(1)
ある晴れた午後。
働く人々は不意に顔を上げ、波の音に誘われ水平線を返り見た。
じわじわと黄金色の直線が広がると、幾つもの金の光が空へ昇る様子を捉えた。
昼間だというのに星を散りばめたような現象に、人々は魅了され、感動し合った。
「天使がのぼってるみたい!」
子どもの弾む声がころがり、また、大人達も日々の疲れが癒される程、美しいものだった。
しかし、それも束の間の幸せだった。
それから数日経ち、天候に違和感を覚えた。
雨ばかりが続き、澄み切った青空を最後に見たのは一体いつだっただろうか。
凍てつく潮風に、芯から身を震わせる日々。
海は荒れ、とうとう漁に出られず、食料の蓄えも尽きる手前にまできた。
陽光が射す日は一向に無く、植物が枯れ始め、虫や鳥の姿が消えた。
終いには、小さな命が鼓動を止めてしまう事態に陥る。
「もうどうしようもない…
わしらはまた、あの大惨事みたく海に呑まれる…」
島の長老が声を嗄らせ、呟いた。
その言葉を耳にした他の者は絶望し、トラウマになった出来事を思い出してしまうと、悲痛に襲われる。
そこへ、いつか見た空へ上昇する金の光を思い出した者が、表情険しく口を開いた。
「あの光を見てから環境がおかしくなっちまった。
ありゃあ一体何だったんだ!?」
焦燥混じりの声を聞き、周囲はその時の光景を思い出す。
「ただの自然現象じゃなかったって事なの…?」
子どもを抱えた女性が眉を顰める。
「天使が本当は悪い人で、私達の島をこんなんにしたのよ!」
1人の少女の発言を機に、次々と考えが飛び交い始めると、ある男性が切り出した。
「何でもいい。
とにかくあいつを見たせいで、生活がとんでもない事になっちまったんだ。
あの光が現れた場所まで行って、調べてみればいい」
周囲は青褪める。
荒海に逆らう事は死を選ぶに等しい。
「あなた死にたいの!?
これ以上仲間を失うなんて耐えられない!
馬鹿な考えはやめて!」
神経が磨り減る状況が影響し、女性が必要以上に嘆いてしまうのだが
「このままここで何もせずに死んでいくのを待つなら俺は、島や仲間の為に海を出て、命を懸けてでもあの光の正体をつきとめに行く」
言い出した彼は踵を返しながら放つと、去ってしまった。
大きく踏みしめられる砂浜に遺された足跡も、嵐で瞬時に消されてしまう。
雨音が轟々と鳴る部屋では、焚火が横殴りに靡いていた。
「このまま…ここに残っていても死ぬのか…」
誰かの囁きがより重い沈黙を生むと、長老は言う。
「東の島へ何とか辿り着こう」
当然、不安の声が後を絶たなくなるが
「それしかなかろう……
訳は知らぬが、ここよりもずっと静まっておるようだ……」
住民達は窓を微かに開き、東を向く。
言うように、天候が荒いのはこの島だけなのか。
そう思わせる程に、見ていて穏やかだった。
「賭けようじゃないか」
低い声で切り出したのは、薄髭を生やした茶髪の男性。
傾聴力ある彼はこれまで沈黙を貫いていたが、覚悟を決めた表情で切り出す。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します。