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*完結* 大海の冒険者~空島の伝説~  作者: terra.
第六話 空島
58/133

(9)




「仕舞えジェド」




彼はビクターの声に振り向く。




「走るぞ」



「騒ぎ立てて平気なの!?」




シェナは慌てた。




「さっさと抜ける。

この速さだと余計に何かに狙われそうだ。

それにくせぇし!」




確かにと、ジェドは少し笑いながら銃を背に回し、フィオの手を取る。




「放すなよ」




ビクターがシェナの手を握ると、フィオとジェドに改めて目を合わせる。




「ゆっくり走ってよ!」



「はぁ!?」




真下で焦るシェナに、ビクターは顔を歪めた。




「あたし達、あんたみたいに速くないんだから!」



「だから、放すなよって」




ビクターが悪戯に笑うと、まずは早足で進む。






 茂みが慌ただしく揺れる音が過ぎ去っていく。

今のところ何の異常もないと見たビクターは、軽い駆け足に切り替えた。

最後尾のジェドが時折、背後を振り返って警戒する。

地面を蹴る度に弾ける青白い光は、未だこの島に生気が残されている事を知らせるようだ。




「行くぞ」




ビクターはいよいよ、互いの腕が張るほどの速さで駆けた。

時に視界を遮るように現れる蔦を顔にぶつけながら、ただただ直進する。

他の三人よりも歩数が比較的多いシェナからは、すばしっこさを想像させる。




「聞こえる!」




水流の音に気付いたフィオが声を上げた。

冷風も感じ、これまでよりも空気が心地よい。

お陰で、足が導かれるようにだんだん速くなる。

辺りが少しずつ明るさを取り戻し、互いの存在がはっきりした。

暗がりは徐々に、森の外観が描いていたグラデーションのように青い空間に変わり始める。




「跳べ!」




不意に露わになった腐食した根を、皆は華麗に順序よく跳び越えていく。

シェナは危うく転びそうになり、ビクターに怪訝な顔をした。






 黒い森をどうにか抜けた途端、視界いっぱいに広がる幻想的な風景に圧倒され、感嘆を漏らす。

滝壺だ。

薄い靄がかかり、そこに淡く漂う白い光は時折、細かな輝きを放っていた。

それにすっかり恐怖心を払拭され、手が自然と離れていく。




挿絵(By みてみん)




「滝の音だったの…」




フィオは浜で聞きつけた音の正体に目を見張る。

皆は暫し、辺りに釘付けになった。






 凹凸のある透明の岩が、水中から剝き出している。

しぶきの影響で僅かに薄い靄がかかるそこに、自然と胸を撫で下ろした。

肩にかかる銃や、腰の武器をつい落としてしまう。

求めていた癒しを胸いっぱいに含もうと、清々しい空気を深く、深く吸い込んだ。









大海の冒険者~空島の伝説~


後に続く

大海の冒険者~人魚の伝説~

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




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