(6)
波が荒れ始め、漁船はいよいよ大きく横揺れし始める。
「何だこの天気は!」
グレンが咳き込みながらウェイトを外し、天候に目を疑う。
黒雲から稲光の筋が幾つも走り、まるで漁船を追いかけるようだ。
グリフィンは上空に別の異変を察し、真っ先にジェドとビクターに駆け寄ると肩を掴む。
その突如、何かに激しく突き飛ばされた。
目にも留まらぬ速さに呆気に取られた二人は、数メートル先で俯せに倒れるグリフィンに焦る。
周囲もまた同じだった。
「グリフィン!」
フィオが転倒した彼に向かって階段から飛び出すと、シェナもそれに続く。
「来るな!」
しかし駆け付けた二人は、グリフィンの腕を掴んで立たせようとする。
そこへ再び、雷が轟いた。
「船室に入れ!レックス!放っておけ!」
マージェスが全員を避難させようと叫ぶところ――
「あっ!」
ビクターはまた、陽炎を捉えた。
自分とジェド、カイル、グレンの真上を通過するそれを、手で払いのけようとする。
ジェドはビクターのそんな動きに戸惑った。
彼の行動が、全く分からなかった。
ビクターは速いそれになかなか触れられず、焦り、ジェドの肩を荒く掴んで前のめりになる。
そしてそれは、フィオとシェナに支えられて立ち上がったグリフィンに向かって疾走した。
「避けろグリフィン!」
反射的に悲鳴交じりに叫んだビクターとほぼ同時に、グリフィンは端の二人を突き飛ばした。
陽炎は彼に接近するや否や白煙と化し、体を颯爽と擦り抜けて消える。
彼はその動きに煽られてよろめいたところを踏ん張り、転倒を免れた。
何が起きたというのか。
体は何ともないのだが、確かに何かが体を擦り抜けた感覚がする。
荒波により、漁船がこれまでにないほどの角度で傾いた。
強い突風に揺れる帆の影に光る稲妻。
低く緩やかに響き渡る雷鳴に、皆は身を怯ませる。
「早く来い!」
マージェスが船室のドアを開けたまま怒号を放ち続けている時、事態が起きた。
白い雷光が周囲一帯を瞬時に覆い尽くし、視界を遮った。
皆は足場が傾く中で目が眩み、船室に向かうまでにバランスを崩す。
グリフィンはこの異常事態から察するなり、叫声をどこかへ放つ。
「止めろ!」
その矢先、ようやく戻り始めた視界に飛び込んだ光景に喉が締め付けられる。
宙に、二つの巨大な黄色の眼球が浮上していた。
その向こうに垣間見える稲光によって、血走る様子を彷彿とさせる。
それらの視線はやがて、漁船で慌てふためく四人に向いた。
宙のどこかから濁声が沸々と湧き上がり、皆の背筋を即座に凍らせる。
「見つけた……」
そのまま心底に淀むような、緩やかで低い声。
宙の眼球は瞬きすると消え失せる。
皆が事態に動揺して足が竦んでいた時、グリフィンの短い悲鳴が上がった。
それに真っ先に振り向いたビクターは目を剥き、硬直する。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




