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*完結* 大海の冒険者~空島の伝説~  作者: terra.
第二話 唸声
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挿絵(By みてみん)




季節外れの風が吹く朝。

波はそう荒くなくとも、雨が打ちつけて海は騒々しい。

浜から上がった林を抜けた先にポツリと建つ、小さな家屋。

その屋根を叩きつける雨音に混ざるのは、特定し難い奇妙な音。

まるで何かが低く唸るような声は、間を空けて続いた。






 寝床にいた少女は堪らず飛び起き、頭まで毛布を覆って身震いする。

恐怖に目を大きく見開き、暫く一点を見つめた。

低く、震えながらゆったりと押し寄せてくるそれは、助けを求めているのか、悲しいのか。

言葉として形成されないそれは不気味でならない。




 何事かと恐る恐る身を起こしながら、部屋中を覗く。

酷く寒かった。

炎はすっかり炭を小さく這うほどになり、室内をほとんど灯せていない。

島の家屋には、所々にコンクリートの壁が使われている。

大人達曰く、この島はもともと設備が整った場所だったようで、生活の助けになる道具や材料が他にも残っていた。




 島の火が尽きないように努めるが、この家の火種はほぼ消えかけている。

少女はそれにもまた胸騒ぎがした。

何て目覚めの悪い日だ。

嵐は慣れっこだが、どうも表現し難い気味悪さを感じる。

外に変わりはないかと、寝床から素足を滑り出し、毛布を体に包むとドアまでふらふらと向かった。




 触れた取っ手の冷たさに、咄嗟に手を引っ込める。

まるで真冬を感じさせるような空間に、少女は顔にかかる長い黒髪をよけて眉をひそめた。

髪を片耳にかけると短く息を吐き、不気味な外を慎重に覗き込んだ。

その隙間から湿った空気が全身を一気に這ったかと思うと――




「わっ!」




突風が吹き荒れ、ドアが激しく押しのけられてしまう。

部屋の中に砂が舞い込み、包んでいた毛布は剥ぎ取られて部屋の奥までひとっ飛び。

日頃から漁の手伝いに出る影響で、細身とは言え引き締まった体をしているが、踏ん張るのがやっとだ。

髪に視界を遮られる中、取っ手を求めて宙を掻くところ――




 「フィオー!」




小柄な少女が小刻みに砂を蹴って駆けて来た。




「フィオ聞いた!?変な声がした!怖い!」




フィオと呼ばれた少女はやっと薄目を開くと、訪れた怯える少女に飛び付かれる。

訪ねてきたのは友達のシェナ。

見た目のせいで、フィオとの年齢差を誤解しそうになる。

ドアを閉めるのもよそに、フィオはシェナに首を傾げる。




「……本当に声かしら?でも誰の?」




フィオは、聞きつけたそれが音のようにも感じたとシェナに伝える。

しかしシェナは首を激しく振った。

少々癖のある短い金髪についた雫が、細かく飛び散る。




「ハッキリ聞こえた。誰かが苦しんでる声よ。

ほんと怖くて!

すごく心配になって、外に出たらおかしな風が吹いて、どういう事!」




落ち着かない彼女はしかし、真剣だ。

出会った頃から耳がいいと言われており、周囲が気付かない音を感じてきている。

特に、風を。




「来て!」




シェナはフィオの反応を待たず、彼女の手を強引に引いて波打ち際まで駆けた。






 空は厚い灰色の雲に覆われ、雨も次第に強さを増している。




「来る途中、チビっ子達が泣いてるのも聞こえた。

この風も妙よ。西にいるみたい」




その言葉にフィオは肩を竦める。

目前に広がる黒い海は、時に大波を立て、岩を打ち砕くように高いしぶきを上げていた。








大海の冒険者~空島の伝説~


後に続く

大海の冒険者~人魚の伝説~

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




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