(4)
ジェドは耳と鼻に集中した。
滝壷であれば、水の流れやその匂いがするだろうと探り始める。
けれども羽虫の音や、先程の獣の声が再び遠くから聞こえ、なかなか求めている音が聞こえない。
少々苛立ちながら頭を振ると、今度は景色に目を這わす。
暗くてよく見えないが、必ず明るいところが見つかるだろう。
否、見つけて見せる。
そう言い聞かせながら、懸命に葉や枝の隙間の隅々まで調べ続けた。
そしてようやく、遠くの方で淡い白い光が差し込むのを捉えた。
ジェドはそこを指差し、皆で先を急ぐ。
その時、彼は何かに大きく躓き、転倒した。
不意に立ち止まるビクターに背後のフィオが衝突し、危うく皆が転びかける。
ビクターの背中から落ちかけたシェナをフィオが慌てて支えた時、胸が止まりかけた。
「シェナ!?」
とうとう何の反応もしなくなった彼女の呼吸を確かめようと、フィオは顔に耳を近付ける。
弱々しく細い息を立てているが、今にも聞こえなくなるような気がしてならず、ビクターと共に一気に顔を青褪めた。
ビクターは先を急ごうと、ジェドの背後を横切り森の出口を抜けようとした。
だがまたしても、足止めを食らう。
ジェドが躓いたものについ、目が留まった。
見覚えのある銀色の長い柄のようなものが、もの寂しく横たわっている
「これは……」
ビクターが呟く傍ら、ジェドはそれに指先だけでそっと触れてみた。
冷たくて太いそれには、鱗の模様が綺麗に並んでいる。
途中には群青色の石が埋め込まれ、先を辿ると、青と黒をした茂みに隠れてしまっていた。
「斧だ!」
ビクターが、リヴィアが振り下ろしたもので間違いないと声を上げる。
しかし、何故ここにあるのだろう。
「リヴィア!?」
嫌な予感がしてならず、フィオが焦りに声を放つ。
しかし返事は無い。
この辺りにいるのではないかと、三人は草陰や乱立する木の向こうに向かって、彼女を呼び続ける。
落としたままいなくなるなど、ありえるのだろうか。
ジェドは顔を顰めながら、これまでの事を振り返る。
自分達が化け物に襲撃されている傍ら、彼女の身にも何か起きていたのか。
しかし、この場所は通常で考えると、最後に彼女が立ち去った方角とは真逆の位置にあたる。
ジェドはますます疑問を抱きながら、その斧を拾い上げようとした。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




