(19)
「捨てた? なら何で海にあったの?」
シェナの問いにふと、リヴィアは何かに気付いたのか、口を覆った。
目を丸くさせながら瞬く様子に、先程までの恐ろしさがすっかり消え、どこか可愛らしくも見える。
その表情からだ、自分を疑っているのか。
「だが私にはもう……力がない……」
「魔法が使えないって事?」
続くシェナの問いに、リヴィアはただ目を左右させて動揺する。
何かに混乱している彼女を見て、ジェドが大きく溜め息を吐きながら寝そべった。
整理がつかないような話し方をする彼女の心を、無理矢理掘り起こすのも違うのかと、思考を巡らせる。
急ぐ必要があるにせよ、島で大人が自分にしてくれるように、慎重に向き合うべきなのだろう。
また、そうしてもらえる事のありがたさや安心感。
そのままであっていいと思える嬉しさ、自然と自ら問うたり語ったりしたくなる気持ちも、分からない訳ではなかった。
「でも、今こうして私達の手元にある。
何かの縁かもしれないわ」
フィオは本に目を落とすと、続ける。
「私達が来た事で、もっと危険に追い込んだかもしれない。
だけど助けられる可能性がある限り、戦うべきよ」
最後の言葉に力が込められると、リヴィアは再び目を閉じた。
火の粉の音だけになると、ジェドが身を起こす。
「このままじゃ何も戻ってこねぇぞ」
リヴィアは苦渋に満ちた表情を浮かべると、顔の左半分を覆った髪に触れ、晒した。
それは、最初に湖で見た時よりも悍ましいものだった。
憂色を隠せない四人。
もし反対側を隠してしまえば、リヴィアだと認識し難い。
茶色い岩肌に、黒と赤に染まる瞳が埋め込まれたようになっている。
呪いが体を侵食していると語り、彼女は力無く髪を戻すと続けた。
「私は……私でなくなりかけている………
いずれあなた達の事も……きっと……」
そして、言い終える事なく立ち上がると、踵を返してしまう。
悲しむ声は涙ぐんでいた。
もう、身も心も殆ど崩れてしまい、再起の術が見出せない。
この地の者が務めを果たせないでいるというのに、人間が何をしたところで同じだろうと、深く渦巻く負の心に顔を突っ伏した。
「待てよ」
ビクターが咄嗟に引き止めるところ、シェナがリヴィアに近付き、その肩に触れた。
ずっと火の傍にいたにも関わらず、酷く冷え切っている。
伏せていた目から、涙が溢れ落ちた。
一滴の小さな雫は一瞬にして乾き、跡形もなくローブに消える。
「大丈夫よ」
リヴィアは、ころんと投げかけられたフィオの声に耳を貸した。
単純な一言だというのにどういう訳か、不思議と緊張を和らげる。
一体どこから、そんな自信が湧いてくるというのか。
この、身を延々と委ねていたくなるような温かさは何でできているのだろうと、導かれるようにフィオに顔を向ける。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




