(17)
睨み合うビクターとリヴィアの影が、激しく青に揺れる。
ジェドはビクターの横顔から、リヴィアの態度にしつこさを感じているのを捉えた。
それを表に出さず、冷静に話そうと努めている事も。
それを心で理解しながら、警戒心に満ちたリヴィアに向く。
すると彼女は、鋭利な目を緩めるとあっさりシェナの隣に腰を据えた。
シェナは、リヴィアの目深に被るローブを少しばかり覗く。
髪で厚く覆われた隙間から、群青色の目に影が落ち、すっかり昏い瞳に変わっているのが見えた。
「……お前達は、命を捧げに来たのか」
リヴィアの冷ややかな発言に、四人は顔だけ驚く事しかできなかった。
「悪い事は言わん……私が手を打つ……
だから、帰りなさい……」
四人が何かを言う前に更に続けた彼女は、これまでの物言いと少し違う。
言い終わりは寂寥を含むが、柔らかく、優しさを感じた。
そして今、瞼を閉じてしまっている。
「嫌っ!」
「手を打つって、どういう意味?」
シェナとフィオの咄嗟の言葉に、リヴィアは虚空で冷たく佇む体を溜め息に揺らす。
「助けに来たなどと戯言は要らん……」
誰もが耳を疑った。
ジェドは無言を維持するも、不愉快に小さく歯を鳴らす。
彼の握る拳が微かに震えた時、フィオがそれを見兼ね、彼に落ち着けと言わんばかりに首を横に振る。
彼の拳は、地面に力無く叩きつけられた。
そこへビクターが、肩に立てかけていた槍の麓に視線を落とし、暫し考えてから口を開く。
「拗れたな……
君は多分、そんなじゃなかったと思うけど?」
リヴィアは彼を射抜くような眼差しを向けると、青い眼光を灯し始める。
こうも容易く乱れてしまう己にもまた、独り苛立ち、ひっそりと悲しみに暮れていた。
「この島を何とかしねぇ限り、俺達の世界も危ない。
君はどうやら、大事な事を忘れちまってるようだから教えてやる」
その言葉に、彼女は目を一層鋭くさせる。
随分と偉そうな口振りだが、これもまた、先に来たグリフィンと似たものを感じてならない。
「自分の居場所や仲間が危険に晒されっと、どうにかしたいって思うもんなんだよ。
それがどんな相手であろうとな」
リヴィアは静かに嘲笑を浮かべる。
端に座るシェナが、不安気な表情のまま見守っていた。
態度が大きく変化する彼女は、本当はどういう存在なのだろうか。
先程の優しい声をしていた時とは、今は別人になっている。
「グリフィンに何しでかしたか知らねぇけどよう、君も油断すんな。
同じ事は俺達には効かない」
言い終えるとビクターは悪戯な笑みを浮かべた。
途端、リヴィアの眼光はふわりと消え、読み取り難い、硬い表情になる。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




