(5)
燃え尽きたのかと、ビクターは相手から銃口を静かに下ろす。
そこへまた、竜が唸り声を上げた。
今度はビクターを睨みつけている。
ジェドとフィオは引き下がった拍子にビクターの背中にぶつかると、倒れるローブの者を彼の肩越しに覗いた。
「……もしかして」
ジェドの予想に小さく頷いたビクターは、ライフルを背中に回すと、ぐったりする相手にしゃがむ。
そして、突っ伏す頭に手を伸ばすのだが――
「っ!」
人ではない威嚇の声を短く上げた直後、ローブから青い目を剥き、顔を露わにした。
灰色の長髪が細くかかる下は、左半分が岩肌のように茶色い。
腐食しているような様は、竜の状態と一致する。
ビクターは、あまりの様相に後退る。
その者は痛みに唸りながら敵視を向け続け、慎重に身を起こす。
屈んだまま、腹の辺りで掌を上向きにさせ、爪を立てた。
それに気付いたシェナは、不意を突くようにその者の正面から激しく覆い被さった。
「シェナ!」
三人の叫びと同時に、二人は呆気なく転倒する。
それを目にした竜が怒りに悲鳴を上げ、ついに、太く青い炎を噴いた。
ジェドとフィオは透かさず横転して躱し、ビクターも後方に激しく転ぶ。
シェナはローブの者を強く抱きしめるように顔を埋め、叫んだ。
「助けにきたのよっ!」
その瞬間、真下から風が吹き上がると、白い砂煙が輝きを放ちながら盾になり、瞬時に炎を遮った。
焼け焦げて落ちた砂は、あっと言う間に元の光る白砂に戻る。
その者はシェナに圧し掛かられる中、髪の影に佇む青い目を見開いていた。
苛立った竜が再び口を開けると、間髪入れず遮ったのは威嚇の声。
それは甲高くもか細く、シェナの真下から放たれた。
竜はその声を聞き入れるように、静まった。
辺りが水の音だけになると、シェナは押し退けられて呆気なく転ぶ。
上体を起こしたその者は、立ち尽くす四人を順に見た。
警戒心に満ちた真っ青な片目は、驚きと緊張に揺れる。
何かを言おうとしているのか、唇も震えていた。
立ち上がった拍子にローブが脱げると、露わになった灰色の髪が青い何かで凝固し、酷く汚れていた。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




