(4)
フィオは潜水に必要な道具の支度をしていた。
鉄の残骸、建物の骨組みなどのガラクタを再利用して手掛けたゴーグルや槍、銛は、島暮らしの必需品だ。
素潜りを徹底するが、長い潜水では酸素シリンダーも使う。
奇跡的に残っていたそれは短時間用のものがほとんどで、数少ない消耗品だ。
ジェットスキーに使用する燃料を、実際にこの島でも作っていた形跡もあった。
その為の化学薬品も残っていたとはいえ、今はまだ、それらを量産するところに至っていない。
大人達からは散々、機具の酷使を控えるよう言われているのだが
「おじさんごめん」
そう呟いて装備を整えると、家を出た。
漁船が桟橋に着くと、碇が下りる重い音が胸にまで響いた。
雨は弱まり、あんなに冷たかった風も幾分か温かい。
人々は奇妙な変化に不思議に思うばかりだった。
そこに紛れて聞こえたのはまたしても、あの唸り声だった。
「!?」
誰しもが驚く中、フィオは家で聞きつけた時よりも大きなそれに、持っていた装備品を落としてしまう。
鼓動はなかなか落ち着かない。
その傍ら、不気味で怖いながらもその謎を突き止めたい気持ちが高まる。
彼女は遠くからの人々の騒ぎ声を背に、落とした物を急いで拾うと、ジェットスキーを停めている桟橋へ駆けた。
林を抜けた先に伸びるそこには、四台のジェットスキーが波に大きく揺れながら縁を擦っている。
海に出るばかりで倉庫に入れず、雨ざらしだ。
故障したと分かれば、大人達は何て言うだろう。
少々気にはなってもやはり、唸り声の好奇心に勝る事はなかった。
桟橋の手前まで来ると、荷物を置いて武器の確認をする。
西の海の深海魚から身を守るため、ナイフと槍は必要不可欠。
手製の槍には工夫が施され、伸縮性のある優れもの。
ナイフを出すと、そこに映る自分の顔が、寒さのせいでか青白かった。
漁船からは魚が多く下ろされている。
途中で切り上げたとはいえ、十分な収穫だ。
波打ち際に集まる人々は、唸り声の話で持ちきりになっている。
怯える子ども達はすっかり、自宅から出ようとしないそうだ。
そんな、不安と心配の声が飛び交う中
「まぁまぁ、言ってもすぐまた天気は戻るさ」
お気楽なレックスが下船し、何ともないだろうと更に加える。
「サッパリしてやがる」
カイルが持っていた縄をレックスに託した。
「こんな世の中だ。ポジティブでなきゃな」
船内をブラシで擦る音が聞こえるのを横に、レックスはカイルから受け取った太い縄を肩に担ぐと、次の作業に向かった。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します