表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*完結* 大海の冒険者~空島の伝説~  作者: terra.
第八話 侵入 
93/133

(2)




 その間、竜の背後に回ったビクターは、尻尾を伝って背中に登ろうとしていた。

深い切り傷に覆われたそこに、つい目を引き攣らせる。

それらに触れないように移動するのは至難の業だ。

血で凝固した鬣を掴みながら、背筋と思われる部分に沿って、ゆっくりと頭に近付いて行く。

時折邪魔する振動で転ばないよう、懸命にバランスを取りながら、頭頂部に生える欠けた角と耳に向かった。




 しかし、下の三人の力が敵う筈もなく、下がっていた頭が持ち上がりだすと、髭を掴む手はみるみる滑る。




「大人しくしなーっ!」




髭を放すまいと、シェナは半ば宙に浮いた状態で竜に放った。




 「もっと引っ張れ!」




ビクターは、背中の中央から三人に叫ぶ。

こちらの苦労も知らないでと、ジェドは竜の背中に引っ込んだビクターを睨んだ。

フィオは、宙で足が暴れるシェナを越え、更に先を掴むと体重をかける。

痛いのか重いのか、それともこちらを見ようとしているのか、竜の頭は再び下がった。




 その隙に、最後尾で髭を引いていたジェドが、目前にまで下りた顎の近くまで駆ける。

しかし彼が手放した反動か、竜の顔がまたも上がり始めると、シェナとフィオが宙に浮かびながら叫び声を上げた。




「止まれっつってんだ!」




ジェドは、下顎の位置が目線を超えようとする直前に蹴り上げる。

その途端、フィオとシェナが握ったままの髭が蛇の如くうねり、二人を地面に叩きつけて解放した。

その流れでジェドに巻きつくと、竜は彼を宙に高々と持ち上げる。

唐突な出来事に叫ぶ事しかできず、ジェドは胴体の髭にしがみ付く。




 「バカっ!」




何とか竜の頭に辿り着いたビクターだが、その遥か真上に持ち上げられてしまったジェドを見て、怒号を上げずにはいられない。

彼はライフルを構え、浮上したジェドと、その腹に巻き付く髭の延長線上に視点を絞り、照準器を覗く。

しかし宙を泳ぐ髭の動きは速く、狙いが定まる筈もなかった。

ビクターは酷い緊張に手汗を滲ませ、歯を鳴らす。




「ちょーっと下ろしなさいっ!

食べないでーっ!」




必死になるシェナの要求に応えようとするように、森から力強い熱風が吹きつけた。

竜はたちまち大きく煽られる。




 頭頂部に乗るビクターが、慌てて角を掴んで体を支えた。

視界からジェドが消え、忙しなく辺りを見渡す。




 ジェドは、竜が傾いた影響で僅かに位置が下がった。

麓で足が浮上していた二人は髭を手放すと、彼を掴もうと飛び跳ねるも届かない。




 その時、竜は再び彼を持ち上げてしまう。

三人の嘆きもよそに、そのままジェドに大口を開いた。

彼は右半身を下向きに、口内の奥に続く暗い穴の底に向かって急降下する。









大海の冒険者~空島の伝説~


後に続く

大海の冒険者~人魚の伝説~

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ