(2)
長老は深い溜め息を吐き、疲れを露わにする。
夜も更け、体は堪えるが、眠りにつける状態でもない。
すっかり歳をとってしまった。
昔は、こんな風に長い時間をかけて解決に導く事など慣れていたのに。
「彼らはどういう子達なんです……?」
グリフィンが長老に問うと、漁師達が唸った。
その話もまた、長くなる。
「まぁ、懸命だし……勇気あるし……
怖いもん知らずさ」
グレンが宙で言葉を並べながら答えると、マージェスが続いた。
「やんちゃだ。とにかく手がかかる。
見ての通り、未だにな。
根っからの悪さではないが……」
「危険が過ぎるが、心はある……」
長老は、再び大きくなり始めた火を眺めた。
四人。彼らの背景こそ、謎に包まれている。
こう穏やかに過ごす傍ら、話すべき事があってもそれができていない。
これは十分、逃げや甘えと言えるだろう。
長老の視線は立ち上がる炎の先から、宙を彷徨う。
そこにぼんやりと浮かぶ彼らのこれまでを眺めては、静かに語り始めた。
「フィオの父親は病死だった……
母親は、もともと分からん……」
手は徐に髭に触れた。
時を遡る目は、徐々に険しくなる。
不明瞭な彼女の背景に小さく首を傾げる事しかできない。
分からない事はない筈だというのに、分からない。
この島で生まれた子でありながら、誰の記憶にも、父親の病死しか残されていないのだ。
「ジェドは父親に抱かれて漂流していた……
赤ん坊だった……」
その父親はどうしたのかとグリフィンが問えば、長老は首を横に振るだけだった。
いないのだから、言うまでもないだろう。
だがマージェスが何かを思い出しているのか、瞬きも忘れて石のように動かなくなっている。
彼がそうなっている、否、なってしまう理由を、周囲は理解しているのだろう。
カイルが彼の背中を見て、下を向いた。
「シェナも漂流者じゃが……
どこから来たか分からん……
分からんが、あの子の首や手、足には跡がある……
日焼けではない……時が経っても消えん……
本人も、名前すら覚えとらん……」
グリフィンは断片的に明かされる彼らの背景に、眉を顰める。
「ビクターは、わしらがこの島に辿り着く前に拾った……立ち上がったばかりじゃったようでな……
何ならあの時に歩きだしたか……
そう思わせる足取りじゃった……
瓦礫の中を懸命に、周りを恐れず泣きもせず、
笑いながら……わしの腕に倒れ込んできた……」
眺め続ける火の奥で、その時が鮮明に思い浮かぶ。
未だに、手にその時の感触が残っていた。
温かいエピソードにも思えるが、奇妙な印象だった事も忘れられない。
「倒れ込んだんじゃよ……
まるで、何かに押されたように……
来るのも真っ直ぐでな……
わしや、今ここにおるもん達を目指して……
きっと両親は、あの日に死んでいる……」
瓦礫の山に変わり果てた都会の光景が、炎に消えた。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




