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*完結* 大海の冒険者~空島の伝説~  作者: terra.
第七話 悲痛 
82/133

(9)




※リヴィアとグリフィンの出来事はここまでです







 グリフィンに巻き付く細かい棘からは、血が流れている。

下部達は、この光景に興奮が止まらないのか。

蔦の拘束は強く、彼は呼吸をするのがやっとのまま、正面に現れた背の高い黒い者を睨む。

恐らく魔女だろうが、何を言おうにも声が出ない。

それに腹が立つ最中、どういうつもりか相手も動かず沈黙を貫いている。

彼は蔦に体温を奪われているような感覚に陥り、全身が凍えた。




 そこへようやく、影が歯を光らせると笑みだけが漏れる。

何が愉快かと、グリフィンはどうにか声を絞り出した。




「失せろっ……!」




しかし影は、彼の僅かな抵抗を掻き消すように、地面を何かで一つ軽く叩きつけた。




 まるで木の枝でも落ちたような乾いた音を耳にした途端、足先から頭頂部にまで痺れが迸り、目は閉じられない。

すると、縛り付けられている大木の根元が激しく揺れ、軋み始めた。

地面が割れ、根が剥き出し、いよいよ宙に浮かんでいく。

拘束する蔦はびくともせず、彼を羽交い絞めにしたままだ。




 茂みの中で萎縮するリヴィアは、荒々しく漏れる息を手で塞ぐ。

これではまるで、彼を見放しているようだ。

けれども自分の居所を特定されては、多くの生命が途絶えてしまう。

残酷でならない自分がますます憎たらしくなるが、体は全く動かない。

否、動かそうとしないのだ。

心のどこかで、これを仕方がないとしている。

物音を出す訳にはいかず、彼女は声を殺して大粒の涙を流しながら顔を地面に突っ伏した。




 巨大な大木の影は、彼女が潜む茂みの真上を素早く通過し、そのまま音も無く消えてしまう。

下部は一層騒ぎ立てながら崖に駆け寄ると、真下で激流する川を見下ろした。




「探せ……」




低く擦れた声はその後、陽炎と共に消えた。

下部達はその場を何周も回っては、魔女がいたところで立ち止まり、二体が先に陽炎を立てながら消え去る。

その後、一体が足元に落ちていた四角い物体を鎌で雑に払い退け、嘲笑を上げながら同じように姿を眩ませた。






 一気に静まり返ったそこに、茂みの中のリヴィアだけが残る。

彼女は恐る恐る這い出ると、手に何かが触れた。

今しがた、下部が弾いたものだ。




 弱々しくそれを拾うと、よろめきながら立ち上がる。

涙が止まらないまま、踵を返して崖の下を覗いた。

髪が大きく風に靡き、ローブが払われる。

手にするものを胸に、耐え難い痛みが襲いかかった。

彼が雑に纏め上げた本を、そっと額に当てると、涙に咽る。




「助けてっ……助けてっ……」




これを言うこともまた、ずっと情ないと思い続けてきた。

それに、自分以外に誰もいないここで、誰に縋れというのか。

壊れかけた島や世界を守る責務は、神である自分にある。




 つい溢してしまった遅過ぎる願いは流しきれず、額に当てたその表紙に、力が含まれた青く光る雫が落ちる。




 刹那、突風が彼女を大きく崩し、本が滑り落ちた。

まるでそれを奪うように奇妙な動きをする風に、彼女は反射的に手を伸ばす。

しかし間に合わず、それは激流の先に呆気なく消えてしまった。




………


……










大海の冒険者~空島の伝説~


後に続く

大海の冒険者~人魚の伝説~

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




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