(4)
四人が改めて床に座ると、グリフィンの表情は真剣になる。
長老とアリーは彼の体力を心配する一方、やはりその身に起きた出来事もいち早く聞いておきたかった。
何せ、今でも信じられない状況に身を置き、酷い有様だった筈が逞しい人の姿になっているのだから。
グリフィンは暫く俯いて考えていたところ、ようやく顔を上げた。
「今から話す事は真実で、緊急事態である事を分かってもらいたい……」
先程とはまるで違う重い声で切り出されると、長老の目が徐々に険しくなる。
「他に同席できる人はいないだろうか……
長くなるし、多くの知恵や意見が必要だ……
助けてほしい……」
言われて直ぐに浮かぶのは漁師達だ。
「呼ぼうか?」
ジェドが中腰になって長老に声をかけた途端、ドアが開いた。
風に乗って、話し声がつらつらと入ってくる。
「蒸留を考えた奴は天才だがな、新時代の第一蒸留家は俺だ」
「そら結構だがな、何の保証もできんそいつを客人に出すのは止せ」
「腹を下す保証なら俺がしてやるよ」
「待ておい、冗談だろう!?
さっき飲んじまったじゃねぇか!」
グレンとマージェスが笑って現れる後から、レックスとカイルも見えた。
変わり果てた世界で酒が生まれるのは、どうもまだ先のようだ。
騒ぎも束の間。
彼らはグリフィンを目にするなり急に足を止める。
一体どこの誰だと顔を見合わせた。
「もう聞こえたのか」
長老の言葉に疑問を浮かべる彼らの手を、シェナが颯爽と取りに向かう。
そして、グリフィンの元に導いた。
「……まさか、同一人物か?」
カイルは驚きながらグリフィンの手を取る。
「西には術師がいたってのか?
イリュージョンとは言え、さすがにやり過ぎだぜ?」
ざっくばらんなレックスもまた、カイルに続いた。
グリフィンは、呆気に取られているグレンに手を差し出す。
これが本当にあの白い化け物かと言いた気な顔で、恐る恐る握手をする。
その後、マージェスがにこやかに続いた。
朧月が雲に覆われた。
島の頼りない灯が、どんよりとした寂寥を押し退けるように浮かぶ。
グリフィンの信じ難い話は、長く続いた。
夜が更けても、皆は眠気もよそに釘付けになっている。
誰も間に口出しをしなければ、立ち去る事もなかった。
しかし顔を歪めずにはいられない。
語られたのは、グリフィンがとうとう死んだと思った矢先に見た別世界の存在。
突如として海面に映し出されたそこに手を伸ばした途端、体が引き寄せられた。
浮上するごとに全身が金に発光し、抗えぬ速さで天に上昇した。
その感覚は、今でも肉体に刻まれている。
激しく吸い寄せられて辿り着いたそこは、竜の精霊が守り神として存在する空島と呼ばれる世界だ。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




