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*完結* 大海の冒険者~空島の伝説~  作者: terra.
第六話 空島
56/133

(7)




 本当にそうなのだろうか。

誰も、何も言えない。

言えないが、ビクターは恐怖に震える手を必死で握り潰しながら、小さなシェナの頭に手を乗せる。

目の前で人が砂になった、生々しい出来事が蘇った。

その衝撃は、精神状態をただただ乱していく。

この恐怖心がこのまま伝わってはならない。

彼は、吹き払うように小さく息を吐いた。

そして、彼女の短い金髪を撫でるとそのまま胸に引き寄せる。




 目はあてもなく、宙を向いていた。

小さく啜り泣く声が聞こえる。

急な悲劇に苦しく、凄まじい寂寥と悲しみが押し寄せた。

静寂が呼び戻した現実に、フィオも声なく涙を伝わせ、シェナの背中を擦る。




 シェナの手から本が力無く落ち、腰からロープにぶら下がるのをジェドがそっと取った。

朽ちた表紙に綴られたグリフィンの名は、険しい道を乗り越えても尚、滲みながら残っている。




 ビクターの閉じる瞼が震えると、細い息が漏れた。

フィオとジェドは、初めて見る彼の様子に鼓動が速まる。

一方彼は、それをすぐさま隠そうと




「……とっとと帰るぞ」




静寂を切りながらシェナの肩に手を置き、続ける。




「当然、片付けてな」




目に飛び込む、己を立て直した友達。

迷ってなど、落ち込んでなどいられない。

フィオとジェドは、ビクターに大きく頷いた。

そして名を呼ばれたシェナが、やっと顔を上げる。




「泣かなくていい」




未だ目を潤わせる彼女を、ビクターは手放した。




「大体何だあれ!?

ローブぶっ飛ばすわ、詰め寄るわ。

お手柄じゃねぇか!」




そう言って踵を返すと、先に進む。

フィオが涙を拭うと微笑み、シェナの手を引いた。




「さっきの子を探して、グリフィンの事お願いしてみようよ!」



「お願い? 生き返らせてって!?」




まだ、望みはあるのかもしれない。

ここは魔法が存在する世界なのだからと、シェナは少しずつ顔を輝かせる。




「分かんないけど、あの子を助けてあげられたら、きっと。ね?」




フィオは、どこか自分に言い聞かせて励ますように言うと、ジェドを見る。

彼は悩ましい表情を浮かべながらも小さく頷き、シェナに本を求めた。

彼女はナイフでロープを切り、素直に渡す。




「取り敢えず整理しねぇと」




ジェドの言葉に、ビクターが背を向けたまま返事をした。






 暗い森からは夜の林を想像するが、木々が生い茂るここはまた、それとは違った闇の空間だ。

慎重に足を踏み入れた瞬間、焦げ臭さが鼻を突く。

先々には枯れた蔦が垂れ下がり、脆くなった木々が横たわっている。

奇妙な角度で生え、道を遮るものもあった。

それに比べて、入口に立つ木々には水面の反射光が揺らめいている。

砂浜とは違って森の中の地面は硬く、歩幅を刻む度に細かな青白い光が弾いた。

四人は枯れた茂みに沿って、暗闇を増す通路を直進する事だけに意識する。









大海の冒険者~空島の伝説~


後に続く

大海の冒険者~人魚の伝説~

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




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