(24)
※ビクターとシェナの1シーンで締める為
約1540字でお送りします。
一方、ビクターとシェナは走り続けている。
二人に向かって、鎌が乱雑に宙を切り続けていた。
その手捌きは素早く、瞬く間に周囲の枯れ木に派手な傷を残していく。
切られた蔦や枝が降り注ぎ、視界を遮られて走る速度が落ちてしまう。
二体は嘲笑し、もたもたする二人を煽り続けた。
二人が振り返って見上げた先に飛び込んだのは、刃先。
シェナはそれを捉えるなり大きく真横へ転倒し、躱してみせた。
それに釣られたビクターが体勢を崩し、繋いでいた手が離れる。
刃先は寸秒遅れで地面に突き刺さり、ビクターは間一髪足の貫通から逃れた。
一体がシェナの髪に掴みかかると、蛇の牙を光らせる。
「いったっ! 放してバカ!」
彼女は透かさずナイフを抜き、引っ掻くように敵の手を切りつけた。
悲鳴を上げる敵の横からもう一体が飛び込むが、ビクターがライフルのストック部分で殴打する。
衝撃と共に仰向けに倒れた敵はローブが脱げ、赤目が露わになった。
暗い森の中、その輪郭はほぼ同化して見分けがつかないが、ビクターは一か八か、顔面と思われる位置を発砲。
撃たれた敵は動かなくなると、残る一体はそれに焦燥する。
傍で倒れるシェナの足を掴むと引き摺り、そのまま来た道を戻っていく。
敵は小さい割に腕力があった。
力を一層加え、彼女がどんなに足で激しく抵抗しても離れない。
止めようと地面に爪を立てても、不釣り合いな美しい微光が虚しく彼女を見送る。
「助けてビクター!」
その絶叫に合わさるように、彼はシェナの細い両腕を掴む。
しかし全身の震えが邪魔をし、敵の力に負けて前に転んだ。
それでもすぐに彼女を掴み直す。
シェナは胴体に走る激痛に、更に叫んだ。
暗い宙で、敵の赤い眼光が強まる。
ビクターはそれを凝視しないよう中腰になると地面を踏ん張り、敵に向かって飛び掛かった。
敵は彼の攻撃に金切り声を上げる。
圧し掛かられる胴体から颯爽と腕を抜き、弓を構えられない代わりに矢だけを握ると、ビクターの背に振り翳かざす。
「やめてっ!」
シェナの焦りに従うように、どこからともなく力強い熱風が吹き荒れ、草木を激しく横殴りした。
敵に覆い被さっていたビクターが風圧で横転し、敵から大きく引き離される。
解放された敵が体勢を整えると、眼光を増幅させながら牙を剥き、持っていた矢で再び彼に襲いかかる。
シェナが槍を素早く伸ばし、敵の真横に駆けては勢いよく頭から叩きつけた。
顔面から地面に崩れた敵はすぐに顔を上げ、眼光を鋭くさせる。
直視してしまった二人は目が眩んだ。
敵はビクターに身を起こされる前に、彼の顔、胴体と連続的に蹴り飛ばす。
その時、ふわふわした見た目とはいえ、敵には確かに肉体が存在していると分かった。
ビクターは、足の痺れに抗いながらナイフを抜いた。
しかし震えによってナイフが滑り落ち、衝撃を受けた地面が寂しく光っては消える。
敵は立ち上がる彼に金切り声を上げて攻め寄った。
もたついて生まれた僅かな隙に敵の更なる接近を感じると、何とか横移動してシェナを背に敵に目を凝らす。
体力と思考が追いつかず、焦燥していた。
その時、踵が敵の鎌の柄に触れる。
敵が威嚇しながら弓矢を構えると、シェナが大きく屈んだ途端――縦に風が音を立てて走り抜け、全身が濡れた。
先程まで上がっていた甲高い威嚇の声が、あっと言う間に断たれた。
シェナは恐る恐る顔を上げると、ビクターが立っていた。
敵は頭上から鎌を振り下ろされ、動かなくなている。
体からは、薄い白煙が上っていた。
シェナが腰を抜かして悲鳴を上げると、その真横でビクターが地面に突っ伏し、状況に耐えられずに吐いてしまう。
シェナは苦しむ彼に這い寄り、抱きしめた。
何か言葉をかけようにも、声が嗄れて一言も出ない。
二人はそのまま地面に身を預け、辛うじて動く腕を互いの肩に回した。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




