表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*完結* 大海の冒険者~空島の伝説~  作者: terra.
第七話 悲痛 
74/133

(1)




 「行くぞ……」




ジェドは警戒しながら、擦れた声でフィオに囁く。

未だ震えは治まっておらず、互いに力を合わせてゆっくりと立ち上がった。

摩擦によって浮かび上がる青白い光は、真っ暗闇の空間に潜む二人を柔らかく慰めるようだ。

フィオがそれを見届け、近くに横たわる亡骸に恐る恐る目を向ける。

辛うじて捉えられる二つの塊は、細い煙を微かに立てていた。

これらが、グリフィンが言っていた魔女の下部達なのだろうか。

どれくらいの数が存在するのか。

既に胸がいっぱいだというのに、この先で何度目にするのだろうと、フィオは不安に身を縮めていく。




「フィオ!」




大きく肩を揺らされ、彼女はやっと呼ばれている事に気付く。

こちらを窺うジェドの顔や体は、敵の黒い血で汚れ、恐怖に背筋が凍りついた。




「しっかりしろ……

ちょっと前に、シェナの悲鳴が聞こえた。

近くにいる……行くぞ」




早くも冷静さを取り戻している彼の目は、次に向けて真剣になっている。






 黒い森に漂う独特の焦臭さには血の臭いも混ざり、嘔気を催すほどだった。

少し進んで、滝壺からの光がぼんやり射し込むところまで出る。

敵の気配はない。

そこで改めて、自分達の姿に息が詰まった。

知らぬ間に負った傷も、今になって疼き始める。




「早くあの水に入ろ……」




震えるフィオにジェドが頷くと、後の二人の方へ急ぐ。






 再び暗がりに入ると、足が液体に触れた。

血溜まりだ。

二人は悲鳴を上げると共に目を剥き、あとずさる。

そこへ、遠くから声が聞こえた。




「起きてビクター!」




二人は顔を見合わせ、シェナを呼びながら居所を探る。






 蛇行せず、真っ直ぐ森を進みながら必死に二人を呼び続けた。

異臭が時々、その声を遮り咳を催す。




「何処だ!」




近くで聞こえたはずのシェナの声に、いつまでも辿り着けない。

辺りを見渡しても黒い木々が乱立し、獣が威嚇する声だけがどこからともなく聞こえるだけだ。

来た道を振り返れば、滝壺からの光は完全に見えなくなっている。

随分奥まで来たようだ。

しかし、同じ景色に囲まれ、すっかり方角が分からず立ち止まってしまう。




「シェナー! ビクター!」




ジェドが叫ぶ横で、フィオは震える体を擦りながら、落ち着きを取り戻そうと目を瞑る。




 大丈夫、大丈夫と心で言い聞かせていると、目の奥に広がる暗闇からじわじわと画が浮かんだ。

どこかで、シェナとビクターが地面に座っている様子が見える。

ビクターはシェナに支えられ、苦しそうに呼吸をしている。

そして彼女の背後から、何かもっと黒い影が動いたような気がして――






 「っ!?」




たちまち目を見開いては、激しく辺りを見渡した。









大海の冒険者~空島の伝説~


後に続く

大海の冒険者~人魚の伝説~

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ