(2)
「朝方よりも天候はマシだ。
今の内に、東へなんとしてでも辿り着こう。
さっき出てった奴にも伝えて――」
「バカ野朗!」
長老の隣にいた仲間が吠えた。
「朝方よりマシだ?
だからってこれが海に出られる状態か?
いいか、ここから出たところで、死ぬんだよ!
もう決まってる事だ!
元々虚しい生き残りだ、だったらそれらしく死ぬのが妥当だろ」
「そうか、ならあんたはそうすればいい。
俺は自分の人生は自分で決める」
髭を生やしたは彼は冷静に返し、そっと立ち上がると続けた。
「準備をする。
来る奴は支度をして、船着場へ集まろう」
そう皆に背を向けた時、再びその場が騒がしくなる。
「……私は行く。
あの子の分も生きたい…辿り着いて、生きてみせる」
島に異変が起きてから我が子を亡くした女性が、決意した。
その言葉に奮い立たされた者もいたが、やはり荒海に出る事を恐れ、全員ではなかった。
島で一番大きな船を出すと、コンパスや武器を積んだ。
僅かであれ、頼る他は無い。
意を決した者達は、東を目指して荒海に出た。
ずっと住んでいた島が離れ、やがて見えなくなる。
先へ行けば行く程、濃い霧に見舞われた。
思い切ったとはいえ、慣れない環境に飛び込んでいる。
不安と恐怖にみるみる駆られる一方だった。
真昼の筈だというのに、空はまるで夜のように暗く、激しい雨風が船体と肌を打ちつける。
「何も見えてこない!」
見張り台の仲間が叫んだ。
「方角は合ってるはずだ!」
別の仲間も船首から叫ぶ。
やはり無謀な選択だったのではないかと、後悔してしまう者もいた。
しかし後戻りはするまいと、懸命に行き先と海に目を凝らす者もいる。
ある程度進めば見えるであろう東の島。
だが、荒波が行く手を容赦なく阻み続ける。
黒く冷たい、怒る大海原に人々は身を支える力を奪われる。
寒さで互いに身を寄せ合うだけで精一杯だった。
それでも、船を動かし続ける。
なんとしてでも生き延びるために。
だが、こうして困難に抗うどこかで、本当はあの時見た光の正体など突き止めようが無い事や、この先の命が無いかもしれない事に気付き始めていた。
それでも、島を出ようと皆を集めた彼は、雨水が溜まる船内の床を這ってでも、縁にしがみついて海を睨む。
その時、稲妻が走った。
岩を打ち砕くような、とてつもない音が体の芯まで震わせる。
立つ事さえままならず、皆は俯せになった。
荒れ狂う波や風雨に船が激しく揺さぶられ、傾いた時、遂に海へ数人が投げ出された。
自然の轟音に掻き消され、船内ではもう、誰の声も聞こえない。
豪雨は体を突き刺すようだ。
先陣を切って出た彼は転倒し、一向に体勢を変えられなくなるところで力を振り絞る。
怒りと焦燥が鼓動を激しく打ちつけ、悔いが合わさり短く大声を放つと同時に仰向けになった。
そこに広がる天の変わり様ときたら、何とも憎たらしい。
彼は、ありったけの憎悪の念を込め、睨んだ。
途端、空一帯が白く染まる。
稲妻に続く破壊音が何処からのものか捉える間もなかった。
船は、海の中へ沈んでいく。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します