(8)
ジェドは、打たれた頭頂部の髪を力いっぱい握って俯く。
カイルはクロスボウを眺め、また彼に向き直る。
「これは使えないんだぜ」
ビクターが微かに声を漏らすと、カイルがそれを見上げて笑った。
「検証済みでな。
改造したらなんとかなるんだろうが、今はただのガラクタだ」
「なーんだ」
シェナが呟く。
「守るってのは、相当な決心がいる」
カイルは間を置いてから立ち上がり、手にするそれを元の場所に戻した。
ジェドはまだ、じっと黙っている。
「お前の矢が、レックスに当たるとまずいから、俺に意識が向き続けるようにしたよ」
「あらー優しいのねー」
少々ふざけたレックスの笑い声がし、ジェドはやっと僅かに顔を上げる。
そこには、余裕のある大人が立っていた。
ただの大人ではない。
本当に大きな人である事を、犇々と感じる。
「まぁ己も守ってこそだが、仲間を傷付けたくはない。
皆が無事でないと、意味もない」
カイルは言いながら照明に触れる。
何で持ってるのかと言わんばかりの表情だ。
ビクターは透かさず目を逸らす。
「どうだジェド。
さっきのお前は、後の三人を守っていたか?」
彼は照明の事には言及せず、そのままジェドを見下ろし、続けた。
ジェドの手が頭から落ちる。
まだ何も言わない。否、言えない。
「ビクターの下ろせって声、お前は聞こえたか?」
カイルに耳を傾けながら、ジェドは静かに立ち上がる。
首後ろに触れ、目を逸らして不貞腐れていた。
「俺に矢を向けた割には、お前達は引き下がった。
俺が魔女なら消し飛ばしてる。
冷静、傾聴、信頼。そこから正確な判断を出せ」
しとしとと建屋の縁から水が滴る。
ここから漏れ出る光をほんの少し受けながら、涙のように落ちていく。
「難しいんじゃね?」
カイルが部屋を出る間際、レックスが苦笑して言う。
「そうさ、難しい」
カイルは手にしていた照明を見せると、マージェスが口をあんぐりさせた。
「守るってのは、大人すら難しい……
だから、いつも真剣に想い、考えるんだ。
さあ、さっさと出てこい。灯がある内に」
照明を揺らすカイルを見た四人は顔を見合わせると、重い足取りで出ていく。
今は優しく笑って立っている彼に、最後尾になるジェドは何かを胸に留めた。
そして、皆から間隔を空けてやっと出て行く。
雨が体を打ち付ける中、手にする例の灯を頼りに浜を歩いた。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




