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*完結* 大海の冒険者~空島の伝説~  作者: terra.
第六話 空島
53/133

(4)




 酷く朽ちた黒いローブを靡かせる相手は、ビクターに覆い被さるまま攻撃を止めない。




「っ……!」




圧し掛かる辛さが勝手に漏れた。

かなりの重量に腕が震えていく。

信じ難い事に、彼が必死に抗っているのは巨大な銀の斧だ。

高速に接近する影を捉えた矢先、反射的に背中から回したライフルで奇跡的に受け身を取った。

鋼の音と共に、相手の刃が容赦なく鼻先にまで下がる。




「くそっ……!」




力の限界に苦が漏れる。






 見ていられなくなったジェドは竜をよそに、ビクターに襲い掛かる黒い者に掴みかかった。

だが、竜がそれを許さんとするように、威嚇の声を上げながら大口を開く。

喉の奥が真っ青に光り始めたのを捉えたフィオは




「ジェド危ない! 何か吐くわ!」




慌てて彼の腕に飛びつき、黒い者を掴む手を解かせる。

竜の口内の奥からはいよいよ、青に揺れる光が見えると濃さを増した。

ジェドは竜を振り返るとフィオを背後に回し、傍の争う二人ををそっちのけに両手を広げて立つ。

フィオはそれに堪らず、彼の両肩に力いっぱい体重をかけて共に転倒した。




 「ダメーっ!」




シェナは彼らの傍に駆け寄るよりも先に、大声で竜を止めようとする。

その叫び声に合わさるように旋風が生じると、竜が下顎から仰け反り体勢を崩した。

また、刃とビクターの間を真っ直ぐ射抜くように風が擦り抜けては、膨張するように舞い上がる。

彼に上乗りになっていた者は高く宙返りし、地面に叩きつけられるように落下した。




 ビクターは息を整える間もなくライフルを構え直し、俯せに倒れる相手に近付いていく。

張り詰めた空気の中、二つの苦しそうな息遣いが聞こえた。




 フィオとジェドはビクターを横目に、目前の竜を注視する。

火を噴こうとしていたのだろうが、諦めたのか、ただジェドを鋭く睨むだけだった。

シェナは離れたところで立ち尽くし、状況に息を呑む。






 騒ぎが収まると、四人は浜に俯せで倒れる黒いローブの者を見下ろした。

髪と思われる灰色の長い毛が、溶け込むように広がっている。

肩での荒々しい呼吸。

ローブから伸びる両手は驚くほど白い。

傷だらけで、そこら中に青い液体が付着している。

爪は鋭く、部分的に欠けていた。

斧を握る手は力尽きたのか、すっかり緩んでいた。









大海の冒険者~空島の伝説~


後に続く

大海の冒険者~人魚の伝説~

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




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― 新着の感想 ―
[一言] このドラゴンが何者なのか、気になるところですね。
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