(15)
刹那、地面が小刻みに揺れ始める。
シェナは恐怖し、しゃがみ込んだ。
フィオも身を屈め、滝壺で佇むリヴィアを呼ぶが、返事がない。
四人は滝壺に広々と生まれる連続的な波紋に気付き、変化に目を凝らす。
その時、ジェドが咄嗟に何かを察し、滝壺に最も近かったフィオの襟首を大きく引いた。
彼女が転倒すると同時に、巨大な水柱が高々と上がる。
激しいしぶきは雨の如く瞬く間に打ち付け、全身がずぶ濡れだ。
だが、そんな事もお構いなしに、四人は滝壺に目を奪われる。
そこには、あの竜が再び姿を現した。
最初に出会った時よりも距離が近く、容姿の特徴をより明確に捉えられる。
炎を吹く気配はなく、四人を暫し睨むとリヴィアに顔を寄せ始めた。
岩が食い込むような硬い凹凸の肌や、両眼の色が違うところもまるきり同じだった。
太いロープのような髭は、緩やかな動きを見せる。
それぞれが器用に別の動きを見せんがら、静かにリヴィアの体に巻き付いていくと、ふわりと持ち上げた。
彼女は疲れ果てた表情のまま、目を力無く光らせると、竜の目にもそれが伝わり、唸り声が止む。
リヴィアがそっと岸に運ばれると、フィオとシェナが支えた。
やっと素直に身を預ける彼女の体から、巻かれていた髭が速やかに解かれる。
その髭に興味を持ったジェドは、自然と手が伸びるが
「触るな」
リヴィアの擦れた警告に彼は肩を跳ね上げ、手を引っ込める。
髭が遠ざかると、竜から弱々しい声が漏れた。
それを聞きつけたリヴィアが二人の腕から出て行くと、水際で立ち止まる。
竜が彼女を捉えると、悲し気な顔を甘えるように、或いは嘆くように押し付ける。
リヴィアは、骨ばった白い手を震わせながら竜の口元に添えた。
冷風が、肌をそっと撫でるように吹きつける。
シェナがそれに違和感を抱き、身震いした。
まるで目前の様子から立ち込める寂しさや悲しみが、そのまま風に乗せられたようだった。
リヴィアはそのまま、竜と共に天を仰ぐ。
風が暗い雲を少し掻き分けたかと思うと、ほんの僅かな陽光が射し始めた。
竜はそれに徐々に威嚇すると、じきに、甲高い叫声を放つや否や激しく飛翔し、周りの障害物に衝突しながら乱雑に飛び去った。
強過ぎる風圧に四人の体勢が崩れ、滝壺からのしぶきで辺りに再び靄がかかる。
視界が戻るまでに数秒が経過した頃、四人は、一瞬も身ぶれせず立ち尽くし、こちらを見据えるリヴィアを捉えた。
「お前達……何者だ……」
低く擦れた声は恐ろしく、背中が凍りつく。
彼女の揺れる髪の隙間からは、赤い眼光が垣間見えた。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




