(21)
皆は一時、リヴィアの微笑む姿に虜になっていた。
よく聞かされてきたおとぎ話のお姫様とはこんな感じなのだろうかと、つい比較してしまう。
そして、ジェドの溜め息が静寂を切った。
「ずっとこうしてらんねぇ。動き出そうぜ」
この間にも、自分達の島の危機、魔女の計画が進行していると思うとやはり落ち着かない。
ジェドはフィオから本を受け取り、ロープで腰に固定した。
先程まで感じていた安心感が途絶え、どことなく気味悪い空気を漂わせる周囲に、皆は肩を竦める。
リヴィアが立ち去った影響なのだろうか。
目前に揺れる青い炎に変化はなくとも、空気は冷えていく。
何とか話しができたとはいえ、ほとんどが分からないままだ。
それに張り詰めた緊張感に少々疲れたフィオは、気を引き締めようと目を瞑る。
閉ざされた視界のずっと奥で振動を感じ、その違和感に眉を顰める。
その振動が伝えるのは、何かが来る映像。
それが流れ始める現象は、まるで夢をみている感覚に似ている。
どうしてそんなものが見えるのかと、何気なく目を開けた瞬間――
地響きが起きた。皆は激しく転倒する。
「何だ!?」
ビクターが叫ぶや否や、妙な気配がした。
辺りを忙しなく見渡すと、滝壺の一部が歪むのを捉える。
察した彼の呼吸は、次第に荒くなっていく。
漁船に浮上した陽炎ではないか。
彼は直ぐさま空を仰ぐ。
厚く嵩張っていた雲がなくなっているかと思うと、いくつかの黒い大群が急降下してきた。
「避けろ!」
ビクターの声を合図に、皆は地面に激しく飛び込んだ。
場所を入れ替わるように、青い炎は木々と共に荒々しく飛散する。
巨大な着地音と振動が合わさったそこに、砂による細かな光を含んだ煙幕が生じていた。
その向こうから、次第に狂騒が湧き始める。
シェナが恐怖に声を上げ、震えた。
瞬時に風が砂煙を払い除けると、落下してきた群が露わになる。
それらもまた、黒いローブを纏うのだが、肌は白黒の斑模様を持ち、まるで蛇を彷彿とさせる。
青や赤の汚れが付着しており、足元は暗くぼやけて輪郭が分からない。
目は煌々と赤く灯り、時折見せる牙は間違いなく蛇のもの。
しかし、背丈は腹程までの高さをしていた。
群の一体一体は、身の丈よりも長い錆びた鎌、弓矢、剣を脇腹から引き抜いた。
それらの武器に四人は圧倒するも、恐る恐る槍を構える。
一体が短く金切り声を上げ、刃で風を切った途端――爆発が起き、四人は爆風で森の入り口まで吹き飛ぶと全身を強打した。
痛みを表情に滲ませながらも、どうにか立ち上がる。
群はそこに稀少な血を見るや否や、甲高い声を上げて興奮し、発狂しながら攻め寄り始めた。
蠢くそれらに、四人は悲鳴を上げて引き下がる。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




