(8)
不気味な植物のトンネルを潜り、互いの姿を見失うまいと、体を寄せ合いながら進んだ。
羽虫が耳元で音を立て、シェナが咄嗟に首を激しく振り、仰いで追い払う。
更に奥から歯を鳴らすような音が聞こえ、何かが移動しているのか、草が揺れる音も重なる。
最後尾のジェドが念の為、ライフルを手に周囲を警戒する。
前を歩くフィオも、槍を最長に引き延ばして握っていた。
そこへ急にシェナが立ち止まり、背後の二人がぶつかる。
何事かとジェドが小声で放つが、彼女は気にもせずじっと耳をすませていた。
ビクターが、後に続く皆の足音が消えた事に慌てて振り向く。
数歩先で留まる陰をどうにか捉えた。
「早く来い」
ぐずぐずしていては、何かがまた襲いかかってくるかもしれない。
先程からずっと、聞いた事のない鳴き声に背中が凍るようだ。
「近くに水があるかも」
急に駆けつけたシェナは更に、微かに冷たい風を感じると訴える。
彼女は今よりもずっと小さな頃から、どういう訳か風に敏感だ。
本人もその理由が分からず、皆も同じではないのかと不思議そうに話していた事がある。
皆は、水の音を聞こうと耳をすませた。
しかし、奇妙な鳴き声と草木の騒音がどうしても邪魔をする。
水の音と言えば、フィオは浜に倒れていた際に、地面からそれを聞きつけた事を思い出した。
だがこんな真っ暗で怪しい空間だと、水の在り処など分からない。
「このまま進む」
ビクターがシェナの手を取ると、後の二人にも手を繋ぐよう促した。
先へ進めば進むほど、暗さが一層増している。
はぐれてしまえば、そう簡単に見つけられないかもしれない。
「あの照明が欲しかったわね……」
フィオの呟きに、ビクターが苦笑いする。
ここぞという時に、持っていないのだから。
そこへ、何かが金切り声を上げながら頭上を通過し、枯れ葉や蔦が雨の如く降り注いだ。
皆は一驚を上げて身を縮める。
体を弾いた小枝が地面に落ちる度、青白い光が美しく弾いた。
それに目を奪われる余裕もなく、横の茂みの奥からの唸り声にあとずさる。
温い風が全身を這い、何かに触れられているようで肌が粟立った。
「今度は何だ!」
ジェドが苛立ち、気配がする方に銃口を向ける。
繋ぎ合う手が離れた時、大量の汗が滲んでいる事に気付いたフィオは、ジェドを気にした。
前のめりになる彼もまた、恐怖を言葉にしない。
ビクターも同様にライフルを構えていたが、背中に回すと行き先に目を向ける。
恐らく、この道が続いているだろう。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




