(12)
二人は、見るに堪えないグロテスクな容姿に大きく息を呑む。
魔女との睨み合いは続き、薄気味悪い静寂に満ちていた。
ビクターとジェドの出方を待っているのか、魔女は瞬きなしに、今度は鋭利な黄色の目に変えて二人を射止める。
それは、漁船が海に呑まれる直前、宙に見たものと同じだった。
鼓動が更に速まる。
ジェドは槍を、ビクターはライフルを強く握った。
その手はどうしようもなく震え、叩きのめしてみせるという感情とはまるで結びつかない。
魔女の眼光が再び淡い赤に灯ると、視界が徐々に霞み始めた。
微かだが、目の奥が熱されているような感覚に陥る。
早くフィオとシェナの元に向かわねば、どうにかなってしまう。
ビクターは緊張を解そうと、下を向いた。
友達を守り、必ず全員無事で帰還してみせる。
せねばならない。
「なぁおい……」
ジェドの小声に、ビクターはそっと振り向いた。
「あいつ……あん時のウミヘビじゃねぇか……?」
こんな時に心底信じられない発言だと、ビクターは呆れる。
ジェドは、いつか四人で遊んでいた時に取り逃がした海蛇と魔女を重ねていた。
白と黒の縞模様をした珍しいそれを、散々虐めた記憶がある。
「……なんだそれ」
彼の場違いな発言はしかし、ビクターを自然と綻ばせる。
当の彼は真面目に話しているが、そこには何となく、僅かであれ恐怖を紛らわそうとしているようにも窺えた。
そんなふとした呟きが緊張を和らげ、武器を握る力を決意に変える。
宙に直立して動かない魔女は、二人の小言に鼻で笑った。
どこか楽しむ様を含ませながら、口角を上げていく。
その時、横から激しく水を浴びせられ、赤い眼を鋭くフィオに向けた。
「出て行きなさい化け物! 消えて!」
フィオは怯えながらも怒りをぶつける。
その最中、沈みかけるシェナを慌てて支えるのだが、即座に顎を引っ掴まれ、再び顔を間近まで寄せられた。
「フィオ!」
森を出たところで立ち尽くしていた二人は、いよいよ走る。
真っ先にジェドが湖に駆け込み、魔女の腕に乱暴に掴みかかった。
「!?」
まるでビクともしない腕の皮膚から剝離音がし、彼は感触の違和感に思わず手を放す。
見ると、魔女の顔と同じ模様の鱗が大量に付着していた。
魔女は低く笑いを溢すや否や、ジェドの腹を杖で殴る。
その反動は凄まじく、彼は背後に追いついていたビクターと共に岸まで跳ね返された。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




