(18)
「なぁリヴィア……もう一人で戦うな」
先程まで怒りを握っていたジェドが、そっと投げかける。
これまでの彼女を見て、何となく苦しんでいるのを、どうしてよいか迷っているのを、肌で感じ取っていた。
ジェドが指先で地面を叩きながら、ずっと俯いたままのリヴィアを眺めている。
笑っているのか、泣いているのか、痛みに苦しんで震えているのか分からないが、何か言って欲しかった。
「大体、あんな奴に大事なもん渡すなよ」
続けざまに飛ぶジェドの声に、リヴィアは少し顔を上げる。
「仲間、いんだろ? 会いてぇだろ?」
彼女の弱り切った細い手に、力が入る。
彼の言う通り、仲間がいた。
すっかり容姿が豹変してしまい、また、そのまま消されてしまった愛しい存在。
こうして身を潜め、僅かながらに力を残していても何もできない自分が、憎たらしい上に醜く、助けようにも先に負の感情に呑まれそうで怖い。
それすら言葉にできず、おもむろに震える手を口元にやる。
「取り返そうぜ……もう一人じゃねぇんだから」
彼の言葉は温かい。
温かいのだが、同時に逆撫でしてくる。
リヴィアは歪む心情を滾らせながら睨んだ。
「人間に何ができるっ……」
フィオの顔が更に曇る。
先程から、震えてばかりいるリヴィアの黒い背中を見ていた。
そこからは、怒りよりも悲しみが大きく滲み出ているように感じた。
素直でない様子に、首を小さく傾げる。
周囲の枯れゆく森を眺めては、その情景をそのまま彼女の姿に重ねた。
このままでは彼女自身が壊れてしまい、魔女にされるがままになるのではないかと、心で慌てる。
「お前達は来た……もう、奴の手の内だ……
今に闇に落ちるだろう……」
震える声は低く、裏で涙を呑むように擦れていた。
シェナは肩を下ろし、じっと聞いている。
自分もまた、言葉をかけたい。
しかし、ビクターやジェドのようにいいものが浮かばない。
もどかしさが小さな指先に集まり、触れ合う。
「彼のように消されるっ……」
リヴィアは、過るグリフィンの影に、怒りと悲しみに満ちた目を震わせる。
そこへ、フィオが口を開いた。
「私達にできる事は、今に分かるわ」
そう言ってジェドに本を寄越すよう、手を伸ばす。
リヴィアはそれを見るなり、表情が一変した。
「グリフィンもこの本も、この島を助ける為に色々教えてくれた」
リヴィアは目を見張り、それに釘付けになる。
「……どうしてそれを」
彼女の骨ばった指が、自然と本に触れようとする。
「私が……捨てた……」
リヴィアの声は高く、優しい囁きに変わっていた。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




