(8)
耳を劈くような雷鳴が轟く中、漁船の角度が戻り始める。
マージェスは船室のドアの縁をどうにか掴んでいたが、起こる縦揺れに身がよろけてしまう。
武器の棚に背を預けていた二人は、傾斜が緩やかになってすぐ駆け上がり、外に勢いよく飛び出した。
稲光は再び、周囲を白光で覆い尽くす。
皆は瞬時に瞑った目を開くと、あの両目が天に再現された。
ビクター、ジェド、フィオ、シェナ、最後に大人達と、素早く視線を走らせては嗄れ声の嘲笑が耳になだれ込む。
フィオは目を瞑りながら背を向け、耳を塞いだ。
その時、暗い視界に何かが過る。それにもまた恐怖するが、目を開けても巨大な目玉がある。
瞼の下で、このまま漁船から落ちるのではないだろうかと疑った。
またそう感じてしまうのは、目のずっと奥に見た画が影響していた。
自分達の肌を冷たい何かが覆い、苦しむ光景が霞んでは、消えた。
シェナが宙の両眼に叫ぶなり、カイルが透かさず彼女を抱えて目を伏せさせる。
マージェスが起き上がるとフィオを引き寄せ、立たせた。
レックスが背に回していたライフルを宙の両眼に向けながら、ジェドとビクターの前に立つ。
カイルとグレンがその背後に回り、二人を船室に引き戻そうとした、その時――
岩をも砕くような破壊音が、落雷に合わせて天を揺らす。
轟々たる雷に皆が掻き消された。
全身に風を感じたかと思えばどこかに大きく叩きつけられ、全身に衝撃が走る。
冷感が体中に迸り、息ができない。
フィオは、髪に頬を撫でられるところ薄目を開く。
自分達が海に落ちた事に気付き、慌てて水を掻いた。
霞む視界を見渡すと、他の皆も藻掻いている。
息を吸う間も無く海に沈められ、焦る事で余計に酸素が失われている。
大人達は懸命に海上に向かおうとする最中、四人の行方を探していた。
ビクターが近くで溺れかけるシェナを掴み、襲う息切れを堪えながら引っ張る。
その近くでジェドが、俯せに沈んでいたところ身を大きく翻した。
カイルとレックスが海面に顔を突き出し、咽る。
息を吸い込む度に、海水が妨げた。
「あの子達は!?」
確認できなかったカイルが焦る横で、レックスが救助のために潜ろうとするところ、マージェスとグレンが顔を突き出した。
二人は息継ぎすると、すぐさま四人の元へ向かう。
それにカイルも続こうとした時――漁船が爆音を上げると炎に包まれ、飛散した巨大な木材の破片が彼の頭部に衝突した。
目撃していたレックスが、気を失って水没するカイルを叫んだ時、青白い乱雑な閃光が着水する。
それは広大に映し出された。
海中で、グレンとマージェスに引っ張り上げられる四人。
そんな中、彼らは視界いっぱいにその世界を捉える。
絡みつく大きな腕の隙間から、それぞれが細い腕を抜き出し、海面に映る群青色の世界に、躊躇わずに手を伸ばした。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




