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*完結* 大海の冒険者~空島の伝説~  作者: terra.
第八話 侵入 
94/133

(3)




 四人の悲鳴は今にも喉を裂きそうだ。

食わせてなるものかと、ビクターは咄嗟に角に飛びつき、腹で竜の巨大な片眼を覆う体勢になる。

フィオは髭を最大限に引っ張りながら、食べるなと懇願の声を上げ続けた。

続くシェナは、ジェドが竜の口内に消えるのを恐れ、目を瞑って叫ぶ事しかできない。

そこへまたしても、彼女の叫びに呼び寄せられるように大風が吹き荒れた。

力強い上に凍てつくような冷たさを真に受けた竜は、糸が切れたように身を屈めて止まる。

またそれだけでなく、森を埋め尽くす青い炎までもが一斉に鎮火した。






 一帯に響いていた音が止んでも、四人は石のように動かない。

じきに事の静まりに気付くと、恐る恐る顔を上げ、目前の状況を確かめた。




 ジェドは間一髪、竜の下顎を抑えるように片足を噛ませ、上半身は上顎にへばりついている。

フィオは彼の無事に大きく安堵した。

ビクターは竜の片眼に覆い被さったまま、突っ伏して動かないジェドに声を震わせる。




「おい……おいジェド起きろ!

起きろよ、なぁ!」




無反応を見せる彼から、更なる恐怖が襲った。

何か言うか動くかしろと、震えて言葉にならない代わりに胸で切望し続ける。

その想いが通じたのか、彼の手が小さく動いた。




 ジェドは体勢を維持したまま拳を握り、竜の硬い肌を力無く叩く。

その後間もなく、竜の頭が緩やかに下がると、彼はそこから滑り下りて着地した。

すっかり冷静さを取り戻した竜は、未だ顔を彼の傍に近付けたまま静止している。

彼の片腕は鼻に乗せられたまま、顔は深く突っ伏していた。




 まるで心ここにあらずな様子のジェドに、フィオとシェナが心配して近寄ろうとする。

しかし彼は、力無くそれを払い退けると重い足取りで湖を向き、ふらふらと皆から離れていってしまう。




「ジェド……?」




フィオが不安気に呟いた時、ビクターが飛び下りた。

彼は足早にジェドの元へ向かう。

やっと下りられたというのに、背中を小さく丸めたままの彼はどうしたのか。

後の二人もビクターに続こうとした矢先、彼は無言で振り返っては二人を止めた。







挿絵(By みてみん)




 寂寥を含む風は、まるで西の島に潜った時を思わせる。

一層暗闇と化した、辿り着いた時とは比較にならない空島。

透明感を失った湖に、灰色の砂。

ジェドは、震える片手で首後ろに触れ、俯いたまま呟く。




「……いい加減にしろよっ」




あの時、カイルに死なないと放った自分が過る。

今の自分に心底呆れ、山のように嵩張る最悪の事態にとにかく腹を立てた。




「帰れんのかよっ……なぁっ……」




ビクターの視線はあてもなく彷徨う。

目の前で、とうとう剥き出しになった見た事のない友達の姿を、手は勝手に抱き寄せていた。









大海の冒険者~空島の伝説~


後に続く

大海の冒険者~人魚の伝説~

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




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