(7)
四人の目が大きく見開いた時、長老の咳払いがした。
「遊びではない。安易に選択するな……」
当然だと、カイルとレックスも四人に首を振る。
ここで長老は、改めてグリフィンを振り向かせた。
「魔女の悪戯とはいえ、こうして再び戻った訳じゃが……どう捉える……」
グリフィンは束の間、考えた。
人類の滅亡を望むのであれば、処分されても不思議ではなかった。
それをしなかった意味を探る内にふと、船の窓に現れた四人を思い出す。
「……囮」
刹那、突風が激しく音を立てた。
シェナが腹這いの姿勢から飛び上がり、耳を塞いで怯える。
隙間風が火を大きく揺らし、明かりが乱れた。
それぞれの影は、小さくなった炎の影響で暗さを増す。
「おとり……?」
カイルが目を顰める。
フィオがシェナの背に手を添えたまま、大人達を見上げた。
「我々の目を引こうと……?」
長老は考えた末、悟る。
そして、徐々に視線を四人に向けた。
ジェドは持っていた本を静かに閉じる。
鋭い彼は、可能性が一つ浮かんだ。
考えたくはないが、魔女は、自分達に用があるのではないか。
「何だ。じゃぁ喜んでだ」
更に察したビクターの軽はずみな発言に、マージェスが睨む。
「馬鹿野郎。行かさんぞ」
「俺らに用があんだろ?
行けば解決すんじゃねぇの――」
そこに被さるように、グレンが彼の肩を掴んだ。
「誰が」
いつの間にこちらへ移動したのか、しゃがんで目を合わせてくる。
肩を掴む手に力が込められていく。
込み上げる感情を抑えているのか、次の切り出しにまでに間があった。
三人は、グレンの背中からの怒気を感じ取る。
自分達も、言われているかのように。
「いいか、お前達は大事な家族だ。
得体の知れない奴に、誰が、はいどうぞと突き出すんだ?
頼む。考えろビクター……」
風が更に強まる。
小刻みに壁や屋根を打ち付ける音で、雨に気付いた。
張り詰めた空気の中、グリフィンが静かに息を吐く。
自分という餌の対象が仮にこの子達ならば、それもまた何故なのか。
「だが、このまま魔女を放っておけない」
グリフィンの言葉に長老も頷くが、如何せん対処が浮かばない。
相手は魔女で、使うのは魔法と呪いだ。
「わざわざ向こうへ人間を誘き寄せようってか?
あんたを利用して?変な奴だな全く!
欲しいなら向こうから来るべきだろう?
……いや、来ていらんが」
マージェスが腕組みをして唸る。
帰還したグリフィンも、魔女の次の行動は分からない。
魔女が求めるものがここにあるならば、この島に異変が起きてもおかしくない。
例えば西のような出来事が、起きてしまうというのか。
「一人で立ち向かっていた時とは違う。
武器も知恵も揃っているここに、機会はあると思いたい……」
グリフィンの言葉に大人達は頷くが、問題はどう守るかだ。
「でも魔法を使うんでしょ?」
フィオは、服の裾を強く握ると不安に息を呑む。
「魔法って、何でもできるんでしょ……?」
重い空気の中、激しい雨音だけが響き渡る。
小さくなった炎により薄暗くなる中、四人の曇った表情が浮き彫りになった。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




