(12)
「ここほら! まだ何か書いてある」
フィオはどうにか、分かる単語を拾い読みしていく。
「人間かしら……人間の……世界……違う……?」
「同じ感覚でいるなって言いてぇのかもな」
ジェドは何となく、そのように置き換えて読み取った。
一方、ビクターは溜め息を吐く。
火を起こせたならば武器にもなったが、諦めるしかない。
さてどうするべきかと踵を返した時、辺りを観察すべく顔を上る。
その時、正面に細長い影を捉えた。
こんな近くに木があっただろうかと目を凝らすと――輪郭が徐々に浮かび上がった途端、叫んだ。
それに後の三人も声を上げ、ジェドは思わず本を落とす。
また、冷たい突風が薪を激しく払い除けて散乱させた。
現れた影は、一つ大きく靡くと静かに収まる。
四人は寄り合い、一歩また一歩とあとずさりしながら武器を構え、息を震わせる。
よく見ると、湖で争ったローブの者だ。
絡まる灰色の長髪が揺れる隙間から、片目に灯る青い光が垣間見えてはそっと消える。
また飛びかかるつもりかと、槍とライフルを構える手に力が入った。
しかし、相手はやけに大人しく、来る気配がない。
静寂が未だ続く最中、ようやくローブの隙間から真っ白なか細い手を見せた。
警戒する四人は更に引き下がる。
その動きに警戒の目を向けながら、亡霊のように佇む相手は、二本の指を口の横に添えた刹那――息を吹きかけられ、ほんの僅かに残されていた薪の小山に、真っ青な炎が大きく立ち上がった。
四人は瞬く間に伸びる炎に一驚を上げたが、見た事のないその光景に大きく感嘆してしまう。
真っ青な火花を上げる焚火は冷たそうだが、自分達が知るそれと同じように温かく、自然と引き寄せられていく。
しかしまだ、焚火越しに互いの見つめ合いが続いた。
相手は一言も放たないまま、何を確かめているのか。
火を灯した様子から、攻撃するつもりはないのではないか。
そう読んだジェドは、皆に目配せをし、構えた武器を仕舞う。
すると、向こうから徐々に近付いてきた。
拙い足取りは、怪我を負っているのか。
体も不安定に揺れ、上手く軸を保てていない。
その者は、髪の隙間から漏れ出る眼光を弱めた。
しかし、移動しながらの観察は続いている。
四人はその動きを首だけで追い、片時も目を離さなかった。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




