(7)
グリフィンの足先が徐々に白くなりながら乾きだすと、幾多もの亀裂が走った。
足はみるみる欠け、形が崩れていく現象はまるで風化か。
突風が船内の床を力強く吹き抜けると、彼の足が完全に砂と化し、崩れ、流れるように白砂が這う。
膝、大腿、腹、腕、手先、首と、みるみる砂化は彼自身を奪っていく。
誰かに手を伸ばそうとすれば腕は崩れ落ち、助けてと叫ぼうにも声が断たれ、喉が消え、顔が白く覆われた。
「待て!」
ジェドが硬直するビクターを乱暴に押し退け、上半身をまだ維持するグリフィンに抱きつくが――両腕の中から大量の砂が擦り抜け、彼は、床に音もなく崩れ去った。
目前で起きた悍ましい末路に、皆の悲鳴が飛び交う。
フィオとシェナは駆け付けると、無我夢中で砂になったグリフィンを搔き集め、戻って来いと言いながら泣きじゃくる。
ジェドの手足は震え、グリフィンの砂に塗れる自分の体に呼吸を荒げる。
ビクターは足から崩れ落ち、震える体を上回る胸痛に苦しみ、肩でする呼吸も間に合っていない。
漁船が大波を乗り上げながら横揺れし、潮が容赦なく大風と共に流れ込む。
グリフィンの砂は激しく舞い、流れてしまう。
皆は傾いた漁船に弄ばれ、されるがまま転がされては船縁に激突し続ける。
間髪入れずに立ち続ける荒波に、いよいよ漁船は縦向きになり始めた。
木材が軋む音から、船が両断される恐怖に陥る。
普段あんなに冷静な大人達までが声を上げ、判断が鈍っていた。
その様子に四人はより震え上がる。
漁船が傾斜を強める頃、船室のドアが全開した。
その状況を目にしたビクターが意を決して、傾斜を利用して船室に激しく滑り込む。
ビクターは船室奥の壁に激しく転がり込んだ。
乱雑に物が落下すると、目に付いた物や触れた物を片っ端から手にして装備していく。
(何でもいい何でもいい!)
全身に残る震えで、手にした物が時折転げ落ちた。
それでも、治るのを待つ場合ではない。
そこへ同じく、ジェドが転がり込んだ。
彼もまた、身を軽々起こすと武器を集める。
互いに無言のまま一致する決断が、回収速度を上げていた。
槍、ナイフ、ライフル、弾しかない。
未だ胴震いする中それらを背中と腰に引っ提げ、ようやく船体の傾斜が緩やかになる機会を待つ。
互いに荒い息を立てながら肩越しに目を合わせると、悪戯に笑う。
そこへ、マージェスが必死に床を這い、船室を覗き込んだ。
「なっ!?馬鹿野郎、何してる!」
「っ!?おっちゃん手ぇ放すなよ!」
やっと出た咄嗟の一言。
彼まで落ちてこようものならこちらが圧迫され、それこそ窒息する。
ビクターも、横で大きく首を横に振り続けていた。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




