(3)
「さてなぁ……
これが、魔女が欲しがる要素か……」
誰も、何も答えられなかった。
家族を亡くしている事情は、あの大規模震災を経験した者ならば珍しい事ではない。
漂流も、その後であればありえる事だった。
「何にせよ、魔女にあの子らはやらん」
マージェスがやっと口を開くと、暖炉に近付く。
何かを思い出している内に、すっかり手が冷えていた。
大雨が降る中、ジェドはビクターと合流する。
その後、フィオとシェナも追いついた。
「気付かれてないな?」
「多分。何なんだよ!殴りかけたぞ!」
「わりぃわりぃ」
ビクターはジェドの黒髪を雑に撫で、ついて来るよう促す。
「ねぇ!雷、落ちるんじゃない!?」
「空島へ行けるかしら?」
「バカ。丸腰では行かねぇよ」
ビクターは早足に漁船の倉庫に向かう。
近付くにつれ、ジェドの目が大きく見開いていく。
「何がある!?」
「そうだな……
槍だろ、ライフルだろ、照明と、あと何か剣みたいなの」
「剣!?」
それは恰好いい。
堪らなく欲しいと、ジェドの顔が輝いていく。
その傍ら、フィオとシェナは首を傾げる。
扱った事のない武器をどうしろというのかと、興奮する二人にただついて行くだけだった。
「まぁ他にも何かあるだろ!」
そう言うと、ビクターは急に駆けた。
雨で硬くなった砂が、力強く弾き飛ばされていく。
魔女の特徴はほとんど分からなかったが、細く、長い杖を持っていたそうだ。
だが、よく耳にしていたおとぎ話の様に、杖を使って呪文を放ったわけではないらしい。
「俺達が思ってるそれとは違うのかもな。
なんせ実態はあるんだ。
撃つか刺すかすりゃ、死ぬんじゃないか」
ビクターは言いながら、島で一番大きな建物である漁船の倉庫に来た。
ふと黙り、辺りに人の気配がないかどうか、目と耳をじっくり働かせる。
自分達しかいない真っ暗な空間には、雨音だけが低く鳴り響いていた。
「殺しちゃうの?」
シェナは目を丸くさせていた。
消えた蝋燭の煙を思わせるような、しかし真っ直ぐな問い掛けに、前を歩くジェドが眉を寄せて振り向く。
「生かしておけるかよ。
グリフィンをあんな目に遭わせたんだぜ?」
四人が忍び込んだここは、漁船が入る程の大きな倉庫。
しかし漁船自体は、浜に佇んだままになっていた。
雨が船体を叩きつける音も聞こえて来る。
木と雨と潮の匂いが混ざり合う倉庫には、浮き輪や救命胴衣、ボートもあった。
使えなくなったジェットスキーや船が解体され、金属類が纏めて置かれていたり、ゴム製品が木箱に納められている。
ジェドは、魅力的な工具に目が留まるとつい触りたくなるのを必死に抑えていた。
ビクターを先頭に縦一列になり、倉庫の壁沿いに足を忍ばせながら移動を続ける。
「殺しちゃいけないんじゃない?」
シェナの背後にいたフィオが溢した。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




