも理由は‥‥それだけじゃない‥‥」

まあなんとなく理由は分かるけれどな。

死んだ両親なんかも関係しているのだろう。

「萬屋家は‥‥代々そういう家系‥‥昔‥‥ご先祖様が‥‥当時の王様と‥‥約束した‥‥らしい‥‥」

想像はできるな。

王様とご先祖様はきっと友人だったんだ。

そしてご先祖様は王様を助けていた。

その時にでも約束したのだろう。

ずっと王族を助け、民を助ける為の萬屋家でいると。

「ジャンケンで‥‥負けたんだって‥‥」

そんな理由かーい!

「でも負けて‥‥良かった‥‥勝っていたら‥‥私今頃貴族で‥‥領主やらされてたかも‥‥」

領主は領主で、困っている人を助けやすいとは思うけどさ。

でもおそらくこうした仕事の出どころは、領主の可能性もありそうだよな。

ならばこっちの方が色々できて、狛里の目的にはより合致しそうだ。

「まあ狛里がやりたいなら俺は付き合うよ」

それに猫蓮が神候補なら、いずれはもっと大きな仕事をする事になる。

「ありがとう‥‥」

それにこんな子は放ってはおけないよな。

萌えキャラを放置したら男の風下だよ。

俺はなんとなく顔がにやけてしまうのだった。


村に到着して仕事を確認すると、早速俺たちは作業に取り掛かる。

「猫蓮は念力が使えるよな。牛糞肥料を全体に広げてくれるか」

「分かったんだお。オデにしかできない事なんだお」

いやもうお前のその魔法、前に見た時にコピーさせてもらっているんだよ。

そして神通力と効果を一緒にして、俺たちはみんな使えたりするんだけどな。

無駄に魔力は使わないのだ。

疲れるし。

「これは便利‥‥猫蓮がいて‥‥良かった‥‥」

「狛里様!そう言ってもらえるだけでオデは最高に嬉しいんだお!」

狛里は凄く嫌そうな困り顔だった。

思ってもみない事を言ったら駄目だぞ。

『なんだか悔しいのね』

『ウンコ仕事は菜乃たちの領分だったはずなのです』

少女隊たちがテレパシーで、何やら物騒な事を言っているな。

聞かなかった事にしておこう。

一時間ほどで猫蓮の仕事は終わった。

「はひぃー!疲れたんだお!もう魔力が無くなったんだお」

猫蓮はウンコまみれの畑に大の字で倒れていた。

よっぽど疲れたんだな。

でも正直その仕事、やらなくても目的を達成する事はできたんだけどさ。

『少女隊出てこい!出番だぞ!』

俺が少女隊にテレパシーで声をかけると、二人は影から出てきた。

「やっと妃子たちの出番なのね」

「今度は何をするのです?ウンコを元に戻すのです?」

「流石にそれをしたら猫蓮が泣くだろ?豊穣の魔法だよ。畑全てに魔法を施してこい」

別に牛糞肥料を使わなくても、畑を最高の状態にする事はできるのだ。

「楽勝なのね」

「五分で終わらせるのです」

つまり最初から五分で終わる仕事だったんだよな。

まあでも猫蓮の魔法は鍛えないと駄目だし、報酬のありがたみもこの方が伝わるってもんだろう。

ただ、狛里と想香は木陰で寝てるだけだけどな。

少女隊の活躍で、畑はすぐに最高の状態になった。

更に今後十年は豊作が見込めるだろう。

「おい狛里、想香、起きろ!仕事は終わったぞ!」

寝ていた二人は、ゆっくりと目を開けた。

でもまだ目は虚ろで、意識はハッキリしていない様子だ。

「えっ‥‥策也ちゃんが‥‥やってくれたの?」

「そうだな。やったのは少女隊だけどな」

「少女隊たちは優秀なのですね。花丸をプレゼントしてあげてください」

お前が花丸を上げればいいじゃないか。

なんで俺が上げる事になるんだ?

まったく、寝ている間にでもおでこに花丸を描いておいてやるか。

「寝ぼけてないで、さっさと帰るぞ」

俺は二人の腕を引っ張り上げ、無理やりに立たせた。

それでも二人はまだ寝ぼけた状態のままだった。

たく、仕方がないな。

俺は二人を脇に担ぐと、全速力で町へと戻った。

門番に挨拶して町に入り、即行で我が家へと戻る。

我が家というか狛里の店舗兼住まいだけどね。

表の通り沿いは割と広めの店舗となっており、脇道を入った所に入口がある。

そこから中へと入って二階に上がり、それぞれの部屋に二人をリリースした。

ベッドに投げ捨てて来たんだけどね。

「ふぅ~‥‥。ようやく一息ついたぜ」

俺はリビングに移動し、ソファーに体を預けた。


幾時(いくとき)が過ぎた。

俺がマッタリとリビングでお茶を飲んでいたら、猛スピードで猫蓮が入ってきた。

「オデを置いて帰るなんて酷いんだお!」

あっ‥‥、忘れてたわ。

「いや、忘れた訳じゃないんだ。お前って格好いいだろ?一緒にいるとどうしてもお前の方に女性の視線は釘付けだ。それが辛くてな。つい別々の行動を選んでしまったんだよ。すまない」

「そうだったんだお。格好良すぎて申し訳ないお。辛い時はいつでも置いて帰っていいんだお」

「そうか。悪いな」

チョロいな。

これでこいつの事は何時でも放置プレイが可能になった。

ラッキー。

なんて思った瞬間、頭の中に地震警報のような音が鳴り響いた。

これはリビング集合の合図の上位版。

戦闘態勢を整えて最速で集まれという合図だ。

何が起こったんだ?

直ぐに狛里がリビングに入ってきた。

「良かった‥‥すぐに出撃できる?」

「余裕だ!」

「まだ魔力が戻ってないお」

「大丈夫‥‥そうだね‥‥」

猫蓮はゲッソリとした顔でかなりヘタっているけどな。

まあでもチート転生者だからなんとかしろ。

気合だよ気合。

転生前の世界では気合を否定する人も多かったが、気合で色々と乗り越えて来た俺としてはその大切さは重々と理解しているのだ。

「何がどうしたのです?というかどうして僕は家にいるのでしょうか?」

「今は気にしないで‥‥とにかく出撃するよ‥‥場所は領主の城‥‥任務は第一王女の救出‥‥」

領主の城に第一王女だと?

つかよく考えたらこの町の事、まだなんも知らねぇんだよな。

あの城は領主の城だったのかよ。

そしてそこに第一王女とか、遊びにでもきていたのかね。

何にしても俺たちは、即行で城へと向かった。

しかし城に行ったとして、俺たちは入る事ができるのだろうか。

なんて思っていたけれど、柵門の門番は倒れており門も開いたままだった。

そのまま俺たちは中へと入る。

気配から戦闘が行われているのが分かった。

しかし千里眼と邪眼が無いのは不便だぜ。

状況を把握する為の探索系魔法すらこの世界には存在しない。

本当に大変だよ。

俺の頼みの綱は五感の能力だけ。

魔力的に俺たちを殺れるような奴らはいない。

ならば別々に行動しても大丈夫だろう。

「俺は上から‥‥」

俺は皆に指示を出そうとした。

しかしそれよりも早く、狛里は城の方に大きくジャンプした。

狛里は知っているんだ。

きっとあそこに姫さんがいるという事を。

俺は想香を脇に抱えて後を追って跳んだ。

「うわっ!何をするんですか!?」

「お前、此処までジャンプできるか?」

「高いのです!ですが本気を出せばきっとできたはずです」

想香ならギリギリ届くかもしれないが、今は試している時じゃないからな。

「待つんだお。魔力がもうあまりないから飛行は辛いんだお」

猫蓮はそう言いつつも俺たちの後をついてきていた。

狛里が窓を突き破り城に入っていった。

俺もそこから後を追う。

猫蓮もヘトヘトになりながらついてきていた。

こいつ魔力回復が遅そうだな。

魔力の絶対量は割と多いんだけどな。

「大丈夫?‥‥天冉(てんねん)ちゃん‥‥」

「あら~狛里ちん。助けに来てくれたのねぇ~ありがとう~」

なんだろうかこの子。

服装から考えても間違いなくお姫様なんだろうけれど、この子が登場した途端に緊迫シーンがお花畑に変わったぞ?

「姫様!大丈夫ですか!?」

部屋の入り口から、そう言って騎士が飛び込んできた。

「怪しいヤツ!」

「大丈夫よぉ~私の友達だからぁ~」

この子はきっと凄い姫さんだ。

どんな苦境に立たされても、殺される寸前であっても笑っていられる子に違いない。

俺たちは脱力してただ立ち惚けていた。

「あれ?あなたは萬屋の?」

「うん‥‥萬屋狛里‥‥救出の依頼があって‥‥助けにきた‥‥」

「それは助かる!」

狛里って、割と顔を知られているんだな。

まあこの世界の町なんてそんなに広くは無い訳で、多少有名人であればみんなが知っていてもおかしくはないか。

どう見てもこの町で一番強いのは狛里だろうし。

部屋の入口の方が騒がしくなってきた。

刺客か何かは知らないけれど、この天冉とかいう姫さんを目当てにする奴らが来たのだろう。

「俺たちの出番みたいだな」

「オデはもう魔力が残ってないお」

「雑魚の気配です。僕一人で十分でしょう」

想香がやる気だな。

一人でも大丈夫そうだし、倒すのは任せる事にしよう。

俺は常に守る事だけ考えていれば大丈夫だな。

ドアの外に敵らしき者の姿が見えた。

黒ずくめで顔を隠し、いかにも悪党といった感じで分かりやすい。

能力はそこそこ高そうで、この町の番兵辺りと比べればかなり上だ。

「萬屋!?何故ここにいる?」

「中央村に行っているはずではなかったのか?」

こいつら、俺たちが中央村で仕事をする事を知っていたのか。

つまり狛里に畑の仕事を依頼してきた者となんらかの関係がある可能性があるな。

俺は少女隊にテレパシー通信を送った。

『逃げる奴がいるなら捕まえておいてくれ』

『捕まえるのね?』

『大猟を期待するのです』

少女隊は集めたり捕まえたりするのが好きだからな。

狂ったように全員確保してくれるだろう。

その為に少女隊には、魔封じの結界と拘束の魔法を覚えさせてある。

「僕の敵ではありません!おとなしくお縄を頂戴するのです!」

振動刀で峰打ちとかするのね。

流石剣客というだけあって、対人だとその華麗さが際立つ。

部屋の前まで来た四人の刺客は、すべて想香に倒され気を失っていた。

「これで終わりでしょうか?」

「多分な」

少女隊が出て行った時点で、もうここに刺客が来る事はないだろう。

あいつらだってもう神の域だからな。

なんて思っていたら、窓から刺客と思われる者たちがポンポンと投げ込まれてきた。

窓際に綺麗に十五人が詰み上がっていた。

「クソッ!どうなっているこいつら!」

「強すぎる!」

「魔法が使えないのはどういう事だ?」

それは魔封じの拘束、手枷足枷が付いているからだよ。

「合計十九人か。お前ら、姫さんをどうするつもりだったんだ?」

俺は詰み上がる刺客たちの中で、元気そうな奴らに聞いてみた。

「何者だお前は?」

「アレは萬屋の狛里じゃねぇか?」

「今は中央村に行ってるんじゃ?」

それはもうさっき聞いたよ。

面倒だな。

洗脳して聞き出そうか。

「多分理由は分かりますよぉ~」

天冉とかいう姫さんが話しかけてきた。

「そうなのか?」

「はいぃ~。この人達は多分、鬼海星(おにひとで)王家に雇われた殺し屋さんたちですぅ~」

えらい明るく言うんだな。

俺たちが来るのがもう少し遅れていたら、今頃死んでいたかもしれないのにさ。

「また鬼海星‥‥一度痛い目見せないと‥‥駄目‥‥新巻鮭家を‥‥思い通りにはさせない‥‥」

天冉や狛里の口ぶりから、こういう事は今までにもあった感じだな。

つまり鬼海星王家とやらが、力や脅しによって新巻鮭王家を属国にでもしようとしているのかね。

「それでどうして姫さんはこの城に来てたんだ?この町の警備は手薄でこうなる事が分かっていたんじゃないのか?」

この城の守りは完全に崩壊している。

他は生きているか死んでいるか分からないけれど、駆け付けてきた騎士は一人だけ。

領主は何処かに隠れているのかもしれないが、ほとんどがやられている。

狙われているのに此処に来るのは自殺行為じゃないだろうか。

「この町は狛里ちんがいるからぁ~一番安全なんだよぉ~」

「でも来るなら‥‥言っておいてもらわないと‥‥危なかったよ‥‥」

「あれぇ~?忘れてたぁ~?」

何にしても助かったな。

畑作業が一時間程度で終わったから良かったけれど、普通に一日仕事だったら天冉は死んでいたかもしれない。

「それでどうするんだ?捕まえた十九人の処遇とか、この後の姫さんとか」

「さっきから姫さんって呼ばれてますぅ?天冉でいいですよぉ~?」

割と気さくな姫さんのようだ。

「そうか?じゃあ天冉、どうするんだ?領主がどうなったかも調べないとだけどさ」

「領主さんたちは、殺さてるかもしれませんねぇ~」

そんなに明るく言われてもさ。

俺はテレパシーで少女隊に聞いてみた。

『どうだ?領主らしき者は助けられたか?』

『どれが領主か分からないのです』

『でもこの部屋にいる者以外はみんなご臨終なのね』

あらあら、天冉が此処に来た事で領主一家は全滅ですか。

この姫さん、割と関わらない方が良い系じゃないだろうか。

「今少女隊に調べてもらったんだが、この城で生き残っているのは此処にいる者だけらしいぞ」

「また私を残して、みんな死んでしまわれるのですねぇ~」

天冉が軍人なら、間違いなく『死神』ってあだ名が付けられていただろう。

つかそんな事言ってる場合じゃないよな。

領主が殺されたんだぞ?

どうすんのこれ?

「それでは仕方がないですねぇ~。この中の誰かに領主をしてもらいましょう~」

天冉はやっぱりヤバい。

関わらない方がいいと俺の勘が告げている。

「俺は絶対にやらないぞ!」

「私も‥‥当然拒否‥‥」

俺と狛里は即行で拒否した。

狛里もそういうキャラじゃないよな。

「あらあら~。そうなるとぉ~」

天冉は唯一の生き残り騎士を見た。

「いえいえいえ!私はただの騎士です。戦う以外には何もできませんよ!」

当然だな。

この世界がどういう世界かまだハッキリとは見えないけれど、騎士になるにはずっと訓練を重ねてきたはずだ。

領主として必要な知識なんて何一つ持っていないはず。

そうなると想香も駄目だろうな。

皆の視線が想香に向いた。

「僕ならできなくはないでしょう。でも遠慮させていただくのです。それにこういう時は、寝ている人が請け負うものかと」

想香は部屋の隅に腰を落として眠る猫蓮を見た。

猫蓮か‥‥。

おそらく中身は日本のオタクだ。

きっとネット三昧で、SNSではそれなりの地位を築いていたに違いない。

今までの振る舞いから思想はハッキリとは見えなかったが、この世界に転生してきて神になるのだとしたら悪くはないはずだ。

俺も結局指導者側の人間をさせられ神になったのだから、猫蓮もまたその道こそが神へと続いているのかもしれない。

「俺は賛成するぞ」

「じゃあ‥‥私も‥‥」

「それがこの世界の定めなのです。きっと猫蓮さんも涙を流して承諾するはずです」

その涙が悲しいものでなければいいけどさ。

俺は猫蓮の元へと行って、頬を少し叩いた。

「おい起きろ!猫蓮喜べ!お前は異世界に来てとうとう領主になる事ができたんだぞ!」

「ん?領主だお?」

「はい。それに領主ともなれば貴族の仲間入りをする事になりますよぉ~」

マジか天冉?!

天冉の顔はずっと同じで笑顔だ。

何を考えているのか分かりにくい奴だな。

でも嘘という訳ではなさそうだ。

「良かったな。貴族だ。これでお前のモテモテ異世界生活がスタートするかもしれないぞ」

「マジだお?‥‥嬉しいんだお‥‥」

俺は皆を振り返った。

「そういう訳で猫蓮は承諾したみたいだ。こいつ今は魔力切れでこんなだけど、結構強いから安心してくれ。きっと天冉の事も守ってくれる」

「おお!それは心強いぞ!」

喜んでいるのは唯一生き残った騎士だけか。

俺たちはただ厄介事を押し付けただけだからな。

「では私はぁ~狛里ちんの所にしばらく厄介になるからよろしくねぇ~」

「えっ?」

「家にくるの?‥‥どうして‥‥」

「だってぇ~、新しい領主はなんだか気持ち悪いんですものぉ~」

猫蓮よ、お前の事を思うと涙が止まらなくなるぜ!

こうして、猫蓮は領主となり貴族となった。

たかだか王女が勝手に決めた事だと思う事勿れ。

このお姫さまは、父親である国王ですら逆らえない決定権を持っているようだった。

うん、分かるよ。

この子にはかかわりたくない何かがあるよね。

それなのにこれからしばらくは一緒に暮らすのか。

嫌な予感しかしないよ。

2024年10月14日 言葉を一部修正

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