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*完結* 大海の冒険者~空島の伝説~  作者: terra.
第七話 悲痛 
83/133

(10)




※(6)の末尾

 ビクターとジェドの口論の続きに戻ります








……


………




「引っ込めっつってんだろ!」



「仕舞えってんだバカが!」



「てめぇ俺が言った時は仕舞わなかったくせに!」




ビクターは、漁船の倉庫での出来事を思い出しながら怒鳴っていた。

それもよそにジェドは苛立ち、とうとう槍を最長に伸ばすとビクターの頭を打とうとした途端――リヴィアを吊るす荊が軋み、二人の動作が同時に止まる。

その異変を目にするなり、互いを見合うと彼女に見入った。




「ぐっ……」



「リヴィア!?」




彼女の喉が鳴り、二人は言い争いなど忘れて武器を仕舞うと、再び彼女の名を呼びながら、しっかりしろと肩を揺らす。

しかし




「ぐああああっ……!」




これまで聞いた声とはまるで違い、不気味な濁声を大きく上げると両目を強く光らせた。

そして体を自ら激しく揺すり、荊を強引に千切ろうとする。

赤と青の眼光は鋭く、端の二人の目が眩んだ。




 三人が乗っかる大木が、狂気に荒れるリヴィアにより激しく揺れ動く。

二人は彼女を支えるよりも、自分達が落下しないよう幹に掴まるのに精一杯だ。

切り離してやるから落ち着けと、身を支えながら声を張り続けても、今の彼女はすっかり心を失くしていた。






 フィオは静かに佇む薄暗い湖に出た。

滝壺に出ると思いきや景色が違っており、自分達が浮上したところなのだろうかと、不安の目で見渡す。

とにかくシェナを回復させるために、駆け足で腰の辺りまで浸かっていく。




「もう大丈夫シェナ! もう治るわ!」




黒ずみ、毒々しい紫を傷の縁に浮かべるシェナ。

深い爪痕はまるで、直接心臓を奪おうとされたかのようだ。




 浸かると傷が治るとされる湖は、二人が負った傷を細かいものから徐々に癒していく。

フィオはシェナを抱き寄せ、更に肩まで浸かった。

時折、来た道にも目を配る。

よく聞き取れないが、騒ぎ立てる声はジェドとビクターだろう。

リヴィアは下ろせたのだろうかと、気が気でない気持ちを今は堪えた。




 空島に辿り着いてから、命が幾つあっても足りない事態に遭遇してばかりいる。

必ず解決してみせるとは言ったものの、次々訪れる凄まじい恐怖のせいで帰りたい衝動に駆られ、勝手に涙が溢れだす。

島の皆の顔が、この場に薄くかかる靄に浮かんでは消えた。




 ここには誰もいない。

どこを探しても、いつも助けてくれていた大人はいない。

グリフィンすらも。









大海の冒険者~空島の伝説~


後に続く

大海の冒険者~人魚の伝説~

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




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