(11)
ここに浮上した際は酷い疲労感だったが、気付けばすっかり楽になっている。
大事が立て続けに起こり、体を気にする間などなかったとも思うが、それでも妙だ。
「腹、減ってるか?」
続く問いかけに、三人は黙って首を横に振る。
「喉は?」
いいや。
どういう訳か、それらによる苦を感じない。
「あたし達、人間じゃなくなったの!?」
シェナが体の不気味さに声を上げる。
フィオもまた目を見張ると、ジェドが腰に提げていた本を手にした。
「書いてるかも」
ロープを解き、破れないようにそっと開く。
皆は頭がぶつかるまでに寄り合い、文字を辿った。
「これ! 水って書いてあるんじゃない?」
フィオが単語を指差した。
ビクターは、滑り落ちるライフルを背負い直しながら、その文字から先を追う。
「治……る……」
深海に眠っていた本である上に、これまで衝撃を受けてきた影響で文字が滲んでいた。
そんな中、辛うじて拾い読みできた単語だったが
「何が?」
シェナがビクターを見上げる。
彼は唯一把握できたそれについて少し考え、ふと、腕や首など肌が露出している部分を見ていく。
また、三人の事も同様に見渡した。
「どうかしたの?」
「何だよ」
ビクターは、フィオとジェドに目を見開いていくと、慌ただしくズボンの裾を捲って足を見た。
「傷がない」
四人は遊んでいる最中、よく怪我をした。
掠り傷や切り傷の跡が細かく残っていたのだが、それらが綺麗に消え、まるで肌が生まれ変わったようだ。
「すごーい! 何で!?」
感動するシェナを横に、ジェドは滝に目を向ける。
遥か高い所から轟々と滝壺に落ち、恐ろしい森の縁を巡るように消えていく様子を観察した。
白の淡い光を点々と漂わせる不思議な水から、想像を膨らませていく。
「あの湖……ならここの水も、触れたら治るのか!?」
「だったら枯れた木や草にかけたら元に戻るかしら?」
「でもそれ、大変じゃない?」
シェナの声を背に、ビクターは森の入り口まで駆けると、枯れた枝葉を適当に握っては滝壺に投げ入れた。
皆はじっと、緩やかに流れていくそれらを凝視する。
「……枯れたままね」
閃いたフィオは、寂し気に呟いた。
ビクターは、流されていくそれらをぼんやり見つめながら、考え事をする。
「あ、火」
本のページを捲ったジェドが、次の単語を見つけた。
「起こ……せない!? 起こせないだって!?」
実に残念な情報に、彼は堪らず声を上げる。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




