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A4のブックファイル

あいつが、結婚式をあげた。泣きじゃくるあいつを見て、あの頃を懐かしく思い出す。


※この作品は「ノベリズム」でも掲載しています。



 日課の、インスタ巡回をしていた時だった。




 あいつの、結婚式の入場シーンが流れてきた。




 ひとりでまず入って来たのだろうが、扉が開く前から泣いていたらしい。手で涙を拭って、泣きじゃくりながら歩く姿にクスリとした。








 思えば、やつとの縁も長い。保育園のころ、目立っていた陽気なガキンチョがあいつだった。小学生にあがって、クラスは別れたものの。昼休みの読み聞かせ会で隣に座って肩に寄りかかった覚えがある。知らない人ばかりだった新入生で、心細かったのだろう。あいつは太陽みたいなやつだった。




 その後も、特段仲の良いこともなかったが。帰りのホームルームで大声で言い合いをして、その後の保護者面談の時に担任に保育園からの友達だと伝えたら驚かれたっけ。そんな素振りなかったのに、急に遠慮もなしに怒鳴り合う姿にびっくりしたのだとか。けれどそれでなのね、と納得もされた。




 私も普段は基本的に人懐っこい子供で、感情を剥き出しに怒ったことはそうそう無かったのだ。お互いに気心が知れているからなのねと言われて、なんだか嬉しかった。




 授業中ふざけて先生に怒られるあいつの耳をなぜか引っ張っていさめていた覚えもある。痛いよ!と煙たがれていたけれど、その距離感が私の特権のように感じていた。




 中学にあがり、同じクラスになることも多かった。しかし思春期も迎えて早々に話さなくなり、パーソナルスペースも広がり、お互いに元々仲が良かったというわけでもなく。












 一度、他の男友達も交えて私達について話したことがあった。不思議な関係だよなと。お互いに異性として見ていない。けれど、私はあいつのムードメーカーな所に一目置いていて、あいつも私の真面目で努力家な所をすごいと思っていると言ってくれた。




 それで、充分なはずだった。








 移動教室の時だった。




 前には、私の存在に気付いていないあいつと、女友達。話の脈絡はわからないが、女友達がふと言った。




「○○は? 結構仲良いじゃん。」




「あー、あいつは女じゃないから。」




 フッと、何かが私の中で、今にしてみれば水々しく弾けた瞬間だった。




 気付けば手に持っていたA4のブックファイルで、あいつの後頭部を力任せにぶっ叩いていた。




「痛ってぇ!!!!!」




「悪かったわね、女じゃなくて。」




 冷静を装って吐き捨てて、気持ち足早に先に行った覚えがある。




 今なら解るのに。あの言い表せなかった苛つきが、「異性として見てもらえない悔しさ」だったなんて。かといって、今さらどうこうなろうとも思わない。お互いにパートナーを見つけた今、それを壊してまでの強い執着でもない。




 ただ、あいつのお相手がきれいで、笑顔が朗らかで、優しさに満ちていることに安堵している。私の大事な幼馴染み。幸せでいてねと、切に願うのである。


(2021/4/22)

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