(9)
そこが引き寄せる力は、この上ないものだった。
四人は、話に聞いていた以上に息が苦しくなり、抗えぬ速さで体が海面に引き寄せられていくのを犇々と感じた。
目は開けられないが、分かる。
辺りが眩しい金色に輝き、更なる眩しさに顔を覆った。
背中や腹から引っ張られているような体勢から、一切身動きができない。
顔の向きすら変えられず、呼吸は浅くなり、意識は遠のいていく。
そして、肌に風が触れるような感触を覚えた。
どうしてこんなに寒いのか。
その疑問を最後に、意識は深い闇に閉ざされた。
海面から漁師達が顔を出す。
グレンとマージェスは、抱えていた筈の子ども達がいなくて困惑した。
レックスは、頭部から流血するカイルを抱え、どうにか浮力を保っている。
最悪の状況にマージェスが、見えない魔女に怒号を飛ばす傍ら、レックスとグレンが血眼になって四人を探すが、いない。
「消えたぞ!」
「そんな訳あるか!よく探せ!」
焦るグレンの傍で戸惑うマージェスは、再び潜ろうとした。
その時、グレンが驚愕する。
「見ろ!」
激しい炎を上げる漁船をよそに、皆は目を疑う。
数々の金色の光の粒が集まり、柱のようなものを出現させながら浮上していく。
目を凝らせば大粒のものが四つ。
遥か彼方へみるみる上昇してしまうそれらに、血の気が引いた。
そんな彼らを、炎に覆われた漁船が明々と染めている。
「くそっ!」
グレンが海面を叩くと思わず嘆いた。
行かせてなるものかと散々思っていた事なのに。
どうして強引にでも島に置いてこなかったのか。
何故、ここへ乗せてきてしまったのか。
後悔が延々と巡り巡る。そのままグリフィンの身に起きた事態を思い出すと、更に気がおかしくなる。
己にただただ腹を立てながら、無理だと分かっていても、皮肉なほどに美しい光に手を伸ばしてしまう。
レックスは声を失って浮かぶマージェスにカイルを預け、すぐさま潜って海面を見上げる。
まだ間に合うならば一緒に行く。
彼らはまだ、ただただ大きく振る舞う子どもなのだから。
しかし、彼は生気を失い絶望する。
身を翻らせたそこにはもう、ただ真っ黒な海面に、炎の光が明々と波に揺れるだけだった。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




