(4)
酷く朽ちた黒いローブを靡かせる相手は、ビクターに覆い被さるまま攻撃を止めない。
「っ……!」
圧し掛かる辛さが勝手に漏れた。
かなりの重量に腕が震えていく。
信じ難い事に、彼が必死に抗っているのは巨大な銀の斧だ。
高速に接近する影を捉えた矢先、反射的に背中から回したライフルで奇跡的に受け身を取った。
鋼の音と共に、相手の刃が容赦なく鼻先にまで下がる。
「くそっ……!」
力の限界に苦が漏れる。
見ていられなくなったジェドは竜をよそに、ビクターに襲い掛かる黒い者に掴みかかった。
だが、竜がそれを許さんとするように、威嚇の声を上げながら大口を開く。
喉の奥が真っ青に光り始めたのを捉えたフィオは
「ジェド危ない! 何か吐くわ!」
慌てて彼の腕に飛びつき、黒い者を掴む手を解かせる。
竜の口内の奥からはいよいよ、青に揺れる光が見えると濃さを増した。
ジェドは竜を振り返るとフィオを背後に回し、傍の争う二人ををそっちのけに両手を広げて立つ。
フィオはそれに堪らず、彼の両肩に力いっぱい体重をかけて共に転倒した。
「ダメーっ!」
シェナは彼らの傍に駆け寄るよりも先に、大声で竜を止めようとする。
その叫び声に合わさるように旋風が生じると、竜が下顎から仰け反り体勢を崩した。
また、刃とビクターの間を真っ直ぐ射抜くように風が擦り抜けては、膨張するように舞い上がる。
彼に上乗りになっていた者は高く宙返りし、地面に叩きつけられるように落下した。
ビクターは息を整える間もなくライフルを構え直し、俯せに倒れる相手に近付いていく。
張り詰めた空気の中、二つの苦しそうな息遣いが聞こえた。
フィオとジェドはビクターを横目に、目前の竜を注視する。
火を噴こうとしていたのだろうが、諦めたのか、ただジェドを鋭く睨むだけだった。
シェナは離れたところで立ち尽くし、状況に息を呑む。
騒ぎが収まると、四人は浜に俯せで倒れる黒いローブの者を見下ろした。
髪と思われる灰色の長い毛が、溶け込むように広がっている。
肩での荒々しい呼吸。
ローブから伸びる両手は驚くほど白い。
傷だらけで、そこら中に青い液体が付着している。
爪は鋭く、部分的に欠けていた。
斧を握る手は力尽きたのか、すっかり緩んでいた。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




