(2)
「いたか!?」
フィオはジェドに頷くと、見当がついた横の茂みを進もうとする。
「おい待て!
曲がっちまったら分からなくなる!」
「でもこっちだと思う!」
懸命なフィオを疑いながらも、自信に満ちた目を暫く見た後、ジェドはついて行った。
「シェナー!」
フィオが声を張り上げた時、二人の頭上を何かが瞬時に通過し、枯れ葉や枝の雨が降り注ぐ。
その速度や風圧から、何か途轍もなく大きな物に思えた二人は、鼓動が速まる。
嫌な予感しかしない二人は、茂みを掻き分けて走った。
「シェナ! ビクター! 逃げて!」
その何かは、この先にいるであろう二人に確実に接近しているだろう。
フィオは痛みや不快感も忘れ、息を荒げながら進み続ける。
ジェドが必死で後を追うと、向かう先から獣の威嚇する声が大きく放たれたのを聞きつけた。
「!?」
奇妙な獣の声に、シェナが辺りを見渡す。
彼女に揺さぶられていたビクターが、やっと上体を起こした。
「何だ今度はっ……」
未だ残る気分不良に抗いながら槍を握り、耳をすませた。
その時、シェナの真横の茂みが激しく揺さぶられた。
それに振り向くや否や、四肢を持った巨大な黒い獣が飛び出し、太い牙を剥いて襲いかかる。
鋭い爪は、シェナの胸元から腹にかけて大きく引っ搔き、深い傷を負わせた。
激痛の叫びを上げた彼女は転倒して蹲る。
その声に合わさるように足元から熱風が吹き荒れ、森の枯れた植物が天まで上昇して消えた。
殺意を滾らせる獣も赤い眼光を放ち、リヴィアの半顔にも見られた岩肌が胴体を部分的に覆っていた。
青い汚れが体毛を固着させている。
それは威嚇すると共にビクターに飛びかかろうとした――刹那、彼の顔の横を槍が急速に過り、獣の眉間に命中した。
獣は激痛の叫びを上げながらも倒れず、槍を振り払おうと暴れる。
「ビクター!」
フィオが背後から彼に飛びついた。
ジェドはぐったりするシェナに駆け寄り、頬を叩く。
「起きろ! 立てシェナ!」
三本の爪痕からの流血は酷い。
「痛い痛い痛いっ!」
ジェドに揺らされ、シェナは悲鳴交じりに訴える。
獣は流血するシェナに殺気立つと、更にジェドを睨んだ。
彼は舌打ちすると、銃を構える。
不死身の様を見せる獣は、槍が刺さったまま大きく跳躍し、彼の顔に向けて牙を剥き出す。
それが到達しかかる時、ジェドは目を瞑ると恐怖に満ちたまま発砲した。
獣は腹を貫かれ、激しい悲鳴を上げながらジェドに覆い被さる。
彼は攻撃の余地を奪われ、重く圧しかかられたせいで呼吸困難に陥った。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




