(1)
「心配するなフィオ」
グレンは優しく彼女の背中に手を添える。
そこから染み渡る温もりは、いつも安心感をくれる。
彼もまた一人の父親のような存在で、両親がいない四人を我が子のように大切に育ててきた。
「任せとけ。必ず守る。命に代えてでも。
そもそもここの人間は皆、惨事を乗り越えた強い奴らだ」
「ああ生き残りの執着心とやらを見せてやる」
マージェスが笑ってみせた。
それが一体何なのかは分からないが、落ち込み、恐れ続けていては解決しない。
それだけは皆、身をもって知っている。
グレンは軽く鼻で笑うと、フィオとシェナの肩を優しく叩いてから立ち上がり、暖炉に向かった。
アリーは気付くと、慌てて薪を取りに奥へ消える。
その様子をぼんやりと眺めていたビクターは、床を這ってその場から離れると壁に凭れた。
それに三人が続くと、小声を立て始める。
「これでいいのかよ」
ジェドは話し合う大人達を見ながら言う。
「でも守ってくれるって」
シェナが言い返すが、フィオの考えは
「ここで魔女に会って島が危険なのはどうかと思うの」
それぞれの声を聞いている、ビクターは頭を掻くだけで何も言わない。
「行けるって。天気見て狙おうぜ!
雷雲なんか、すぐ見分けつくだろ」
天候の変化を読み取る事など、私生活では当たり前だ。
空島へ向かう方法は本の通りなのだからと、ジェドは自信満々の様子。
彼は、先程から不愛想なビクターの気を立たせようとする。
だが、ビクターのはっきりしない様子に小さくぼやくと、フィオが近寄る。
「道具どうする?
私達、今何も使わせてもらえないかも」
「倉庫行けばいい」
「どうやって入るの?」
シェナの発言を終えると同時に、ビクターが立ち上がった。
「止めろ」
三人は俯くビクターを見上げて固まる。
何故、怒ったような口振りをするのだろう。
これには大人達も振り返った。
「言う事聞いとけ」
真下の三人は堪らず目を剥いた。
どういう風の吹き回しだろうか。
彼にしてみれば異常な発言である。
だが、大人達は胸を撫でおろす。
しかしジェドがビクターを睨みながら立ち上がる。
「おま――」
「来い」
ビクターは俯いたまま、ほんの小さく囁いた。
掴みかかりそうになっていたジェドは、一気に冷静になる。
「さすがにおっかねぇ……
命かけて守るなんて言われたら、好き勝手できっかよ」
ビクターはこの状況を真摯に受け止めながら、低い声で言った。
大人もまた、手段に悩んでいる。
それだけ警戒すべき事態だと意識しながら。
そして誰かが何かを言う前に、彼はそのまま出て行ってしまう。
フィオとシェナが戸惑う中、ジェドは立ち去る彼の背中を見届け、そのままドアが閉まるのを待った。
その後、静かに佇む取っ手を見つめては
「おやすみ」
と、いつも通り挨拶をして颯爽と出て行った。
ジェドは、ビクターとは反対の道を早足に進む。
どうして急に置いていくのかと、フィオとシェナは慌ててジェドが開けたドアに飛び付き、彼と同じ挨拶を言い残しては二人を追った。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




