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*完結* 大海の冒険者~空島の伝説~  作者: terra.
第七話 悲痛 
75/133

(2)




「いたか!?」




フィオはジェドに頷くと、見当がついた横の茂みを進もうとする。




「おい待て!

曲がっちまったら分からなくなる!」



「でもこっちだと思う!」




懸命なフィオを疑いながらも、自信に満ちた目を暫く見た後、ジェドはついて行った。






 「シェナー!」




フィオが声を張り上げた時、二人の頭上を何かが瞬時に通過し、枯れ葉や枝の雨が降り注ぐ。

その速度や風圧から、何か途轍もなく大きな物に思えた二人は、鼓動が速まる。




 嫌な予感しかしない二人は、茂みを掻き分けて走った。




「シェナ! ビクター! 逃げて!」




その何かは、この先にいるであろう二人に確実に接近しているだろう。

フィオは痛みや不快感も忘れ、息を荒げながら進み続ける。

ジェドが必死で後を追うと、向かう先から獣の威嚇する声が大きく放たれたのを聞きつけた。






 「!?」




奇妙な獣の声に、シェナが辺りを見渡す。

彼女に揺さぶられていたビクターが、やっと上体を起こした。




「何だ今度はっ……」




未だ残る気分不良に抗いながら槍を握り、耳をすませた。




 その時、シェナの真横の茂みが激しく揺さぶられた。

それに振り向くや否や、四肢を持った巨大な黒い獣が飛び出し、太い牙を剥いて襲いかかる。

鋭い爪は、シェナの胸元から腹にかけて大きく引っ搔き、深い傷を負わせた。

激痛の叫びを上げた彼女は転倒して蹲る。

その声に合わさるように足元から熱風が吹き荒れ、森の枯れた植物が天まで上昇して消えた。






 殺意を滾らせる獣も赤い眼光を放ち、リヴィアの半顔にも見られた岩肌が胴体を部分的に覆っていた。

青い汚れが体毛を固着させている。

それは威嚇すると共にビクターに飛びかかろうとした――刹那、彼の顔の横を槍が急速に過り、獣の眉間に命中した。

獣は激痛の叫びを上げながらも倒れず、槍を振り払おうと暴れる。




「ビクター!」




フィオが背後から彼に飛びついた。

ジェドはぐったりするシェナに駆け寄り、頬を叩く。




「起きろ! 立てシェナ!」




三本の爪痕からの流血は酷い。




「痛い痛い痛いっ!」




ジェドに揺らされ、シェナは悲鳴交じりに訴える。




 獣は流血するシェナに殺気立つと、更にジェドを睨んだ。

彼は舌打ちすると、銃を構える。

不死身の様を見せる獣は、槍が刺さったまま大きく跳躍し、彼の顔に向けて牙を剥き出す。

それが到達しかかる時、ジェドは目を瞑ると恐怖に満ちたまま発砲した。

獣は腹を貫かれ、激しい悲鳴を上げながらジェドに覆い被さる。

彼は攻撃の余地を奪われ、重く圧しかかられたせいで呼吸困難に陥った。









大海の冒険者~空島の伝説~


後に続く

大海の冒険者~人魚の伝説~

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




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