(13)
滝壺の音に合わさる、青い火の粉の音。
青白い空間は、より青さを増していた。
呪われた島とはいえ、今この瞬間だけは、それを思わせないほどの美しさと穏やかさが漂う。
ジェドは、無言でこちらの観察ばかりを続ける相手と視線が合った。
ただ表面を見るのではない眼差しは、体を貫こうとするようだ。
しかし彼は、こちらに害がない事を示す為にも、冷静に声をかける。
「座れば?」
言いながら、落ちた本を拾い上げた。
相手はその動きに再び警戒を強め、一歩あとずさりながら青い眼光を鋭利に放つ。
フィオはしがみ付くシェナをそっと解くと、歩み寄った。
「私達、貴方やこの島を助けたいの!
だから、力を貸して」
しかし相手は、彼女の急な接近に更に引き下がると、身構えて睨む。
「私達の世界も危険なの。
グリフィンが砂になってしまった……
また誰かがいなくなるのは嫌。
お願い、話しましょう」
「砂……?」
やっと放たれた声は低く、弱々しいが、驚きを隠せない様子だ。
そこへシェナも、フィオに続いて小走りでやって来る。
その動きを見た途端、相手は透かさず手をローブの中に入れた。
しかし、ビクターが透かさず待ったをかける。
「斧はなしだ」
危険な動きを捉えようものならば、すぐにでも飛び掛かるつもりか。
相手は未だ、身を低く構えている。
敵視しながらも体は震えており、強光を灯す目は怯えていた。
「……お名前は?」
シェナが優しく訊ねると、相手はローブから手を抜き、ゆっくりと背筋を伸ばした。
視線は、フィオとシェナから、炎の向こうのジェドとビクターに向く。
そこへビクターがそっと手を差し出し、名乗った。
「冷静になってもらえてよかった」
相手は驚いているのか、彼の行為に小さな息を漏らす。
その横からジェドが素早く覗き込み、舐め回すように観察した。
「どこに斧しまってんだよ」
どこをどう見ても、今は明らかに身一つしかなく、ただ黒いローブが揺れているだけだ。
相手は四人の接近に戸惑い、よろめく。
フィオは透かさずその肩を支えるも、相手は接触された弾みで高くか細い声を上げ、避けようとする。
「ほら、ジェドも言ったでしょ、座って!
私、フィオ」
その時フィオは、相手の半顔を覆う灰色の長髪の隙間から覗く赤い目と合ってしまった。
それに驚き、つい添えていた両手を放してしまう。
その拍子に、相手は乱暴に深く突っ伏した。
だがその先に、斧の在り処を探ろうと身を屈めて覗き込んでいたジェドと、再び目が合ってしまう。
「で? 何ての?」
相手は名を答えるよりも先に、逃げるように後方へ小さく弾むが
「あたしシェナ!
長老様に付けてもらった!」
まるで連続的に石を投げ込まれるように声が飛び込んでくる事態に、酷く困惑した。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




