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*完結* 大海の冒険者~空島の伝説~  作者: terra.
第七話 悲痛 
80/133

(7)




※リヴィアとグリフィンの出来事を

 3部に渡ってお送りします








……


………




挿絵(By みてみん)




 黒に侵食されゆく、美しき青の森。

厚く嵩張る雲はまるで、空を幾多も塗り重ねて太陽までも覆い尽くし、植物たちはすっかり陽光を忘れてしまった。

異臭の靄が滞り、負の感情を招く冷気は、植物の生気を奪い続けている。

乱立する黒い木々の合間を二人が乱暴に駆け抜け、ついに、激流の音と霧が立ち込める崖まで来てしまった。




「頼む、聞いてくれリヴィア!」



「寄るな!」



「機械があるなら、俺は分かるかもしれない!」



「この戯け!

何をしたところで奴に愉楽を与えるのみ!

人間がこれ以上、出過ぎた真似をするな!

然さもなくば私が貴様を放つぞ!」




グリフィンは目を伏せ、込み上げる悔いと焦燥を抑えると、彼女にゆっくり歩み寄る。

なかなか引かない彼に、リヴィアは青い眼光を鋭利に灯すと、歯を鳴らしながら竜の唸り声を上げた。




「助けたい……君も、この島も……世界もだ」




 リヴィアは心底うんざりした。

神である自分が片を付けられないというのに、彼の言葉など、とんだ戯言にしか聞こえなかった。




 苛立ちが頂点に達し、詰め寄る彼の首を大きく爪で引っ掻いた。

しかし彼は、そのか細く震える青白い手を瞬時に掴み止め、放さない。

首に負った浅い爪痕から細い流血を見せても、痛みなど見せやしない。

太く、温度のある手に更なる力が込められ、リヴィアは解放を求めて竜の悲鳴を上げる。

そのまま彼の頭まで浮上し、宙で掴まれた鳥の如く猛反発しながら暴れ狂った。

様々な負の感情によって自制心までも失った彼女は、青い炎や眼光を宙に乱雑に放ち続けてしまう。

恐ろしく強い抵抗力にグリフィンは引き摺られ、崖下に石が転がった。

落下するまいと、彼は全体重をかけて精一杯彼女の手を掴んで踏ん張った。




「離せ! 忌々しい人間が!

出てけ! 帰れ!」




それはまるで、幼児が暴れる様にも似ていた。

グリフィンはただただ彼女が尽きるまで手を放さず、悲痛の叫びが治まるのを待ち続ける。




 しかし、その態度がリヴィアの怒りに拍車をかけた。

彼女は眼光を増幅させ、彼を鋭く蔑むとローブから斧を引き抜き、片手で振り翳す。

鋭い刃の光が靄を照らした時、グリフィンはたちまち彼女の手を放すと真横へ転ぶ。

入れ違いに振り下ろされた刃が大きく地面に減り込み、亀裂が光を上げながら多方面に走った。

その内の一筋が真正面に生える大木に伝わり、軋み音を上げて真っ二つに割れ、無惨に倒れる。




 グリフィンは、息を荒げて疲弊するリヴィアに大きく飛び付くと抱き寄せた。

彼女は纏わりつく彼の両腕を、微力を絞り出して引っ掻き続ける。

だが、彼はどうしたって引き下がらない。

何をしても無駄であり、また、己の力もこの程度かと落胆し、涙が勝手に溢れ出る。




 リヴィアが大人しくなり、グリフィンは冷や汗を拭いながら安堵する。

後から追いついた、彼女の爪による傷の痛み。

しかし、そんな事は更にどうでもよかった。

これ以上、彼女が自分自身を傷付けてしまうよりは。

ここの神々が負う痛みは、この程度のものではないのだから。









大海の冒険者~空島の伝説~


後に続く

大海の冒険者~人魚の伝説~

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




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