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*完結* 大海の冒険者~空島の伝説~  作者: terra.
第四話 決心 
33/133

(2)




 長老は深い溜め息を吐き、疲れを露わにする。

夜も更け、体は堪えるが、眠りにつける状態でもない。

すっかり歳をとってしまった。

昔は、こんな風に長い時間をかけて解決に導く事など慣れていたのに。




 「彼らはどういう子達なんです……?」




グリフィンが長老に問うと、漁師達が唸った。

その話もまた、長くなる。




「まぁ、懸命だし……勇気あるし……

怖いもん知らずさ」




グレンが宙で言葉を並べながら答えると、マージェスが続いた。




「やんちゃだ。とにかく手がかかる。

見ての通り、未だにな。

根っからの悪さではないが……」



「危険が過ぎるが、心はある……」




長老は、再び大きくなり始めた火を眺めた。






 四人。彼らの背景こそ、謎に包まれている。

こう穏やかに過ごす傍ら、話すべき事があってもそれができていない。

これは十分、逃げや甘えと言えるだろう。




 長老の視線は立ち上がる炎の先から、宙を彷徨う。

そこにぼんやりと浮かぶ彼らのこれまでを眺めては、静かに語り始めた。




「フィオの父親は病死だった……

母親は、もともと分からん……」




手は(おもむろ)に髭に触れた。

時を遡る目は、徐々に険しくなる。

不明瞭な彼女の背景に小さく首を傾げる事しかできない。

分からない事はない筈だというのに、分からない。

この島で生まれた子でありながら、誰の記憶にも、父親の病死しか残されていないのだ。




 「ジェドは父親に抱かれて漂流していた……

赤ん坊だった……」




その父親はどうしたのかとグリフィンが問えば、長老は首を横に振るだけだった。

いないのだから、言うまでもないだろう。




 だがマージェスが何かを思い出しているのか、瞬きも忘れて石のように動かなくなっている。

彼がそうなっている、否、なってしまう理由を、周囲は理解しているのだろう。

カイルが彼の背中を見て、下を向いた。




 「シェナも漂流者じゃが……

どこから来たか分からん……

分からんが、あの子の首や手、足には跡がある……

日焼けではない……時が経っても消えん……

本人も、名前すら覚えとらん……」




グリフィンは断片的に明かされる彼らの背景に、眉を顰める。




 「ビクターは、わしらがこの島に辿り着く前に拾った……立ち上がったばかりじゃったようでな……

何ならあの時に歩きだしたか……

そう思わせる足取りじゃった……

瓦礫の中を懸命に、周りを恐れず泣きもせず、

笑いながら……わしの腕に倒れ込んできた……」




眺め続ける火の奥で、その時が鮮明に思い浮かぶ。

未だに、手にその時の感触が残っていた。

温かいエピソードにも思えるが、奇妙な印象だった事も忘れられない。




「倒れ込んだんじゃよ……

まるで、何かに押されたように……

来るのも真っ直ぐでな……

わしや、今ここにおるもん達を目指して……

きっと両親は、あの日に死んでいる……」




瓦礫の山に変わり果てた都会の光景が、炎に消えた。









大海の冒険者~空島の伝説~


後に続く

大海の冒険者~人魚の伝説~

大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




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