(6)
竜の傷は完全に癒えた訳ではないが、すっかり正気を取り戻したようだ。
岩肌と化した半顔は、呪いの侵食が反対側の目にまで進んでいた。
翼は、飛躍が完全に不可能である事を物語っている。
「リヴィアはどこなんだ?」
言語を持たないのは分かっていても、何か合図を出さないかとビクターは問いかける。
しかし竜は、俯くだけだ。
「お願い連れて行って!
急がないとやられちゃう!」
フィオの説得にも、寂し気な目を震わせるのみ。
それを見ていたジェドは、何となく、先程の自分を重ねる。
竜もまた、胸で何かと戦っているのではないか。
「皆を助けるのよ!
あたし達人間なんだから魔法は使えないの!
手伝ってもらわなきゃ勝てない!
早く帰りたいのよもう!」
早口のシェナからもつい、本音が飛び出た。
興味津々で、ここに来てみたい気持ちに駆られていた事が嘘のようだ。
その隣でページと睨み合うジェドは、目を疑う。
全頁が埋められていない事に絶句し、前を捲って糸口を探った。
「湖……高い……影……」
目に留まった言葉を読んだ時、三人は灰色の湖を見渡した。
西の島の跡地のように暗いそこに、影を見つける事は難しい。
「……川……強い……流れる……繋がっ……てる……」
フィオは目を閉じ、ジェドの言葉の片鱗を繋ぎ合わせながら、その意味を想像していく。
魔女も高い影のようだったが、やはり建物がどこかにあるのか。
これまで通過してきた景色に、そんなものはあっただろうかと、あらゆる記憶を辿る。
すると、何かが目の奥を擽るように震えた。
視界は徐々に、涙に濡れたように潤んでいく。
暗いまま、水中にいるような景色が浮かび上がると後方へ流れ去り、見覚えのある茂みが生える風景が映し出された。
これは、通過してきた呪いの森ではないか。
そして靄がかかり始めると、その先に巨大な塔が現れ、消える。
「森!」
フィオはそれを呼び止めるように声を張りながら、目を見開いた。
瞬間的な出来事でありながら、その世界を駆けていたのか。
全身が汗ばみ、肩で息をしている。
彼女の急な反応に、三人は戸惑いながら森を見た。
「森に何かあるの!?――」
「茂みや木を抜けた先に、霧が見えた!
その向こうに長い建物がある!」
シェナが訊ねるところ、フィオは捉えたものを忘れる前にと被せていく。
一体全体どうしてそんな事が分かるのか。
三人は暫し目を瞬く。
フィオも何故そんな事が言えるのかが分からない。
見たものは見たのだと目を擦り、もう一度見えないかと目を閉じてみる。
だがもう、何も浮かんではこなかった。
ほんの数秒の間に夢を見たような、ぼんやりとした空間だった。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




