(2)
フィオがぐったりするシェナを立たせようとするが、足に上手く力が入らない。
気付いたビクターが、今にも転倒しそうな二人を見て駆け寄る。
彼はシェナを自分に寄せては、フィオに余分に回収していた槍を渡し、先に行くよう促した。
ビクターはシェナを軽々抱き上げると、不安定な足取りで浅瀬を踏みしめていく。
ジェドに追いついたフィオは、彼の震える息を聞きつけた。
手を貸そうにも、酷い疲労に倒れてしまう。
きめ細やかな砂は寝床にいるようだ。
穏やかな風は優しく撫でるように、少しずつ安心感をくれる。
息もやっと、落ち着き始めた。
ビクターが合流すると、未だぐったりしているシェナを寝かせる。
彼女の呼吸をもう一度確認した後、改めて浮上した場所を振り返った。
海に似て広大な湖が漣を立てている。
水面からは点々と太く尖った透明の塊が剥き出ており、海で例えるところの岩だろうか。
だが表面は滑らかで、ものによっては背凭れになりそうな傾斜がある。
陽射しがないにも関わらず、一帯で白い輝きを放っているのは砂浜も同じだった。
フィオはその光に目を奪われる。
自分達の島のものとはまるで違う、柔らかい手触り。
地面から砂に埋もれた耳に微かに伝わるのは、激しい水流の音。
フィオは起き上がると、どこから聞こえるのかと辺りを見渡す。
空を仰げば、太陽が見える兆しはない。
この場は今、曇り空の朝の雰囲気に似ていた。
立ち尽くしていたジェドは、濡れた体に付着していた砂が滑らかに流れ落ちるのに気付く。
普通は長い間へばりつき、払ってもそう綺麗に拭えるものではない。
一体どうなっているのか、体が既に乾いてきている。
あまりに珍しい現象に疲れが吹き飛び、彼はフィオを振り返った。
彼女の靡く黒髪を見て、より一層この不思議に目を奪われる。
「……来たのか」
ビクターは、目前に広がる森をじっと見つめて呟いた。
美しくも不気味で、恐怖心を掻き立たせる世界。
ほぼ黒に近い群青色から、鮮やかな青色にグラデーションのように変化を見せる。
湖から遠くにありながら、木の表面には水面の光が弱く反射していた。
光る砂がふわりと風に舞い、草木の微かな音を立てる。
耳をすませると、生き物の悲鳴のようなものが聞こえ、身や唇が震える。
「呪われた森……空島だわ……」
そこから、何かが焼け焦げたような匂いが鼻を突く。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




