(7)
「魔女は俺達に用があんだ!
だったらこっちから出向いて、全部片付けてやるって言ってんだ!
四人で散々調べて、グリフィンを見つけて……
西がおっかねぇって思わなくなるかもしれない、やっと掴んだチャンスだぞ!?
だのに大人しくしてろ!?
冗談じゃねぇ!行かせてくれよ!」
息が荒くなるジェドに未だカイルは黙ったままだが、戸口から身を離して彼と向き合う。
「そうかいそうかい」
レックスが肩を竦めて軽く宥めるも、その態度が余計にジェドを逆撫でする。
ジェドは矛先をレックスに変えた。
大切な事に気付くよりも、説得してみせるという意地が勝る。
「さっさと撃て」
ジェドは目を見開き、僅かに動揺しながらカイルに先端を戻す。
片足があとずさった。
「下ろせジェド」
ビクターの声にも未だ耳を貸さず、再び構え直す。
カイルは溜め息を吐くと、真っ直ぐ接近し始めた。
「来んなよ!」
レックスは片手を腰に当てて見守っていた。
四人は近付くカイルが怖くてみるみる引き下がっていく。
カイルはジェドからあっさり武器を取り上げ、頭頂部に拳を振り下ろした。
打たれた釘の如く床に落ちたジェドを、皆は見下ろす。
簡単に取り上げられた事に呆然としてしまった。
レックスはというと、必死に笑いを堪えている。
「それで守れるのか」
しかしその言葉は、拳の痛みを超えた。
荒々しい声で占めていた部屋が静まり返る。
雨音と、縫うように混じって聞こえる波の音。
火のように揺れない人工の青白い灯。
そこに真っ直ぐ立ちながら、優しくも確かに鋭い目を向けるカイル。
ジェドは俯いたまま、何も言わなくなった。
ビクターも、横で縮み上がるフィオとシェナも、何も言えなかった。
ただ黙りを貫いている内に、別の慌ただしい音が流れ込む。
同時に声までし始めると、駆け足の音が大きく押し寄せた。
グレンとマージェスだ。
御覧の通りと手を差し出すレックスを見て、彼らは状況に唖然とする。
散らばる武器に、カイルが手にするクロスボウ。
彼が四人と向き合う光景を目にするなり、二人は肩を大きく落とした。
マージェスは顔を険しくさせながら中に入ろうとしたが、レックスが遮る。
彼は微笑を浮かべながら、カイルに任せろと無言で告げた。
カイルは、すっかり小さくなってしまったジェドの前にしゃがむ。
「俺が魔女だったら、さっきのはどうだ。
やって退けられたか」
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




