(14)
魔女はどうにか浮力を保ちながら、シェナの噛み付くような声に耳を塞ぐ。
そして、赤い眼光を鋭利に放ちながら、焦燥混じりに彼女を睨みつけた。
未だ頭部を掴まれたままのフィオは痛みに暴れていると、魔女は彼女を再び湖に激しく叩きつけてはシェナを掴もうとする。
しかし、すばしっこいシェナはすぐさま潜り、その手を躱してみせた。
「このクソ餓鬼!」
取り乱す魔女の隙を捉えたビクターは、銃口でその顔を狙うが――
「愚かなっ」
魔女は彼を花で笑い飛ばしながら、彼に、流血する右手で小さく何かを放り投げる動作を見せた。
その横からシェナが勢いよく飛び出し、自分を掴もうとしていた魔女の手に飛び付くと、噛みつく。
「っ! おのれ忌々しいっ!」
シェナは呆気なく振り解かれ、湖に叩きつけられると、透かさず首から引き上げられる。
ビクターは照準器を下ろし、見せられた動作が気がかりで辺りを忙しなく見渡した。
何も起こらない奇妙な状況に、不安が込み上げる。
「よそ見すんな!」
背中合わせになっていたジェドの怒号を耳にしても、ビクターは返事をせず辺りに集中する。
その様子を捉えたジェドは彼の肩を掴み、大きく揺さぶった時――見えた。
ビクターは咄嗟にジェドの両肩を掴むと、共に激しく横転する。
陽炎が、彼らの顔を危うく擦り抜けかけた。
「立て!」
ビクターはジェドを掴む。
漁船での事が一気に蘇っていた。
何が何でも、それに接触する訳にはいかない。
「走れ! 絶対止まるな! ついて来い!」
攻撃手段が分からず、ただ逃げるしかない。
一方、ジェドは何も捉えられないが、漁船での彼を思い出し、信じて従い続けた。
魔女は、陽炎から躍起になって逃げ回る二人を高笑いする。
その傍ら、フィオが水中から激しく飛び出し、遠くの彼らに目を剥いた。
「何したの!?」
フィオが魔女を睨みながらナイフを構えた矢先、真上から強い衝撃を受け、痺れが足先まで迸ると視界が閉ざされる。
魔女は杖で彼女の頭を殴打し、沈めた。
「フィオっ!」
首を掴まれたままのシェナが声を絞り出すと、森に渦巻く異臭と血の臭いが入り混じる生温い風が、魔女を再び煽った。
「……っ! おのれその声ぇっ!」
魔女はシェナを掴む手に力を込め、そこから漏れる苦痛の声を殺しにかかる。
ビクターは、一瞬の風に舞う砂煙に視界を遮られ、足が遅れた。
それでもジェドに背中を向け、盾になる。
「何やってんだ逃げるぞ!」
「伏せろ!」
陽炎を捉えられるのは自分のみ。
再び生じた時は、決めていた。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




