(4)
「なんだよ。
だったらそれ歌ってりゃいいんじゃねぇの?」
再生と言うならばと、ジェドは首を傾げた。
「ああ、だが、そうもいかなくてな……」
グリフィンは、ジェドの意見も優しく聞き入れながら表情を曇らせる。
「呪いは、生物を豹変、或いは死に至らしめる……
植物の大半は枯れ、生気を失っている……
島はほぼ、魔女に呑まれてるんだ……」
ジェドは船縁であぐらをかき、想像する。
「どうしてその精霊と一緒に戦えなかったの?
助けようとしてたのに」
フィオが訊ねる横で、シェナが渡された本に腕を乗せてグリフィンを見上げる。
「仲間も、己の力も殆ど失うと、どうしていいか分からなくなる……俺達は彼らのような魔法使いではないが、気持ちは分かる……きっと彼らも同じで、そんな目に遭えば路頭に迷う……何に頼り、何に縋ればいいか、手立てを失い途方に暮れていて……呪いに侵食されていく居場所を見ている事しかできず、希望が持てない状態だときっと、選択は限られてしまう……俺達で言う、いつかの時のように……」
グリフィンは、世界が沈む最悪の時と空島での事を重ねながら、静かに語った。
四人は当時を知る由もないが、共に生きる大人達に聞いて、何となく想像している。
しかしその精霊達は今頃どうしているのかと、グリフィンは心配でならない。
そしてふと、小さく何かを呟いた。
シェナは聞き返したが、彼は首を横に振り、微笑むだけだった。
その時、つい先程まで心地よかった風が冷え始めた。
レックスは水平線に目を凝らすと、嵩張る薄暗い雲を観測する。
煙が立ち込める様子に似たそれは、明らかにこちらへ接近してきていた。
いや、こちらがそれに接近しているのだろうか。
「マージェス!」
皆が驚いて見上げると、レックスがロープ下降の姿勢になっていた。
「引き上げだ!嵐が来る!ありえねぇ速度だ!
下に合図してくれ!」
マージェスもまた、遠くの空の異変を確認しては了解する。
グリフィンと四人は騒ぎに船の外を見た。
灰色から黒に変わりゆく雲が異常な速度で迫ると共に、冷たい潮風が強く吹き荒れる。
「わっ!何!?」
シェナは大きく身震いし、風の異変に肌を粟立たせる。
途端、船縁から二発銃声が轟いた。
「上がれー!」
マージェスが海中の二人に合図するや否や、急な波が船体を叩く。
高く、激しいしぶきが上がった。
「碇上げるぞ!」
レックスが着地するなりアンカーリフトの元へ駆け下りながら、動員する。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




