(23)
ジェドの手を放すまいと、フィオも力を込めていた。
後方から来る二体を捉えると、彼女は悲鳴を上げながら槍を我武者羅に振り回す。
敵の鎌と剣が打ち合う金属音が、焼けた臭いが漂う森に響き渡った。
奇妙な獣の悲鳴が遠くから聞こえる。
視界はより暗くなっていった。
灯がない上に地形が分からないまま進み続けても、不利だ。
ジェドは足を止めると振り返り、フィオを勢いよく後方に押しやる。
彼女は彼の背後に激しく転倒するも、咄嗟に身を起こして姿勢を低く構えた。
ジェドが腰のナイフを抜き、迫る一体に焦点を当てる。
それは牙を剥き出しながら飛躍すると、頭上近くまで接近した。
彼は懸命に冷静さを保ち、落下速度と角度を見定める。
そして見事、敵の下顎から真上を目掛けてナイフを突き上げ、命中させた。
血が肌に降り注ぐのを感じ、身の毛がよだつ。
だが、もう一体が透かさず剣を彼に振り翳した。
「危ない!」
堪らずフィオが叫ぶも、異常な敏捷性を見せるジェドは、振り下ろされた剣から翻り、その刃は先程仕留めた敵に落とされる。
彼はフィオの元に崩れ落ちるように駆け寄った。
酷い事態に腰を抜かし、全身の震えが何もかもを妨げる。
それでも動きを止めるまいと、背中のライフルを慌てて構えた。
手は血で滑ってしまうが、どうにか力を込める。
狂気の声が赤い剣光と共に真っ直ぐ降り下ろされる時、ジェドのライフルを持つ手にフィオが手を添えた。
上がる息と目が合わさると、互いに息を呑み、目を瞑ると同時に引き金を思い切って引く。
その大きな反動に声を上げる間も無く、二人は激しく後方に倒れた。
弾は闇に消えるも、命中したか。
最後の敵が、地面に静かに落ちて煙を上げる。
二人は異臭と血の滑りに嗚咽を上げ、鼻をすすりながら怯えた。
白煙を上げて横たわる敵から目を背ける。
全身する荒い息が、一向に整わない。
それでも、追手が片付いたと分かると安堵し、互いに抱き合った。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




