(19)
「何?それ。どこにあるの?」
長老が大きく目を見開く横で、シェナが訊ねるが、彼も知る由もないと首を傾げるだけだ。
「空ってんなら、空だろ」
ビクターが目だけで宙を見上げ、どういう訳かと肩を竦める。
「もしかしてそれが、おとぎ話の本?」
フィオは、よく大人達から聞かされてきた物語が、どんな風に存在するのかについて話してくれた時を思い出す。
その時、寝床の毛布が動いた。
その下に隠れていた腕が出てくると、4人は驚いた。
あんなに細くて白かった腕が、漁師達に似た逞しい姿になっている。
男性は閉じていた目に力を込めると、少し擦ってから徐々に瞼を開いた。
視界にぼんやりと映り込んだのは、温かい炎に照らされた天井。
何が起きているのかと僅かに横を向けば、複数の誰かがこちらを見ているようだ。
瞬きを繰り返す内に、彼等の輪郭が明らかになる。
そして、ぼんやりしていたところをカッと目を見張り、飛び上がるように身を起こした。
「皆は!?」
「ぎゃああっ!」
シェナの声に釣られ、後の3人も大きく後退る。
ドアや窓が風でギシギシと音を立てた。
長老はアリーと、少々仰け反ってしまう。
男性は、その場の状況に直ぐ違和感を覚えた。
知らない子ども達に老人、女性。
骨組みが丈夫な家に、立ち込める炎。
生活感が染み込んだ空間。
時が戻ったのだろうかと、僅かに思考が過ぎるのだが
「ああ………ああそうか…」
そんな訳がないと気が付き、額に手を当てる。
そして、この身に起きた出来事を急いで整理し始めた。
いつか、不思議な光を見て以来、荒天続きで死者が出てしまった。
じっとしていても埒が明かないだろうと、東へ辿り着こうと強行突破した事が仇になり、船が雷に打たれた。
そして皆、海に投げ出された。
あの時の皆はいる筈がないが、この温かい布や空間はどこだと言うのだ。
まさかあの世で、一時的に見ず知らずの者と対面しているのだろうか。
彼は俯いたまま急速に目を左右させながら、記憶を繋ぎ合わせていく。
長老は、そんな彼の様子を暫し眺めてから、伝えた。
「ここは東じゃ…」
耳を疑う発言に、男性は瞼を痙攣させる。
そしてジワジワと、顔をゆっくり長老に向けていく。
目が合うと、長老は訊ねた。
「名は………どこから来た……」
随分と生々しい声だと感じた男性は、額の手を下ろし、掌の開閉を繰り返す。
どうも現実のようだと悟ると、周囲にいる人々の顔と環境を目だけで見渡してから、言った。
「グリフィン……西に…住んでいた…」
ビクターが小さく彼の名前をなぞると、長老の膝元の本に視線を落とした。
明々と照らされた部屋には、火花が散る音だけが小さく響いていた。
大海の冒険者~空島の伝説~
後に続く
大海の冒険者~人魚の伝説~
大海の冒険者~不死の伝説~ をもって完全閉幕します




